アジア全域版アカデミー賞「第18回アジア・フィルム・アワード」(以下AFA)の授賞式が3月16日、香港・西九龍(ウエストカオルーン)文化地区の戯曲センター(Xiqu Centre)で行われた。
・
【フォトギャラリー】アジア・フィルム・アワードに参加した岡田将生
同授賞式でユース・アンバサダーという大役を担ったのが、俳優の岡田将生。まずは、アジア各国の映画人が集った式典でのスピーチを紹介しよう。
「皆さん、こんにちは。日本の俳優の岡田将生です。これまでの映画の道のりの中で、私は様々な役を演じてきました。そしてその中で、『ドライブ・マイ・カー』という映画で、このアジア・フィルム・アワードにノミネートされるという、光栄な機会にも恵まれました。映画に心から感謝し、全ての機会に感謝しています。これからも素晴らしい俳優になれるよう、努力してまいります。ありがとうございます」
授賞式翌日の17日、映画.comはユース・アンバサダーの務めを果たした岡田にインタビューを敢行。香港の映画ファンとの交流を振り返りつつ、公の場での服装の“秘密”や映画への思いをたっぷりと語ってもらった。(取材・文/映画.com編集部岡田寛司)
●アジア・フィルム・アワードは「また来たい」と思える場所
――アジア・フィルム・アワードは、「ドライブ・マイ・カー」が最優秀作品賞を獲得した第16回も参加されています。思い出に残っていることはございますか?
「ドライブ・マイ・カー」は撮影が終わった後も、チームの皆さんとさまざまな海外映画祭に行くことができた作品でした。アジア・フィルム・アワードは、その“旅”の最後だったと思います。撮影が終わっても皆と再会できる作品に巡り合えてよかったと思いながら、AFAに参加していたことを憶えています。
AFAは、若い方々が作られているという印象がありました。バックヤードでも皆さんが走り回って、懸命に作り上げている姿をずっと見ていて――そういう光景がとても素敵で「また来たいな」と思っていました。
――今回のAFAでは、ユース・アンバサダーに就任されました。同じ役目を担ったオークベープ・チュティモン(タイ)、リン・ボーホン(台湾)、ロー・ジャンイップ(香港)とともに活動されてみていかがでしたか?
ユース・アンバサダーの皆さんとは動画を撮ったんです。異国の方々と1つのカメラフレームの中に収まって芝居をするのがすごく楽しくて。これだけでもユース・アンバサダーに就任できてよかったなと思いました。(授賞式のバックヤードでは)実際にお話する機会もあったのですが、皆さんすごく緊張されていました。また違う場所で再会できる機会があれば嬉しいなと思っています。母国ではない場所のステージに立つという機会は滅多にないですし、本当に貴重な経験をさせていただきました。
●「ラストマイル」上映イベントで香港の観客と交流Q&Aを通じての“気づき”もあった
――授賞式直前には「ラストマイル」上映時のイベントで、香港の映画ファンと触れ合う機会がありました。こちらのイベントも取材させていただきましたが、香港の皆さんはとにかく“熱量”が高いですよね。
本当に映画が好きなんだなと思いました。もちろん日本にも映画好きの方は大勢いらっしゃいますが、熱量が少し異なるというか――“作品の見方”もとても細かくて。隙がない感じで見られているような気がして、ちょっと怖くなったりもしました(笑)。「ラストマイル」は撮影が終わってからかなり時間は経っているので、塚原あゆ子監督とも「むしろお客さんの方が映画の事を深く理解しているんじゃないか?」と話してました。
――質問も“深い”内容が多かったですよね。
そうなんです、ラストシーンにまつわる話は僕もハッとしました。日本の方はあえて言葉にはしない人が多いイメージなんですが、海外の方々は思っていることは“すべて話す”という印象です。(Q&Aを通じて)自分ももっと作品について知らないといけないなと考えていました。
――“観客に教えられる”ということは、多かったりするのでしょうか?
いっぱいありますよ。映画祭に行くとそれを実感できるというか……たとえば、海外メディアのインタビュアーさんとお話をしていると、そういう“気づき”というものが多い様な気がしています。
●日本映画の“これから”――若い世代の活躍によって「新しい日本映画が生まれてくる気がしている」
――日本映画は「アジア映画」という大きな枠組みの中に入りますよね。AFAといった国際的な場においては、その意味合いがとても強まると思いますが、日本映画が「アジア映画」という括りにおいて、どのように発展・進化をとげていってほしいと感じますか?
