【令和の百姓一揆 密着ルポ】"時給10円"コメ農家の悲痛な叫びを聞け!「わずかな手切れ金で先祖伝来の土地を渡せと。まさに棄農政治」

3月30日14時30分、デモ行進の開始を告げる法螺貝の音とともにトラクターが続々と車道に出ていく

【令和の百姓一揆 密着ルポ】"時給10円"コメ農家の悲痛な叫びを聞け!「わずかな手切れ金で先祖伝来の土地を渡せと。まさに棄農政治」

4月15日(火) 22:00

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3月30日14時30分、デモ行進の開始を告げる法螺貝の音とともにトラクターが続々と車道に出ていく

3月30日14時30分、デモ行進の開始を告げる法螺貝の音とともにトラクターが続々と車道に出ていく

コメの不足、価格高騰が問題となる中、生産者のコメ農家も利益を出せず離農する者が増え、限界を迎えているという。このままではコメを作る人がいなくなってしまう。そこで行なわれたのが"令和の百姓一揆(いっき)"。東京を中心に全国規模で行なわれたこのデモを取材し、日本の農家を取り巻く現状に迫った。

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■トラクター大行進! 快晴に恵まれた3月30日。東京・青山公園に"令和の百姓一揆"ののぼりが立ち並ぶ。広場いっぱいに集まった約3200人を前に、長崎・五島列島や岡山、山梨、千葉、茨城など―各地から集まったトラクター部隊のメンバーがスピーチを行なった。

「日本の食の未来は私たちがつくる」「農業が楽しいということを見せたい」「農家と消費者、みんながつながろう」と笑顔で話し、それぞれのトラクターへ乗り込んでゆく。その姿を見送りながら"令和の百姓一揆"代表の菅野芳秀(かんの・よしひで)さんがマイクを取った。

「ようやくこの日が来ましたが、今日はゴールではありません。政治信条の枠組みを超え、大きな連帯をつくり出す必要があります。そのためには対立軸で考えるのはやめましょう」

この日、デモに参加した国会議員も挨拶に立つ。れいわ新選組(櫛渕万里[くしぶち・まり]氏、大石晃子[おおいし・あきこ]氏ほか)、日本共産党(山添拓[やまぞえ・たく]氏ほか)、立憲民主党(篠原孝[しのはら・たかし]氏ほか)といった政党が並んだ。

一揆開始前にスピーチする菅野代表。当日、沿道の人も含めると4500人が参加した

一揆開始前にスピーチする菅野代表。当日、沿道の人も含めると4500人が参加した

出発の合図と法螺貝(ほらがい)の音が響くと、次々とトラクターが動き出した。その数、30台。かつてないデモの始まりだ。行進は大勢の観光客や若者であふれる青山から西麻布、広尾、渋谷、表参道、原宿を抜け、ゴールの代々木公園を目指す。5.5㎞の道のりだ。

トラクターにつけられたのぼりには「農業の時給は10円」「百姓は国の宝」「お米を守ろう」といった言葉が並ぶ。時にベンツも列に入りながら、都心の道を一緒に走る光景は不思議な気がするが、都会に暮らす人間こそ、食料を作ってくれる人がいなければ、真っ先に飢える存在だ。

"令和の百姓一揆"は農民を中心に日本の農業に危機感を持つ人が集まったデモだ。東京ばかりでなく、富山、奈良、沖縄など全国14都道府県で一斉に実施された。全国のデモの参加人数の合計は5500人。事前の反響の大きさに、事務局は会場である青山公園への入場制限も考えたという。



全国からトラクターを輸送する運賃や、のぼり、チラシ、会場費などの費用はクラウドファンディングで集めた。1月に開始すると、当初の目標だった100万円をあっという間に超え、デモ当日までに約1900万円が集まった。

「トラクターでの参加希望はもっとありました。ただ警察からの許可が30台までだったんです」(事務局スタッフ)

異常気象が毎年のように起こる中、欧州全域で農民による抗議デモが起こっている。

24年1月にはフランスでパリにつながる高速道路などが、500台余りの車両やトラクターによって、1週間封鎖された。燃料費や飼料代の高騰、安価な農産物の輸入に反対し、補償を求めたのだ。

