『w.o.d. presents “I SEE LOVE Tour”』2025年3月16日(日) 東京・豊洲PIT
3月26日(水) 9:00
Text:森朋之Photo:小杉歩
w.o.d.が全国ツアー『w.o.d. presents “I SEE LOVE Tour”』(全24公演)の東京公演を豊洲PITで開催した(3月16日)。ツアー終盤となるこの公演でサイトウタクヤ(vo/g)、Ken Mackay(b)、中島元良(ds)は、オルタナ直系の音楽性、そして、昨年リリースされたメジャー1stアルバム(通算5作目)『あい』の制作の中でトライした新たなサウンドを、すべての感傷や馴れ合いを振り切るようなステージによって生々しく体現してみせた。
このツアーの軸になっていたのはもちろん、アルバム『あい』の楽曲だ。まずはこのアルバムについて、少し説明をしておきたい。2022年にリリースされた4thアルバム『感情』は、サイトウ、Ken、元良の音をプリミティブに突き詰めた作品だった。プロデューサーは入れず、曲作りは3人だけで進め、レコーディングはアナログテープを使った一発録り。つまり3ピースバンドとしてやれることをとことんやり切った作品だったのだ。それ故に“次作はどうするか?”が彼らにとって大きな課題となった。突破口となったのは、中野雅之(THE SPELLBOUND、BOOM BOOM SATELLITES)をプロデューサーに迎えて制作された「My Generation」。w.o.d.のルーツであるネオグランジ直系のバンドグルーヴと最新鋭のエレクトロサウンドが融合したこの曲は、彼らの音楽のフェーズを明らかに変化させた。その後も初のタイアップ曲「STARS」(テレビアニメ『BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-』オープニングテーマ)をはじめ、「陽炎」「エンドレス・リピート」「あばく」「喜劇」などを次々と発表。どの曲にも“らしさ”と“新しさ”が共存して、w.o.d.のロックは進化のスピードを速めていった。それがアルバムという形に結実したのが『あい』だったというわけだ。メジャーのフィールドにしっかりと足を踏み入れつつ、自分たちのルーツを強く刻むと同時に、ポップな側面も加わってきたw.o.d.。その充実ぶりは、この日のステージからもはっきりと伝わってきた。
ステージ奥に掲げられているのは、サイトウの目のアップを真ん中に置いたアートワーク風のバックドロップ。凶暴なエレクトロサウンドを打ち鳴らすSEとともに、まずは元良がステージに走り込んでくる。続いてサイトウ、Kenがゆっくりと歩いて登場。3人が音を響かせた瞬間、フロアを埋めたオーディエンスが激しく体を動かし、会場全体の熱気が一気に上がっていく。オープニングナンバー「エンドレス・リピート」。「My Generation」と同じく中野雅之とともに制作されたこの曲は、プロミングされたドラムループと元良の生ドラムを重ねた楽曲。その威力はライブという場でさらに増幅され、観客の理性をあっけなく吹っ飛ばしてみせた。
ライブ前半でもっとも強烈なインパクトを放っていたのは「あばく」だった。ギターのリフ、ベースライン、リズムのアレンジも驚くほどシンプルなのだが、3つの音が合わさったときのグルーヴはまさに圧巻。とことん研ぎ澄まされたアンサンブルを浴びながら筆者は、「完璧とは、付け加えるべきものがなくなった時ではなく、取り去るべきものがなくなった時のこと」というサン=テグジュペリの言葉を思い出していた。“新たな表現を求める=音を重ねる”という発想になりがちな日本のバンドシーンにおいて、あくまでも3ピースサウンドを突き詰めるw.o.d.のスタンスはかなり異色だが、じつは彼らのほうが王道であり、真っ当なのだと改めて痛感させられた。
中盤ではアルバム『あい』の表現の幅広さを体感できるシーンが続いた。まずは〈蹴り飛ばす空きカン/虚しく響く渇いた「カラン」〉という映像喚起力に優れた歌詞から始まる「喜劇」。作詞をいしわたり淳治と共作した「ネックレス」では“失くしたものは戻らない”という状況を描いた歌を映し出し、「夏の曲をやります」(サイトウ)というMCに導かれた「陽炎」では心地よい解放感を演出してみせた。さらに元良が「サイトウのMCはテンション低いから、俺が自分で盛り上げて、自分で始めます!いくぞ!」とコールした「Take It Easy」では“w.o.d.流のロックンロール”を響かせ、会場を熱狂のパーティモードへと誘う。バンド側から煽ったり盛り上げたりするわけではなく、音楽を介した純粋なコミュニケーションが成立しているのも楽しい。