最近は、特に若い監督たちがとても活躍されている印象で、僕自身はこれから時代が変わっていく、新しい日本映画が生まれてくる気がしているんです。少しだけ話がズレるかもしれませんが、ドラマ「御上先生」を創り上げているチームも若くて、僕と同世代の方々が集まっているんです。同世代、もしくは下の世代の人たちと作っていると“底上げ”されているような感覚があって、これからも今までとは違う作品が生まれてくるような気がしているんです。ですから、日本映画を含めたアジア映画全体もそういう潮流になっていくのではないかなと思っています。
――若い世代でいうと、AFAのレッドカーペットインタビューでは「夜明けのすべて」の三宅唱監督にも言及されていましたよね。
三宅監督の作品は大好きで、いつかお仕事をしてみたいと思っています。きちんと向き合って作品を一緒に作ってみたいんです。周囲からの話を聞いてみると、自分の好きな現場がそこにあるような気がしていて――今回、AFAで少しだけお話しができたので、それだけでも良かったなと思っています。
――近年では、国際共同製作の機会も増え、一概に地域で映画を「邦画」「洋画」などと表現できなくなっているような気がしています。たとえば、今回、最優秀作品賞に輝いた「All We Imagine as Light」はインドが舞台ではありますが“合作映画”です。岡田さんは、国際共同製作について、どのような印象や考えをもたれていますか?
僕自身はまだ参加したことがないですが、周りの方々から感想を伝え聞いています。異なる言語が飛び交って、よりクリエイティブな環境の中で、それぞれの国の文化が交じり合っていく。もちろんポジティブな側面ばかりではないとは思いますが、とても風通しがよいんだろうなと感じています。
国際共同製作の話題については、加藤拓也監督(「わたし達はおとな」「ほつれる」)とよく話をすることがありました。たとえばフランスで助成金を得て映画を作るなんて話があったり。
それこそ「ドライブ・マイ・カー」では色々な国の方々とコミュニケーションをとる機会がありました。そうすることで神経が――なんて言えばいいんでしょうね――すごくセンシティブな感じになるんです。感覚が研ぎ澄まされる瞬間がとても増えていくというか。より集中して作品を作っていく時間が、僕は本当に好きだったんです。色々な国の人たちの文化や環境も知ることができましたし、日本とは異なる撮り方をしている話を聞くと、とても興味が湧いてきます。
●映画との向き合い方に変化はあった?「やっぱり僕は映画館が好き」
――岡田さんがデビューされたのは2006年。長きにわたって活躍されていますが、映画との向き合い方に変化はありましたか?
常々考えているのは、やっぱり映画ってこんなに可能性があるんだなっていうことです。そのきっかけをくれたのは「ドライブ・マイ・カー」でした。映画には“夢”がありますし、あとは……やっぱり僕は映画館が好きなんです。スクリーンに投影されていく(観客を)支配する時間に携われているだけで満足なんですよね。
あとは、クリエイティブな作品がどんどん増えていくという確信はあるので、これから日本の映画がより羽ばたいていく瞬間に立ち合っていきたいなという思いがあります。
それと「ラストマイル」はドラマから派生して生まれた映画ですよね。“ドラマの映画化”に対する見方も変化が生じている様な気がしています。映画とドラマの間にあった“壁”自体が徐々に無くなってきているような気がしているんです。ドラマの現場では映画的な撮り方をするチームが増えてきていて、反対に映画のスタッフがドラマの現場に参加する機会も多くなりました。こうやって少しずつ壁が無くなっている流れが、とても素敵な事だなと思っています。
●SNSでも話題になっていたメガネ姿公の場でセレクトする理由があった
――ありがとうございます。少し話が脱線してしまいますが、どうしても聞きたかったことが……3月14日に行われた日本アカデミー賞授賞式での出で立ち(=着こなし)が、SNSで非常に話題になっていましたよね?ご存知ですか?
はい、そうみたいですね。
――そして、AFA授賞式。こちらでの着こなしも“最高”でした。たとえば、このような式典の場における「服装」で意識されていることはございますか?
