山本昌×岩瀬仁紀レジェンド対談(前編)
NPBの歴史上、「もっとも長く投げ続けた男」と「もっとも多く投げた男」による大放談。ともに中日OBで、50歳までマウンドに立ち続けて通算219勝を挙げた山本昌と、通算1002登板、407セーブを挙げた岩瀬仁紀。ふたりのレジェンドによる豪華な対談が2年ぶりに実現した。
まずは主力2投手が抜けた2025年の中日投手陣がテーマ。先発だった山本昌、リリーフだった岩瀬、それぞれの視点から息の合ったトークを展開してくれた。
中日のドラフト1位ルーキー・金丸夢斗photo by Sankei Visual
【ルーキー・金丸夢斗は通用するか?】
──守護神のライデル・マルティネス投手が巨人に移籍し、先発陣の柱のひとりだった小笠原慎之介投手がMLB・ナショナルズへ移籍。主力の2投手が抜けてしまいました。
岩瀬
あの2人が抜けても、あまり戦力が落ちた感じはしないですね。
山本昌
私も同じような感想です。ただ、先発でイニングを多く投げられる慎之介が抜けたのは、痛いかな。その穴を誰が埋めるか......。
岩瀬
金丸(夢斗)でしょう。
山本昌
やっぱり、そう?(笑)
岩瀬
腰痛明けで慎重に調整しているので、実際に一軍に合流するのは5月くらいかもしれません。でも、僕は慎之介より金丸のほうがいいと思っています。
山本昌
やっぱりそうか。昨年3月に侍ジャパンに招集された時のボールはすごかったものね。フォームはきれいだし、頭もいい。決して焦らずに取り組んでいる姿勢もすばらしい。私はルーキーに対して「期待はするけど計算はしない」というスタンスなので、慎之介の穴埋めとして名前を挙げるのは避けていたのだけど。
岩瀬
現段階で直すところがなく、完成されています。これは使わないとダメでしょう。特にインコースへのラインを間違えないところを評価しています。キャンプのブルペンではよかったので、あとは打者が立った状況でも投げられるかどうか。考え方もしっかりしているし、アマチュア野球の審判員だったお父さんがしっかりと育ててこられたんでしょうね。カーブ、フォークの変化球もいいですし、僕なら金丸を抑えで使いたいですよ(笑)。
山本昌
それはマンちゃん(岩瀬の愛称)らしい視点だね(笑)。彼はいいキャッチボールをするし、ボールにキレがあります。ところで、新外国人はどう思った?
【ベテランの力が大事になる】
岩瀬
(カイル・)マラーは意外とよくなっていましたね。彼は先発ローテで使えるんじゃないですか?
山本昌
マンちゃんと一緒に東海テレビの解説をした試合(3月1日・DeNA戦・バンテリン)は本当によかった(4回無失点)。あれだけ変化球でストライクが取れたら、楽しみだよね。開幕2戦目(3月29日・DeNA戦・横浜)の先発もあるんじゃないかな。
岩瀬
僕も2戦目だと思います。
山本昌
中日はバンテリンに強い投手が多いので、柳裕也、大野雄大、松葉貴大あたりは2カード目(4月1〜3日・巨人戦・バンテリン)に回すんじゃないかな。涌井秀章はどの球場でも苦手はないよね。ベテランになっても、しっかりとゲームメイクしてくれるイメージがある。
岩瀬
涌井はデーゲームでの登板以外は問題ないです。ただ、僕は開幕3戦目は(ウンベルト・)メヒアだと思います。
山本昌
外国人枠の問題もあるけど、あえて先発で2人の枠を割くかな?
岩瀬
リリーフ陣はいいので、僕は先発で外国人を2人使っていいと思います。
山本昌
開幕投手の髙橋宏斗は何も心配いらないね。昨年は調整遅れで開幕から1カ月は一軍にいなかったけど、今年はフルシーズン投げられれば昨年の成績(12勝4敗)を超えると思う。それにしても、開幕ローテは髙橋(右投)、マラー(左投)、メヒア(右投)、大野(左投)、柳(右投)、松葉(左投)......と続けば、右左と交互になって理想だね。
岩瀬
ただ、4月1日からの巨人3連戦の翌週の広島戦のカード頭(4月8日)は、長良川球場(岐阜)なんですよ。大野は相性のいいバンテリンで投げさせたいので、僕なら柳をカード頭に持っていきます。長いイニングを投げられるかがカギですが。
山本昌
柳も今年で31歳になるけど、まだ老け込む年じゃないよね。最優秀防御率、最多奪三振を受賞した4年前のスライダーのキレが戻ってくれば、まだまだやれる。大野を含めて、ベテランの力が大事になってくるね。
岩瀬
4月の第3週(4月15〜20日)は、中日は4試合しかないので、そこでメヒアを抹消してもいい。あとは火曜(15日)、水曜(16日)は状態のよかった投手を入れる形にして。
山本昌
土曜(19日)は宏斗、日曜(20日)はマラーだね。うん、いいじゃない。
岩瀬
4月の第4週(4月22〜29日)に金丸が間に合えば最高です。
【若手投手陣が次々と成長】
──開幕直後だけでなく、翌週、翌々週、さらにその先まで想定しているのですね......。ほかに先発陣で期待できる投手はいますか?