だが日本では、農民(生産者)が声を上げることはあまりなかった。なぜ今、大規模なデモが起こったのだろうか。

■離農を勧める政策 菅野代表は「日本の農業は大変な局面を迎えています。崩壊局面と言ってもいい。そのことを多くの国民は知りません」と語る。

「今回が農民が立ち上がる最後の機会になると思いました。今、農民が消え、農民が作る作物が消え、村が消えているからです。

私は山形県の先祖伝来の土地で50年、百姓をしてきました。菅野農園は水田が5ha、放し飼いの自然養鶏を1000羽育てています。給食の残飯など地域の有機性廃棄物やクズ野菜を餌(えさ)に、ニワトリのふんを肥料にするなど地域で循環する農業を目指してきました」

会場の青山公園には各県ののぼりが並ぶ

会場の青山公園には各県ののぼりが並ぶ

10年前には菅野代表の集落40戸のうち30戸が農業をやっていたが、その数は10年で10戸まで減った。

「さらに数年で半分以下になるでしょう。『墓じまい』という言葉がありますが、私の周りでは『農じまい』が雪崩(なだれ)を打って増えています」

現在、日本の食料自給率(23年度)はカロリーベースで38%、主要先進国の中では最低水準だ。肥料や飼料など多くの生産資材を輸入に頼っていることを考えれば、さらに懸念は増す。



コロナのようなパンデミック、戦争、世界的な食糧危機が起こり物流が止まると、種や肥料が入ってこなくなるからだ。安定した食料生産を国内で可能にすべく、各国は急いでいる。だが日本ではコメ農家は「時給10円」。その厳しさから、離農が進む一方なのだ。

農家が困窮する原因は農産物、特にコメの価格が安すぎること。

海外では農家に対して国が「価格支持(国が価格を決めて買い取ること)+直接支払い」を堅持しているが、日本では両方とも手薄だ。また減反政策も相変わらず続いている。

日本の農業政策は何を目指しているのだろうか。

「政府は農業大規模化を推進するための補助金は出すけれど、従来の家族規模の農業には出しません。稲作は農作業ごとに違う機械が必要です。田植え機械、トラクター、コンバイン、乾燥機、もみすり機――それらの機械は数十万~数百万円する。機械が壊れても買い替えができず、離農する人が多いんです」

千葉県から来た酪農家の金谷雅史氏(中央)の音頭に合わせて盛大に声出しが行なわれた

千葉県から来た酪農家の金谷雅史氏(中央)の音頭に合わせて盛大に声出しが行なわれた

日本は山間部が多く、段々畑など狭い土地でも農業を行なってきた。また、増え続ける都市部の人口を賄うためにも小規模農業は欠かせない。大規模農業に転換すれば済む話ではない。

「大規模だと機械化でき、人手がいらないといいますが、つまりは農薬や化学肥料などケミカル依存の農業です。有機農業を目指す海外の流れとも逆行します。使用する機械もものすごく高額で、農地を集約するから農民の数は減る。

国内のコメ農家の意欲をそぎ、離農させ、農業法人による大規模農業を残し、海外の輸入米を拡大しようというのが、現政権の政策なんです。今は農地を公的な機関に預けて離農すると"離農奨励金"(地域集積協力金)が支払われるんですよ(10a当たり数万円)。わずかな手切れ金で先祖伝来の土地を渡せという。まさに棄農政治です」

■日本人が飢える!? 国内でコメ不足が問題になる中、輸出米は年々増えている。24年の日本産米の輸出量は約4万6000tで、20年の倍以上、政府が掲げる2030年の輸出目標(35万t)の約13%に達した。

「農林水産省は自らの政策の間違いを認め、転換すべきだ」と語るのは当日会場に駆けつけた東京大学特任教授・鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)氏だ。

鈴木氏に取材をしていると、通りがかった多くの参加者が、鈴木氏に声をかけ、写真を一緒に撮っていく。全国で農業についての講演会を開いている鈴木氏は、よく知られた存在なのだ。



「日本の農業は危機的です。農家の平均年齢は68.7歳で(2023年)、10年後にどれだけの人が農業を続けていられるか。これからの5年が日本の農業を守れるかどうかの正念場だと思います。

農水省はコメ不足を流通のせいにしてきましたが、悪いのは間違えた政策をやってきた農水省自身ですよ。この期に及んでもコメ不足を認めず、『輸出用米を作るのなら、補助金を出す』と言っている。国内のコメ不足は明らかなのに、逆でしょう?

