岩井俊二監督の長編デビュー作「Love Letter」の日本公開30周年を記念し、4月4日から全国の映画館で、4Kリマスター版が上映されている。東京・TOHOシネマズ日比谷で行われた初日舞台挨拶には、岩井監督をはじめ、出演する豊川悦司と酒井美紀が登壇。いまなお色あせない恋愛映画の金字塔である本作、そして、昨年12月に急逝した主演・中山美穂さんへの思いを語った。
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【フォトギャラリー】舞台挨拶に立った豊川悦司と岩井俊二監督
●岩井俊二監督、中山美穂さんの死去は「いまだに受け止めきれていない」
岩井監督は「(昨年の)年末に中山美穂さんが天国に行ってしまいまして、急なことで衝撃でしたが、いまだに受け止めきれていない」と、いまも驚きと悲しみの中にいる胸中を吐露。「去年の11月頃には、一緒にロケ地の小樽をめぐりたいと話していた。美穂ちゃんも今年がデビュー40周年で、一緒に何かできればと言っていた矢先の出来事で、本当に残念」とも明かし、悔しさをにじませる。
今回、公開された4Kリマスターに際する作業については「映像を直視するのも、何とも苦しいところだったが、美穂ちゃんに喜んでほしくて今日に間に合わせました」と思いは格別。「僕にとっては、初の長編映画で当時は、正直『これで失敗したら、映画の仕事はない』というプレッシャーもあった。小樽の夜に、飲まされ過ぎて、翌日の演出を助監督だった行定さん(行定勲)にやってもらったことも」と思い出を振り返った。
中山さんの出演を推したのは、プロデューサーの1人である河井真也氏で「いままで、美穂さんはコミカルな役が多く、しっとりした役はやってこなかったが、実際にお会いすると、(中山さんが演じた)渡辺博子タイプだった。同時に藤井樹も演じられると思った」と述懐。当時、中山さんからは「私、あんまり映画は好きじゃない」と言われたそうで、「なので、僕も映画は初めてだし、ぜひ一緒に映画作りをして、終わる頃には、映画を好きになっていればいいですねって。現場では、思惑通りの演技をしてくれた」と話していた。
●豊川悦司「僕の中で『Love Letter』は美穂ちゃんの映画」
秋葉茂を演じた豊川は、「今日、僕の横には中山美穂さん……、今日は美穂ちゃんと言わせてもらいますが、美穂ちゃんがいなくて、とても残念な思いです」と神妙な面持ち。「僕の中で『Love Letter』は美穂ちゃんの映画。その演技がいかに素晴らしいか、見届けてほしいですし、何度も見てもらうことで、より大切な宝物に育ってほしい」とファンに希望を託した。
現場での思い出にも触れ「多分、この現場で“はじめまして”だったんですけど、ガラス工房で初めてお会いしたら、美穂ちゃんが『豊川さん、お待ちしておりました』と言ってくれて。思いも寄らぬ気配りで、すごく繊細なハートを持っている人だと思った」と明かす。
映像美に定評のある岩井監督、さらに強いこだわりで臨む撮影監督の篠田昇氏を擁する現場は「12時間待つこともあった」といい、「でも、待っている間、交わした言葉は2~3個だった」。それでも、「彼女と現場で仕事するのが楽しかったし、彼女も『Love Letter』の現場を愛していた」と振り返り、「間違いなく中山美穂の代表作だし、『Love Letter』以前以後で、彼女の仕事に対する考え方も変わったんじゃないかなと思う」と思いを馳せていた。
●酒井美紀「中山美穂さんに憧れて、女優になりたいと思った」
当時16歳だったという酒井は、少女・樹を演じ、俳優デビューを飾った。「中山美穂さんに憧れて、女優になりたいと思った」そうで、「そんな私の記念すべきデビュー作で、憧れの中山美穂さんとご一緒し、しかも同じ役だなんて、本当に光栄だった」と誇らしげに語った。
ストーリーの設定上、共演シーンはなかったが、小樽で対面する機会に恵まれた。「たまたま同じ日に撮影があって、ロケバスの中でお会いした。本当に舞い上がってしまったが、ミーハーな気持ちを出してはいけないと、一生懸命に挨拶した。もう、まぶし過ぎて見えないくらい美しかったです」と声を弾ませ、本作については「私の原点であり、大切な宝物。いまも海外に行くと『お元気ですか?』と声をかけられる」と深い思い入れを示していた。
●「ここで終わりではなく、魔法を放ちながら、進んでいってくれると思う」
舞台挨拶も終盤に差し掛かると、岩井監督は「30年経って、スクリーンによみがえるなんて、不思議な魔法にかかったような、『Love Letter』という船にずっと乗っているような感覚」としみじみ。改めて「美穂ちゃんは亡くなってしまったが、この縁(えにし)となった細い糸が、僕らと天国の美穂ちゃんをつないでくれている」と哀悼の意を示し、「ここで終わりではなく、魔法を放ちながら、進んでいってくれると思う。映画が30周年ということは、映画監督としてのキャリア30周年でもあるので、これからも頑張って、縁が末永く続いてくれれば」と決意を新たにしていた。
本作は日本公開後、20カ国以上の国と地域で公開。1999年に韓国で初公開された際には140万人を超える動員を記録した。豊川は「評価を受けて、いろんな国をひとり歩きしてくれるのが、映画のすばらしい一面」だと語り、「作ったのは僕らですけど、『Love Letter』という映画が、ちゃんと育って、歩いて、いろんな人たちと出会ってくれている」と胸を張っていた。
【作品情報】
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Love Letter
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