山本昌
2年目の草加勝もトミー・ジョン手術のリハビリが明けて、万全の状態になったら楽しみです。先ほど金丸のキャッチボールについて話しましたが、草加もいいキャッチボールをするんですよ。
岩瀬
大野の状態が悪くなればドラフト2位の吉田聖弥、柳が調子を崩したら松木平優太と、若手の名前が挙がるようになったのは大きいです。
山本昌
高卒2年目の福田幸之介もいいボールを持っているし、気持ちも強いよ。落合英二二軍監督が褒めていた。
岩瀬
あとは3年目の仲地礼亜もいますね。
山本昌
そうだ、仲地がいた。キャンプのブルペンでいきなり150キロ台のボールを投げていて、驚かされました。オープン戦でアピールを続けられれば、開幕ローテに入ってくるかもしれない。あとは体調をキープできるか。ほかにも、相変わらず素材は一級品の梅津晃大もいる。
【ポスト・マルティネスは?】
──マルティネスに代わる守護神は清水達也と松山晋也と候補がいますが、おふたりの考えはいかがですか?
岩瀬
僕は松山です。
山本昌
私も松山ですね。
岩瀬
去年、8回に投げて結果を残したのが松山でした。そのまま9回にスライドさせるのが一番いい。7回に投げていた清水は、8回に投げればいい。
山本昌
マンちゃんも現役時代はそうだったものね。(エディ・)ギャラードが守護神だった時は8回を投げて、ギャラードが退団してから9回を投げるようになった。
──7回、8回、9回では難易度がそれぞれ上がっていくイメージでしょうか。
岩瀬
今の野球は、9回より8回に投げる投手のほうがきついと思います。ロースコアの展開が多いので、打順の巡りとして8回に上位打順に回るケースが多い。8回を抑える力があるなら、9回も投げられるだろうということです。ただ、9回には9回の難しさもあるんですけどね。最後のアウトを取るのは、本当に難しいので。
山本昌
それは経験者じゃないとわからない心理だよね。私も一応、通算5セーブしているけど(笑)。
──9回を松山、8回を清水にまかせるとして、7回は誰が適任でしょうか?
岩瀬
橋本侑樹に期待しています。去年にすごくよくなって、今年はさらにいいボールを投げていますから。2年続けてやれるかどうか、注目しています。
山本昌
藤嶋健人だって、大事な場面をまかせられる力があるね。左投手なら昨年に活躍した齋藤綱記もいる。あとは勝野昌慶も相手チームから嫌がられるボールを持っているし、ベテランの祖父江大輔だっている。多士済々で、ライデルがいなくても問題ないんじゃないかな。
岩瀬
ソフトバンクから来た、育成の三浦瑞樹もいいですよ。
山本昌
あぁ、三浦もいた。彼はきっと支配下登録されるだろうね。
岩瀬
まだ先発ローテに入らないとしても、ロングリリーフ要員として十分に戦力になれると思います。
山本昌
そう考えると、今年も投手陣はかなり期待できそうだよね。
岩瀬
はい。問題は点が取れるか......になりますね。
つづく
山本昌(やまもと・まさ)
/1965年生まれ。神奈川県出身。日大藤沢高から83年ドラフト5位で中日に入団。5年目のシーズン終盤に5勝を挙げブレイク。90年には自身初の2ケタ勝利となる10勝をマーク。その後も中日のエースとして活躍し、最多勝3回(93年、94年、97年)、沢村賞1回(94年)など数々のタイトルを獲得。2006年には41歳1カ月でのノーヒット・ノーランを達成し、14年には49歳0カ月の勝利など、次々と最年長記録を打ち立てた。50歳の15年に現役を引退。現在は野球解説者として活躍中。
岩瀬仁紀(いわせ・ひとき)
/1974年11月10日、愛知県生まれ。西尾東高から愛知大、NTT東海に進み、98年のドラフトで中日を逆指名し2位で入団。入団1年目の99年シーズン途中から勝ちパターンの一角を担い、最優秀中継ぎ投手賞を受賞。その後も中継ぎで起用され、2004年からは抑えとして5年ぶりの優勝に貢献。12年にはセ・リーグ史上最多の5度目、また最年長記録となる最多セーブのタイトルを獲得。18年9月28日の阪神戦でNPB初の1000試合登板を達成し、同年現役を引退。19年からは野球解説者として活動。25年に野球殿堂入りを果たした
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