第1次トランプ政権のとき、茂木(もてぎ)敏充経済再生担当大臣(当時)は自動車産業を守るために、牛肉と豚肉の輸入関税を譲歩してしまい、国内の畜産農家は大打撃を受けました。

今回も、政府は自動車関税での特例を懇願するためにアメリカにコメと乳製品の輸入関税の譲歩を生贄(いけにえ)に差し出しかねません。そうなったとき、もしも輸入がストップしたら日本人は飢えますよ」

■10年後の食料自給率 政策の転換を訴えるのはもちろんだが、ほかにできることはないのだろうか。鈴木氏の新刊『食の属国 日本 命を守る農業再生』(三和書籍)では農水省のデータを使って、2035年の食料自給率を計算している。物流が止まったり、異常気象などで外国が輸出規制をかけたりした場合など、危機的状況下のリスクを勘案して、食料自給率を計算したものだ。

「国内の牛肉、豚肉、鶏肉なども輸入飼料に依存していることを考慮すると、食料自給率はそれぞれ4%、1%、2%にまで落ちてしまう。野菜の種も同じく4%まで下がる可能性があります。

今は国産率97%(20年度)のコメも、農業の担い手が減り続ければ、自給率は10%になるかもしれません。そうなると、35年の日本人は飢餓に陥るかもしれない。薄氷の上で暮らしているとわかりました」

青山公園から一度南下し、明治通りを北上し、渋谷の駅前に入ってくるトラクター行進

青山公園から一度南下し、明治通りを北上し、渋谷の駅前に入ってくるトラクター行進

ぞっとする数字だが、令和になってコメ不足、価格高騰が始まっている今、絶対にないとは言い切れない。

「『飢えるか、植えるか運動』と言っているのですが、誰もが農業をやるべきです。郊外へ行けば耕作放棄地があるし、ベランダ栽培でもいい。

生産者さんに頑張ってもらうだけでなく、自分たちで命を守るというローカルな取り組みが大事です。同時に都市で暮らしている消費者と産地の生産者が連携できれば、大きな循環の輪が生まれます。

政策を変えていくのも大事ですが、自分たちで地域内に自給圏をつくれれば社会が強くなる。今日、農家と消費者が集まって問題意識を共有できたことに希望を感じました」

表参道を原宿方面に進み神宮前交差点に入ってきたデモ行進。最前列右端は立憲民主党の川田龍平参議院議員、その隣は山田正彦元農林水産大臣

表参道を原宿方面に進み神宮前交差点に入ってきたデモ行進。最前列右端は立憲民主党の川田龍平参議院議員、その隣は山田正彦元農林水産大臣

デモが終わった後、菅野代表に声をかけた。



「今日で終わらず、これからも継続的に農業について考え、語り合う機会をつくりたいですね。われわれだけが食える日本をつくればよいのではなく、未来の世代に農業の可能性と資源を残さなくてはなりません」

「百姓」という言葉は、本来はさまざまな姓を指し、庶民一般を表していたという。"令和の百姓一揆"の現場には、個人として参加した幅広い年代の人たちが集まっていた。農業政策のあり方と自分たちの農的な生き方、その両方について、誰もが考える時期が来ているようだ。

●菅野芳秀 Yoshihide KANNO

1949年生まれ、山形県出身。大正大学地域構想研究所・客員教授および地域支局(山形県長井市)研究員。大学卒業後、労働運動への参加などを経て、帰郷し父の後を継ぎ、百姓となる。水田の単作経営を経て、自然卵養鶏を軸に、水田、自家用の野菜畑との有畜複合経営を開始する。著書に『七転八倒百姓記地域を創るタスキ渡し』(現代書館)、『生きるための農業 地域をつくる農業』(大正大学出版会)など

●鈴木宣弘 Nobuhiro SUZUKI

1958年生まれ、三重県出身。経済学者。東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授。FTA産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員、財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員、コーネル大学客員教授などを歴任。著書に『農業消滅』(平凡社新書)、『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書)など

取材・文/矢内裕子撮影/幸田 森

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