阪元裕吾監督&久野遥子監督、TOHOシネマズ学生映画祭でエール!学生時代の映画作りは「かけがえのない時間」

観客を喜ばせるためには「ワンダーとシンパシー」が大事だと語った

阪元裕吾監督&久野遥子監督、TOHOシネマズ学生映画祭でエール!学生時代の映画作りは「かけがえのない時間」

3月28日(金) 2:30

今年で18回目を迎える「TOHOシネマズ学生映画祭」が3月27日にTOHOシネマズ日比谷で開催。「ショートフィルム部門」「ショートアニメーション部門」「プロモーション部門」「U-18期待枠」の合計19作品が上映され、各賞が決定した。
【写真を見る】若き才能にエールを送った「べイビーわるきゅーれ」シリーズの阪元裕吾監督

TOHOシネマズ学生映画祭は、映像制作に興味を持つ学生たちに活躍の場を提供し、映画・映像産業の将来を担う若き才能を発掘することを目的として、有志の大学生が中心となって運営している映画祭。学生と企業が両輪となり、“プロになるための登竜門”となるような魅力的な映画祭を目指して開催を重ねている。過去の受賞者には、『ペンギン・ハイウェイ』(18)の石田祐康、『やがて海へと届く』(22)の中川龍太郎、『とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー』(21)の見里朝希など、現在活躍中のクリエイターが名を連ねている。

南井洋人監督の『MABU』がTOHO Animation賞を受賞した

今年の同映画祭に寄せられた作品応募数は歴代最高となり、ショートフィルム、ショートアニメ、プロモーションの3部門が上映された。ショートアニメーション作品のなかから1作品に贈られるTOHO Animation賞に輝いたのは、『MABU』(南井洋人/聖徳学園高等学校)。小人の世界を舞台に、外の世界を知らない少年MABUと、過保護な保護者赤鬼による一夜の旅の物語を描く。ステージに上がった南井監督は「こんなにステキで、優美で、闊達な作品たちのなかで、僕の作品を選んでいただけて本当にうれしく思います」と感無量の面持ち。

マンモス計画による『ジョセリン・ラン・デブ』がGEMSTONE賞を受賞

全上映作品のなかから1作品に贈られるGEMSTONE賞に選ばれたのは、自身の命を絶つために集まった2人の男による恋のランデブーをつづる『ジョセリン・ラン・デブ』(マンモス計画/京都精華大学)。マンモス計画監督は、「賞をいただけるとは思っていなかった」と驚きつつ、「とてもうれしいです。ありがとうございます」と感謝の言葉を寄せた。

飯島偲文監督の『超覚人〜LEGACY RIFT〜』がROBOT賞を受賞

同じく全上映作品のなかから1作品に贈られるROBOT賞を受賞したのは、かつて戦争のために生みだされた、鋭い超感覚を持つ“超覚人”の生き残りである兄妹を主人公としたアクション映画『超覚人〜LEGACY RIFT〜』(飯島偲文/東京工芸大学)だ。「『超覚人〜LEGACY RIFT〜』の脚本、監督、主演を務めました」と挨拶した飯島監督は、「いままで一人や少人数で作ることが多かったんですが、今回は思い切ってステキなスタッフの方に声をかけて、いろいろな人に観てもらい、評価していただき、うれしく思います」と喜びをにじまた。

「プロモーション部門」のグランプリに輝いたのは、塚本奏監督の『ここじゃない』

そして「POP&COKE」をテーマに、「ポップコーンとコカ・コーラがあることにより映画館で観る映画が、より特別で楽しいものになる」という内容が伝わるショートムービーを募った「プロモーション部門」のグランプリに輝いたのは、『ここじゃない』(塚本奏/大正大学)。「まさかグランプリをいただけるとは思っていなかった」と切りだした塚本監督は、「すごくうれしいです。たくさんの方に協力していただいた。一人一人にお礼を言いに行きたい」と感謝を込めた。準グランプリは、『映画という名の戦場ーあるいはそれに赴く戦士ー』(浅野実祈/日本工学院八王子専門学校)が受賞。会場を見渡した浅野監督は、「ちょうどこの場所で撮影をしていました。この場所で撮影をして、この場所で賞を取れたことがとても感慨深いです」と笑顔を見せていた。

大野恭照監督の『マミ子のウン子』が「ショートアニメーション部門」のグランプリに輝いた

20分以内のアニメーション作品が対象となる「ショートアニメーション部門」のグランプリは、彼氏の浮気現場を目撃してしまったマミ子が怒りの代弁者を生みだす様子を描く『マミ子のウン子』(大野恭照/多摩美術大学)にもたらされた。大野監督は「ステキな音楽を作ってくださった櫻井(佳音)さんに、お礼を言いたいと思います。ありがとうございました。彼女はお仕事募集中なので、ステキな音楽を依頼してください」とアピールして拍手を浴びた。準グランプリは、中高生時代の「お腹が鳴ってしまう」という経験をもとに、メタファーを用いて制作されたアニメーション『腹鳴恐怖症』(小沼亜未/名古屋学芸大学大学院)に決定。小沼監督は「驚きの気持ちとうれしい気持ちでいっぱいです」と胸を熱くしていた。