もちろん色々考えてます。これは自分の個性を出せる部分でもありますし、海外だからこそ少しオープンになる瞬間はありますが……でも、僕は、基本的に人前が本当に苦手なタイプの人間なんです。だからひとつ“フィルター”を作りたくて。ですから、人前に出る時は、結構な確率でメガネをかけているんです。
――なるほど!そういう意図があったんですね。
もちろんファッションアイテムとしての機能も果たしていますが、“自分を守るため”につけている意味合いもあったりします。こういう仕事をしているので「嘘!?」と驚かれることもあるんですが、やっぱり何年経っても、僕は人前でしゃべるとか、自分の思いの丈を述べるのがどうしても得意ではないので……そういう時にメガネをかけて自分を守ったり、普段身につけていないアクセサリーをつけることで自分の色を少しでも出せるようにしたり。それと衣装はブランドの方々からお借りしているわけですから、とにかく「綺麗に見せたい」という思いがあります。
――撮影現場でも多くの人に見られながら芝居をしますよね?その感覚とはまた異なるのでしょうか?
撮影現場とは違って、式典などの場は「自分のまま」ですから。モチベーションも全然違うんです。お芝居は――大袈裟に言ってしまうと、全員“裸になった状態”じゃないですか(笑)?僕はそういう心持ちで「皆で創り上げていきましょう!」というタイプなんです。役を演じるうえでは自身を隠さずに、できることとできないことをはっきりさせていきたいのですが、「自分のまま」で出なければならない時は、まだまだ戸惑ってしまうこともあるので……そういう意味でも“自分を守るため”の方法を持っています。
●日本アカデミー賞で「侍タイムスリッパー」が最優秀作品賞「本当に嬉しかった!!“勇気づけられる光景”です」
――日本アカデミー賞では「ラストマイル」が最優秀脚本賞(野木亜紀子)を受賞。そして「侍タイムスリッパー」の最優秀作品賞受賞というサプライズが待ち受けていました。
いやー、あれは本当に嬉しかったですよ!会場にいらっしゃった全員が「なんて素敵な物語なんだ」と思っていたはずです。ものすごく夢があることですし、こういう作品がどんどん増えていくべきだと思います。獲るべくして獲ったんです。僕も会場でその様子を見させてもらいましたが、皆さんもらい泣きするほど「本当に良かった」と感じていたと思います。
――僕自身はちょうど香港滞在中だったので、その様子をリアルタイムで見ることは出来なかったのですが、本当に素敵な結果になりましたよね。
それこそ翌日に香港に向かうことになったのですが、別のチームの方々と同じ飛行機だったんです。入国審査の時に吉田大八監督とずっとお話ししていたんですが、その時もやっぱり「侍タイムスリッパー」の話題になって。「あんなに夢のある話はないよね」と。これから映画を作っていこうと思っている方、現在進行形で作られている方が“勇気づけられる光景”でした。
●岡田将生は、何故映画が好きなのか――原点「天然コケッコー」について
――では、最後に当たり前の質問になってしまいますが……映画は好きですか?
もちろんです(笑)。
――では、何故“好き”なのでしょうか?
何故“好き”なのか――なんだろう……でも、やっぱり映画の撮影をしている時間が1番好きなんですよね。大人たちがああでもないこうでもないって言いながら、少しずつワンカットにこだわっていく時間。それとリハーサルをしながら、皆で意見を出し合いながら“作っていく時間”というのもとても好きなんです。良い方向にいくこともあれば、ダメな方向に行くこともある。その分かれ道の判別はまだまだできてはいませんが、やっぱり撮影をしている時間が好きです。
それは多分、最初の現場がそうだったからというのも大きいですね。「天然コケッコー」で山下敦弘監督とやらせてもらった時は、まだまだ右も左もわからない状態でしたが、“映画を好きになってほしい”と考えている大人たちに囲まれていたおかげで、今でも映画が好きなんです。今も撮り続けていきたい、(役者として)立ち続けていきたいと思う気持ちがあるので、「天然コケッコー」には本当に感謝しています。
【作品情報】
・
ラストマイル
【関連記事】
・
塚原あゆ子監督の“過去作”に出演するとしたら?ディーン・フジオカは「アンナチュラル」、岡田将生は「MIU404」と「最愛」で心が揺れる
・
【第18回アジア・フィルム・アワード受賞結果】最優秀作品賞は「All We Imagine as Light」日本勢は「敵」吉田大八が監督賞、「HAPPYEND」栗原颯人が新人俳優賞
・
ディーン・フジオカ&岡田将生、アジア全域版アカデミー賞でアンバサダーに就任
Stylist:OISHI YUSUKE、Hair & Make Up:ISONO AKARI Venue: The Langham, Hong Kong 香港朗廷酒店 Special Thanks: Asian Film Awards Academy 亞洲電影大獎學院,徐昊辰