『アンジェントルメン』
3月31日(月) 3:00
007のモデルになった人物も登場する、実在したイギリス特殊部隊の活躍を描く『アンジェルトルメン』が4月4日(金)、日本公開される。時代は、ナチス・ドイツの潜水艦Uボートが大西洋を恐怖の渦に巻き込んでいた第二次世界大戦中。事態打開のために、イギリス首相チャーチルが非合法のタスクフォースを送り込む。ジェームズ・ボンドのように紳士的ではないが、ボンド以上にすご腕の男たち。彼らが仕掛ける大胆極まりない作戦──久々の正統的戦争スパイアクションの登場です。
『アンジェントルメン』『ミッション:インポッシブル』をはじめ、チームによるスパイアクションには、フォーマットというか、定石がある。
(奇想天外な)企て──(専門家を無理矢理集め)チーム編成──(強引に)ミッション着手──(思わぬところで)トラブルの発生と解決──(奇跡のように)遂行。そんなお約束をどう段取りよく設定し、描いていくかに成否がかかる。
この映画は、そのあたり、できすぎのような段取りのよさとテンポのよさで、ぐいぐい魅せてくれる。
時代は第二次世界大戦中の1942年。開戦からナチス・ドイツは優位にたち、ヨーロッパの陸と空を手中におさめつつある。海も、神出鬼没の潜水艦Uボートにより、北大西洋はドイツの支配下に落ちそうな形勢だ。
そんななか、英国首相チャーチルを中心に、あるミッションが企てられる。Uボートの補給基地を襲い、燃料や爆薬、潜水艦に必要な空気清浄装置の輸送ルートを断つという、名付けて「オペレーション・ポストマスター(郵便局長)」。これにより、Uボートを無力化できる計画。基地は中立国のスペイン領にあり、正規軍は手を出せない。そこで集められたのが、非合法のチームだ。
リーダーはガス・マーチ=フィリップス少佐。彼こそが「007」シリーズのジェームズ・ボンドのモデルといわれる、命令を聞かない、軍でも札付きのワル。さらに、作戦組み立てのプロ、デンマークから怪力の武闘派、爆破の専門家、一流航海士がチーム。これに、通信のエキスパートと、紅一点、射撃の名手にして妖艶な女性スパイが別働隊で加わる。
敵陣に潜入すると、シューティングゲームのように、ナチスの兵隊がつぎつぎと倒れていく。そして、奇想天外な作戦が実行されるが、もちろん、作戦に危機がおとずれるのもお約束。あわやというところで……。
メカあり、お色気ありの、スパイアクションの王道のような展開だ。
メンバーは(全てではないが)実在の人物だという。実行部隊だけでなく、チャーチルの下で、ミッションをプランニングするのも、イギリスに実在した、SOEと略称される秘密チーム(特殊作戦執行部)。そのトップは、007シリーズと同様、"M"というニックネームで呼ばれるガビンズ准将。その部下が、同シリーズの原作者であるイアン・フレミングである。ふたりは実名で登場する。つまり、この話は、実話をもとにしていて、さらにいえば、あのジェームズ・ボンド誕生のルーツなのだ、というのが、この映画のウリである。
原作は、ダミアン・ルイスの『Churchill's Secret Warriors 』。近年機密解除された戦時中の極秘ファイルをもとにした小説。それを、『トップガン』『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの伝説的プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーが、『オペレーション・フォーチュン』のガイ・リッチー監督を起用して映画化した。
主人公のガス少佐を演じるのは、へンリー・カヴィル。ダニエル・クレイグが6代目ボンドになったとき、オーディションで最後の2人まで残っていたというアクション俳優。なにか因縁めいている。
007だけではない。観ているとさまざまなスパイ映画、戦争アクションの名作を思い出させてくれる。リー・マーヴィンが軍の刑務所に収監されたワルたちとチームを作る『特攻大作戦』、クエンティン・タランティーノがブラッド・ピットと組んだ『イングロリアス・バスターズ』、エーゲ海の要塞を攻略する『ナバロンの要塞』などなど。流れる音楽も、エンニオ・モリコーネに似た感じ。『カサブランカ』のセリフのもじりまででてくる。
こういう無邪気なドンパチ映画は久しぶり。善悪ははっきりしているし、上映時間も2時間ぴったり。だれることなく、最後まで突っ走ってくれる。文句なし、です。
文=坂口英明(ぴあ編集部)
【ぴあ水先案内から】
植草信和さん(フリー編集者・元キネマ旬報編集長)
「……どこを輪切りにしても、リッチーのフレミングと「007」へのオマージュにあふれた戦争映画なのだ……」
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