「2024」「あなたの犬になる」では、ボーカリストとしてのサイトウの魅力をじっくり堪能することができた。特に心に残ったのは「あなたの犬になる」の〈その手にふれて/こころにさわって/あなたと話したい〉という表現は素晴らしかった。抒情的に鳴り過ぎず、どこか乾いた手触りを残したまま、切実な思いを真っ直ぐに届ける。激しくも美しい歌声からは、ロックボーカリストとしての高い資質をしっかりと感じ取ることができた。
ここでサイトウはアルバム『あい』に込めた思いを語った。この会場そのものが“あい”であり、こうやって音楽で遊べることが“あい”だと思う。おお、たまにはグッとくるMCをやるんだなと思っていたら、「とどのつまり、音なんで。俺らはロックバンドだから、いまのMCはどうでもいい」と言い出し、ここからライブは後半へ突入。w.o.d.の根本的な音楽的スタイルを現代的にアップデートさせた「STARS」によって、フロアのテンションはいきなり最高潮へと突き進んだ。
会場を熱狂の渦へと叩きこむ中、3人のグルーヴもさらに精度を増し、この場にいる全員を圧倒的なカタルシスへと導いた。歪みと鋭さを同時に感じさせる音像も最高。アルバム『あい』はサウンドメイクにおいても様々なトライ&エラーを行った作品なのだが、それはまちがいなく、ライブのサウンドにも良い効果を与えているようだ。とにかく“爆音が気持ちいい”と思える日本のバンドは本当に稀だ。
「最後の曲です。またライブハウスで遊びましょう。ホンマにありがとう」(サイトウ)という言葉とともに放たれたのは「My Generation」。前述した通り、音源にはエレクトロ系のサウンドが反映されているのだが、ライブではシンプルな3ピースだけで演奏。凄まじいダイナミズムを備えたアンサンブルの中でロックとダンスミュージックが共鳴し、すべての観客が昇天状態に。「My Generation」のポテンシャルを引き出し、新たなアンセムとして知らしめたこともまた、今回のツアーの大きな意義だったと思う。
(かなり私見も入っているが)日本のバンドはどんどんJ-POP化が進んでいて、“聴き手に寄り添う”とか“歌を大事に”という傾向が強まっているように感じる。そんな状況の中、オルタナティブな手触りを色濃く残したまま、活動のスケールを拡大しているw.o.d.は本当に頼もしいし、もっともっと売れてほしいーーそんな思いを新たにした圧巻のライブだった。4月24日(木)(東京・恵比寿 LIQUIDROOM)、25日(金)(大阪・梅田 CLUB QUATTRO)は自主企画イベント『w.o.d. presents "TOUCH THE PINK MOON"』を開催(出演/w.o.d.、ドミコ、SATOHなど)も楽しみだ。
<公演情報>
『w.o.d. presents “I SEE LOVE Tour”』
2025年3月16日(日) 東京・豊洲PIT
<ツアー情報>
『w.o.d. presents “I SEE LOVE Tour”』
※終了分は割愛
2025年5月22日(木) 大阪・なんばHatch(振替公演)
2025年5月23日(金) 愛知・名古屋DIAMOND HALL(振替公演)
開場18:00 / 開演19:00
【チケット情報】
前売:4,600円(税込)
※ドリンク代別途必要
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=F9180001
<イベント情報>
『w.o.d. presents "TOUCH THE PINK MOON"』
2025年4月24日(木) 東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場17:30 / 開演18:30
ゲスト:ドミコ、SATOH
DJ:Ken Mackay(w.o.d.)、TAISHI IWAMI(SUPERFUZZ)
2025年4月25日(金) 大阪・梅田 CLUB QUATTRO
開場17:30 / 開演18:30
ゲスト:ドミコ、SATOH
DJ:Ken Mackay(w.o.d.)、DAWA(FLAKE RECORDS)、板東さえか(FM802 DJ)
【チケット情報】
前売:4,800円
※ドリンク代別途必要
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=F9180001
w.o.d. 公式サイト:
https://www.wodband.com