グリズリーズHCの突如の解任劇に、河村も驚きを隠せなかったphoto by Getty Images
後編:河村勇輝のGリーグ終盤戦ルポ
河村勇輝が2ウェイ契約を結ぶメンフィス・グリズリーズのテイラー・ジェンキンズヘッドコーチ(HC)が突如解任された。明日どうなるかわからない厳しい世界であるとはいえ、NBAプレーオフを目前にした時期でのHC解任劇は、リーグ中に驚きを与えた。
河村は、自身の現在地に道標をつけてくれたHCだっただけに感謝の意を示す一方、明日何が起こるかわからない環境のなか、常に自分自身を適応させていくことの必要性をあらためて感じることに。それは残りのNBAシーズンのみならず、オフのサマーリーグや日本代表活動も含めたスパンで思いを巡らせている。
前編:河村勇輝が経験した「バスケットをやってきたなかでワーストゲーム」
【突然のHC解任劇に「これが本当にNBAの世界」】3月28日、メンフィス・グリズリーズに激震が走った。2019年からヘッドコーチ(HC)としてグリズリーズを率いてきたテイラー・ジェンキンズが解任されたのだ。クビになったこと以上に、プレーオフに向けてシード順を争っている最中、レギュラーシーズン残り9試合というタイミングでの出来事だったことがリーグ中を驚かせた。ジェンキンズがHCに就いていた6シーズン弱でのレギュラーシーズン成績は250勝216敗、勝率53.6%。去年11月には通算勝利数でグリズリーズ史上最多勝利ヘッドコーチとなったばかりだった。
このニュースには、河村勇輝も驚いた。
「びっくりです。特にプレーオフ直前に......。何が起こったかは僕もわからないです。ザック(・クレイマン)GMが決断していることなので、彼にしかわからないことではあると思うんですけど。
まぁ、これが本当にNBAの世界。6シーズン、ずっとグリズリーズを引っ張ってこられた監督が急にいなくなるっていうのは、これが本当にNBAの厳しさを表わしているというか、そういった世界に自分がいるんだなというふうにあらためて思います。プレーヤー、監督関係なく、結果が出なかったらいつでもそういった形になるんだなって思っています」
ジェンキンズコーチに対しては、感謝しかないと河村は言う。
「彼がプレシーズンの試合で僕を使ってくれて、あそこで結果を残したことが2ウェイ契約につながったと思うし、彼がHCであったからこそ僕が今、このNBAにいられると思っているので。(グリズリーズの試合で)前半に出られたのは1試合しかなかったですけど、それでも、それ以上にこの場にいられることは当たり前のことじゃないし、その機会を作ってくれたのは間違いなく彼なので、感謝しかないです」
【ビーコルとの縁と予想される攻撃システムの変更】
今シーズンの河村に大きな影響を与えたジェンキンズ前HCphoto by Getty Images
一方、ジェンキンズ解任後、暫定HCに昇格したトゥオマス・イーザロは、古巣、横浜ビー・コルセアーズの現HC、ラッシ・トゥオビと同じフィンランド出身。そんな縁もあり、去年秋、グリズリーズに入った直後から言葉を交わしていた。
「すごくいい人です。フィンランドの方で、メンフィスに入ったときはラッシHCの話題で盛り上がりました。去年(グリズリーズに加わる前には)、ユーロカップ(ユーロリーグの下部的な大会)のパリ(パリス・バスケットボール)でヘッドコーチされていたと聞いています。(気持ちを)切り替えないといけないですけど、彼がコーチしたときにどういったバスケットになるのかというのは、純粋に楽しみです」
今季のグリズリーズのオフェンスシステムはイーザロと、別の育成担当アシスタントコーチ(AC)、ノア・ラローシェのアイディアを軸に組み立てられたものだった。ただ、ハーフコートではヨーロッパでピック&ロール
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を多く用いていたイーザロのシステムとは違い、オンボールの(ボールを保持する選手に対してセットする)スクリーンはあまり行なわず、パスとカット、オフボールの動きを活かしたラローシェのオフェンスだったため、ピック&ロールを得意とする河村にとっては、そのこともチャレンジのひとつだった。ジェンキンズの解任とほぼ同時にラローシェも解任されていることから、今後、グリズリーズはピック&ロールをより多く用いるのではないかとも言われている。
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ボールを保持する選手の自由度を増すために、味方の一人が壁となりボール保持選手をマークする選手の動きを遅らせることから展開する基本的な攻撃方法
「レギュラーシーズン最後の2週間になって大幅にスタイルを変えるっていうのはリスクもあると思うんで、どうなるかは正直読めませんけど、仮にピック&ロールを主体とするようになるのであれば、これまでピック&ロールを強みにしてきた自分にとってはいいことだと思います」と河村。
正直なところ、レギュラーシーズンの最後まで激しい順位争いが続きそうなグリズリーズにおいて、河村に出場機会が与えられるとはあまり思えないが、それでも、このコーチ交代は、グリズリーズが河村に来季の契約をオファーするかどうかにも影響があるかもしれない。
【「アジャストメントの経験を生かして夏の代表活動にも」】シーズン終盤でのコーチ交代や、シーズン途中のトレードでの選手入れ替え。日本ではなかったことばかりだ。この1シーズン、NBAやGリーグにいたからこそ経験できたことはいろいろあるが、こういった変化があったときに短期間での適応を求められることも、そのひとつだった。
Gリーグはもちろん、NBAでも、長い期間、同じメンバーで繰り返し練習し、熟成させてチームを作り上げるような理想的な状況は滅多にない。だからこそ、適応力が重要になる。そのことも、今シーズンに成長できたと感じているひとつだと河村は言う。
「チームの状況もありますし、コーチに求められていることも試合によってまったく変わってきます。そういった意味では、アジャストする能力っていうのは、この1シーズンですごく成長できたんじゃないかなと思います。
そうやってアジャストするためには、幅広く何でもできるようにならないといけないと思っていますし、すべてにおいて質を高くできないと、Readyにして(準備を整えて)おかないと、アジャストメントは難しくなるんじゃないかなと思うんで。今年の夏は、そこの質をより高められるように、ワークアウトや体づくりに励んでいければいいなと思っています」
今後、夏には、さらに短期間での適応力が磨かれ、試されることが待っている。
ひとつはNBAのサマーリーグ。もうひとつは日本代表でのアジアカップ出場。河村はこの夏、その両方をやりたいと明言している。サマーリーグは、レギュラーシーズン以上に短期間でチームに求められていることを発揮し、見せなくてはいけない場。そして、サマーリーグに出るということは、日本代表の合宿には途中からの参加になるということ。どちらも、高いレベルでの適応力を求められる。
「サマーリーグに出たいっていう気持ちがあったり、NBAでプレーしたいのであれば(日本代表の)夏の合宿に最初から合流することは難しいかなと思っています。ただ、こういったGリーグやNBAでのアジャストメントの経験を生かして、それを代表(活動)にもつなげていければいいなと思っています」
アメリカ1年目、新しい環境で毎日チャレンジし続け、成長してきた河村。チャレンジの日々は、シーズンが終わってからも続く。
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