扇子裕介監督の『RESTART 御社を攻略せよ』が、「ショートフィルム部門」のグランプリに輝いた

20分以内の実写作品が対象となる「ショートフィルム部門」のグランプリに輝いたのは、負け続けの就活生・木村の再出発に迫る『RESTART 御社を攻略せよ』(扇子裕介/日本工学院専門学校)だ。扇子監督は「映画の作り方はイチから独学で培ってきました」と振り返りながら、「このような賞をいただけてとても光栄に思います。参加してくださった皆さん、ありがとうございました」とお礼を述べた。準グランプリは、『死んだ、ろか。』(佐山美織/日本大学)が受賞。佐山監督は「とても光栄です。まだまだ監督としても人としても未熟です」と口火を切り、その未熟さも糧として「これからも作品を作っていけたらなと思っています」と誓っていた。

審査員による講評が行われた

結果発表の後には、映画監督の阪元裕吾、株式会社ロボットのプロデューサーである村上公一、CMプランナーの佐藤雄介、日本コカ・コーラ株式会社の森田慎一、アニメーション作家で映画監督の久野遥子、東宝株式会社の栢木琢也と柳澤俊介ら審査員による講評が行われた。

東宝株式会社の栢木琢也は、「観客を楽しませることを意識した作品」と評価

栢木は、「失敗してもいいから、若い才能をお持ちの方とこれまで観たことのない新しい作品を作っていきたいというプロジェクト」とGEMSTONEプロジェクトについて説明。GEMSTONE賞を贈った監督とは、これから一緒に作品を作っていくことになるからこそ「その人の人生を左右することになる。悩みながら、真剣に選んだ」と力を込めた。そのなかで同賞を受賞した『ジョセリン・ラン・デブ』は、「観客を楽しませることを意識した作品」だと評価。「GEMSTONE賞はいずれ、全国の映画館で100万人以上のお客さんに観てもらえる作品を一緒に作りたいと思う人に贈るもの。『観客を意識しているか』ということを大切に選んだ」といい、さらに「ストーリーがしっかりと構築されていた」と付け加えつつ、「『ジョセリン・ラン・デブ』を超えて、より多くのお客さんに届けられる作品を一緒に作っていけたら」と期待を寄せていた。

株式会社ロボットのプロデューサーである村上公一は、「好きなものがあることが、映画作りで一番大事なこと」と語る

「すばらしい作品をたくさん観せていただき、すごく刺激を受けた」と明かした村上は、「ロボットという会社はエンタメ作品を中心に作っています。ROBOT賞を『超覚人〜LEGACY RIFT〜』に捧げた理由は、エンタメに振り切っていたなと感じたことが大きな理由」と吐露。「映画は集団で作るもので、決して一人の才能だけによるものではないです。監督もこれからいろいろなことを学び、いろいろな才能を使って、人を動かして作っていくことになると思う。彼のなかには、ものすごく自分の好きなものがあることを感じた。これが映画作りで一番大事なことだと思います。好きなことを周りのスタッフやキャストに伝えて、才能を引きだしていくというのが、僕らがいつもやっている映画の作り方」と映画作りの大切なヒントを口にしながら、「こういったことを続けていっていただけたら」とエールを送っていた。

CMプランナーの佐藤雄介は、学生時代の大切さについて語った

「プロモーション部門」の総評を担った佐藤は、「気軽に観られること」がプロモーション映像のよさだと分析。「気軽に観たものに対して、『ヤバい、なにこの映像。超カッコいい』というギャップが作れるとおもしろいと思う。そういった意味では、グランプリの『ここじゃない』は一番変わったことをやろうとしていた。画のなかにギャップを作りながら、おもしろいことをやってやろうという気持ちが伝わった」と称えた。そして『映画という名の戦場ーあるいはそれに赴く戦士ー』については、ベタな映像から入りつつ「構成力や、飽きさせない工夫があった」とコメント。「プロモーション部門は、最初にテーマがあるというところがポイント。テーマが決まっている分、実験的な表現に全振りして作ってもらってもいいし、最後にテーマとなるポップコーンやコーラが出ていればOK。もっともっとおもしろいものを作って応募してもらえたら」と刺激的な作品の登場を楽しみにしていた。

日本コカ・コーラ株式会社の森田慎一も、貴重な時間を過ごしたと語った

また「ゼロからイチを生みだす力はすごいこと」と目にした若き才能に驚いていた森田は、「いまのマーケティングの考えは、映像や写真などの広告ではなくて、『体験なんだ』と言われています。皆さんの作品を観て、笑ったり、考えさせられたり、感情の動きもあった。映像も立派な体験だなと思いました。今後のマーケティングに活かしたい」と貴重な機会になったと話していた。

