「コープと一体化した駅」がある個性派ローカル鉄道を巡ってみた。2027年末休止方針で鉄道ファンが集結

弘前学院大前駅

「コープと一体化した駅」がある個性派ローカル鉄道を巡ってみた。2027年末休止方針で鉄道ファンが集結

4月13日(日) 23:52

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燃料や設備管理にかかるコストの高騰、人件費の上昇などで苦しい経営を強いられている鉄道業界。コロナ禍で激減した利用客は回復してきたとはいえ、以前の水準には戻っていない。

特に深刻なのが規模の小さな地方の私鉄や第三セクター鉄道。なかでも青森県弘前市を拠点に2路線を持つ弘南鉄道は、このうち中央弘前―大鰐間の13.9㎞を結ぶ、大鰐線を27年度末で休止する意向を示している。

しかも、雑誌の休刊が廃刊と同義語であるように、こちらも再開を前提としていない事実上の廃止だ。

そこで大鰐線に乗るべく弘前へ向かった筆者。このローカル私鉄で沿線を巡ってみることにした。

まるで時間が止まったかのようなレトロな雰囲気の中央弘前駅

訪れたのはまだ雪深い2月上旬。大鰐線が発着する中央弘前駅は、JR弘前駅から1㎞ほど離れた場所にある。弘南鉄道のもう1つの路線の弘南線は弘前駅から出ており、途中駅でも交わることがない。同じ鉄道会社が運営する路線としてはかなり珍しいケースだ。

その理由は、もともと大鰐線が弘前電気鉄道という別の鉄道会社が運営していたから。同じ地域にあっても鉄道会社ごとに離れた場所に駅があるのはよくある話だが、つまりはそういうことらしい。

ただし、中央弘前駅があるのは街の中心部……のはずだが、駅舎は昭和感満載。昔の映画館のようなレトロモダンな外観とも言えるが、まるでタイムスリップしたのかと錯覚するほどだ。実は、一部改築こそされているが、建物自体は開業した1952年当時のものを使用しているらしい。

そんな中央弘前駅の周辺には、鐘塔が印象的な弘前昇天協会、かつての酒造工場を再利用した弘前れんが倉庫美術館といったレンガ造りの建物が並ぶ。

さらに駅から徒歩7~8分の場所には、本州最北にして“東北一の美塔”と紹介されている国の重要文化財の最勝院五重塔もあり、観光名所が集まっているようだ。

見覚えのある車両は、東急で走っていた車両だった!

次の弘高下駅までは歩いて10分ほどだったので、そこから列車でいったん中央弘前駅に戻り、折り返しの列車に再び乗車。

弘南鉄道の2つの路線で使用するデハ7000形という車両は、もともと東横線や田園都市線など東急の各路線で走っていた東急7000形。

引退後に一部の車両が譲渡されたのだが、地方の鉄道会社ではJRや大手私鉄の引退した車両が未だ現役として活躍しているケースは珍しくない。現に見覚えのある車両だったため、こういう場所で再会できるのはちょっと嬉しい。

なお、列車は基本的に2両編成。車内を見回すと、ほかとは形の違うハート形のつり革を発見。複数の鉄道会社で同様のつり革は設置されているが、弘南鉄道の場合は1両に1個だけ。でも、それ以外の普通のつり革もよく見ると、沿線が一大産地となっているリンゴをイメージしたデザインになっていた。

そして、筆者が次に降りたのは弘前学院大前駅。スーパーのコープ(生協)と一体化している同駅の近くには、これまた国の重要文化財の弘前学院外人宣教師館があり、こちらを見学。弘前は第二次大戦中、空襲の被害がなかったため、市内にはこうした洋館が数多く残されているのだ。

再び列車に乗り、今度は大鰐線のほぼ中間に位置する津軽大沢駅へ。

この駅は車両基地が隣接しており、いろんな列車が並んでいるのを間近に見ることができる。デハ7000形をはじめ、同じく東急から譲渡された一世代前のデハ6000形、1923年製造の電気機関車ED33があり、熱心に車両を撮り続けている若い鉄道ファンもいた。

話を聞くと、彼も27年度末で休止のことをニュースで知ったらしく、「以前から大鰐線を乗りたいと思っていて、有休を取ってきちゃいました(笑)」とのこと。

この日は平日だったが、ほかの駅や車内にも明らかに鉄道ファンと思われる者がチラホラ。皮肉にも休止報道が鉄道ファンを呼ぶPRになってしまったようだ。

終点の大鰐は温泉地。外国人観光客も少ない穴場

同じ鉄道を愛する者同士、しばらく鉄道談義に花を咲かせていたが、その後筆者は隣の義塾高校前駅まで徒歩で移動。大鰐線は各駅の間隔が短く、それほど時間をかけずに行くことができる。

それにこの区間はリンゴ畑が広がっており、のんびり歩くにはちょうどいい。季節的に雪で覆われていたが、振り返ると津軽のシンボル岩木山がキレイに見える。幸い気温が比較的高かったこともあり、ちょうどいい散策になった。

義塾高校前駅からは列車で終点の大鰐駅に。JR大鰐温泉駅との乗換駅になっており、その名前からわかるようにここは温泉地。駅前には大きなワニのモニュメントと無料の足湯がある。

この日は現地に1泊し、宿や数か所ある公共浴場を湯めぐりして大満足。昔ながら温泉街という雰囲気で、このご時世にもかかわらず外国人観光客はあまり見かけなかった。

大鰐線はその気になれば数時間で歩ける短い路線で、沿線には観光名所や温泉もある。利用客の大半は学生などの地元客だが、旅行での利用にもよさそうだ。

休止まではまだ2年近くの猶予がある。旅行などで訪れる機会があればぜひ大鰐線に乗ってみてほしい。ローカル線ならではの雰囲気も堪能でき、きっと満足してもらえるはずだ。

<TEXT/高島昌俊>

【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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