東宝株式会社の柳澤俊介は、『MABU』の講評を語った

「世界中で愛していただけるアニメーション作品が増えている」と状況に触れた柳沢は、まだ見たことのない表現に挑めるのが「アニメーションのおもしろいところ」だとさらなる未来に言及。TOHO Animation賞を受賞した『MABU』は「完成度や技術もすばらしい。プラス、オリジナリティのある表現、演出が入っていた」と語りつつ、「いろいろなものを観て、いろいろな表現があるんだと吸収してもらえるともっといいものになると思います」「全作品、すばらしいものばかり。それぞれの道でアニメーションがより豊かになるよう頑張っていただけたら」とクリエイター陣にメッセージを届けていた。

学生時代だからこそできる表現について語った久野遥子監督

『化け猫あんずちゃん』(24)などで知られる久野監督は、審査基準について「その人にしか持っていないもの、その人にしかないフェティッシュがあるものを評価したいと思った」と語った。

そのなかで「ショートアニメーション部門」の準グランプリ作品『腹鳴恐怖症』には「質感など、他の人と似ていないものを持っているなと思って選ばせていただいた」といい、グランプリ作品の『マミ子のウン子』も「すごくアッパーで笑ってしまった。食事のシーンは、見たことのないものだった。そういったフェチズムみたいなものを基準に選ばせていただきました」と目尻を下げた。続けて「私は学生のころに賞を取ってから、長編アニメーションを作るまでに10年以上かかってしまった。なかなか長編アニメーションを作る機会を得られず、チャンスをずっと探っていた」と自身の道のりを回顧。「そのなかで仕事をしていくと、丸くなっていくというか。学生のころほど濃厚なものが作れなくなる。学生の時が一番、(表現を)尖らせることも、濃くすることもできる。それはその時にしかない時間。『こんなのやっていて意味があるのかな』『周りに笑われちゃうな』というものほど大切にしてほしい」と体験を踏まえながら呼びかけていた。

【写真を見る】若き才能にエールを送った「べイビーわるきゅーれ」シリーズの阪元裕吾監督

「べイビーわるきゅーれ」シリーズなどで知られる阪元監督は、「ショートフィルム部門」について講評した。観客を喜ばせるためには「“ワンダーとシンパシー”。驚愕させるか、共感させるか」が大事だと持論を述べ、「台本、モチーフ、題材やストーリー、キャラクターなどいろいろな要素があると思いますが、『RESTART 御社を攻略せよ』は“ワンダーとシンパシー”をバランスよくまとめて描いていた」とグランプリ作品を賞賛。「特に“ワンダー”の部分では、SNS描写に最先端のものを感じた。すばらしいなと思った」と語り、「“共感”の部分では、1回あげて落とすということをするならば、もっと落とさないといけないとも思った」と改善点も話題にあげた。「僕のヒーローアカデミア」や「ハイキュー!!」といった漫画を例にあげつつ、「商業的にも作品的にも完成されている。そういうところを参考にしたら、共感を得られる主人公ができるのかなと思いました」とアドバイスした。

また準グランプリ作品『死んだ、ろか。』は、「技術面、演出面で突出して『このシーンがすごい、これは見たことがない』と感じることはそこまでなかったんですが、一番、他人ごとじゃないものを描いている感覚があった。作品を自分ごとのように描けている。学生らしさ、ほとばしるパッションにやられました」と告白した阪元監督。「もうちょっと演出に工夫をしないと、時系列がわかりづらかったりする。(このシーンは)『誰かが死んだあとなんやな』と強調するために(映像を)白黒にするなど、そういった模索をしたらもっと人を引き込める作品になるのかなと思いました」とより進化していけるはずだと提案。どちらの作品も「『この顔を見ろ』というショットがあったこと」も評価に繋がったと話した。

体験を踏まえたトークに、学生たちも聞き入っていた

受賞を逃した作品にもそれぞれ厳しくも愛のある言葉を送っていた阪元監督だが、「こういった大きな場所で仲間たちと一緒に自分の作品を観られるというのは、かけがえのない時間」としみじみ。「僕自身、大学の友達といまだに一緒に映画を作っています。『べイビーわるきゅーれ』のスタッフは、映画美学校の友達同士。実写の集団制作では、そういった出会いが一番大事だと思います。隣にいる人を見合って、手を繋いで、その人を大事にしながら。時にはぶつかり合ったりすることがありつつも、映画は人と人との芸術なので、ぜひ隣に人がいる喜びを噛み締めて帰ってください」と心を込めると、学生たちからも拍手が上がっていた。

取材・文/成田おり枝


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