『パラサイト 半地下の家族』(19)で第92回アカデミー賞4冠に輝いたポン・ジュノ監督が、最新作『ミッキー17』(3月28日公開)を引っ提げて、5年ぶりの来日を果たした。3月26日にはグランドシネマサンシャイン池袋で行われたジャパンプレミアに出席し、晴れやかな笑顔でレッドカーペットを歩いた。
【写真を見る】ポン・ジュノ監督、とにかく明るい安村のネタにどハマり!
ロバート・パティンソンを主演に迎えた本作は、使い捨てワーカーとブラック企業トップの強欲な権力者たちの闘争を描く“逆襲エンタテインメント”。人生失敗だらけのミッキー(パティンソン)が手に入れたのは、何度でも生まれ変われる夢の仕事。しかしそれは、身勝手な権力者たちの過酷すぎる業務命令で次々と死んでは生き返る任務だった。搾取されつづけて“17号”となった彼の前にある日、手違いで自分のコピーである“18号”が現れ、事態が一変していく。舞台挨拶には、ポン・ジュノ監督ファンの日本代表として俳優の町田啓太、いまや世界を舞台に活躍する芸人となったお笑い芸人のとにかく明るい安村、プロデューサーのチェ・ドゥホ。レッドカーペットには、モデルでタレントのアンミカ&セオドール・ミラー夫妻、俳優の井上咲楽も出席した。
観客からの「ポン・ジュノ!」「ポン・ジュノ!」という熱いコールが湧き起こるなか、会場に姿を現したポン・ジュノ監督。「『パラサイト 半地下の家族』以来、5年ぶりとなります。お会いできて、本当にうれしいです」と挨拶して、大きな拍手を浴びた。まずこの日は、安村が監督も楽しみにしているというネタを披露。“サムギョプサル全裸ポーズ”や、本作の主人公ミッキーがコピーされる場面をモチーフにした全裸ポーズも繰りだし、これにはポン・ジュノ監督も「身を投げだしたユーモア。とても感動しました」とサムズアップで大笑いだった。
ポン・ジュノ監督の作品の大ファンだという町田は、「命や自然愛、階級などいろいろな要素を入れ込んだ作品を手掛けられている。毎回心を打たれ、背中を押してもらえる気がする。どのような価値観を大事にしていますか?」と質問をぶつけた。
ジュノ監督は「ミッキー17は、どこか抜けているような感じもありますが、善良な主人公です。労働者として極限の状態に置かれ、つらい状況にありますが、最後まで生き残ろうとします。それが私が重要だと感じていた価値でもあります。最後まで諦めない気持ちを持つミッキーに、共感しながら観てくださったらうれしい」と語りかけていた。
さらに町田は、ポン・ジュノ監督のインスピレーションの源も気になっているという。「インスピレーションを得るために旅行に行ったり、特別な経験をするタイプではありません」と切りだしたポン・ジュノ監督が、「日常的な、ささやかなことを見逃さないようにしています。例えば、とんこつラーメンを食べている時に、スープのつゆがズボンに落ちてしまう。そこで『これには一体なんの意味があるんだろう』『なぜ私の身に起きたんだろう』『どうすればいいんだろう』と考えを巡らせていると、いろいろなことが浮かんでくる。小さなことから出発するんです」と明かすと、町田は「だから自分ごととして捉えられるのかもしれません。アンテナを日々、張り巡らせて生きてきたい」と感銘を受けていた。
また主人公の生き様を体現したパティンソンの演技が光る本作だが、ポン・ジュノ監督は「優れた俳優であると同時に、とてもクリエイティブな方。人間的にもとてもやさしく、現場スタッフにもとても人気がありました」と絶賛しつつ、「プリントしたくなる顔。雰囲気」とにっこり。パティンソンとの仕事は「最高」と目尻を下げたプロデューサーのチェ・ドゥホは、「仕事に対して全身全霊。脚本にはカラーマーカーを5種類くらい使った読んだあとがあり、200回くらい読んだことがわかる。トレーラーがあるんですが、ずっと現場にいらっしゃる。努力家で献身的な役者です」と現場の様子を振り返っていた。
ステージには、サプライズゲストとして『ゴジラ-1.0』(23)で第96回アカデミー賞視覚効果賞を受賞した山崎貴監督が登場。花束をプレゼントするひと幕もあった。ポン・ジュノ監督とがっちりと握手を交わした山崎監督は、「本当におもしろかったです!びっくりしました!こんなにずっとワクワクしながら観た映画は久しぶり」と興奮しながら本作の感想を吐露。「これから観る方がうらやましい。どんなにハードルを上げても大丈夫。めちゃめちゃおもしろい。社会的な問題も内包していますが、まずはおもしろいということ。すばらしい映画ができて、おめでとうございます!」とポン・ジュノ監督を祝福した。
続いてポン・ジュノ監督が「『ゴジラ-1.0』もとても楽しく拝見させていただいた。『ミッキー17』にも怪獣が登場します」と共通点をあげると、山崎監督は「『グエムル 漢江(ハンガン)の怪物』を観た時には、『すげえのできちゃった』と当時悔しく思いながら観ていた」と打ち明け、「怪獣映画に家族の物語を入れるというのは、あの映画から学んだ部分がすごくあります。これこそが新しい怪獣映画だと思った」と刺激を受けたことを告白。ポン・ジュノ監督は「『ゴジラ-1.0』にも人間と歴史がしっかりと描かれていて、とても印象的であり、感銘を受けました」とこちらも胸を打たれたそうで、「これからも怪獣映画をいっぱい作っていきましょう!」と宣言。両監督のリスペクトがにじむエール交換に会場からも大きな拍手が上がっていた。
本作について「社会的、政治的な風刺も描かれていますし、ミッキーの困難の過程は、まるで私たちが生きているこの現実を反映しているようにも見えます」と紹介したポン・ジュノ監督は、「残忍と思えるシステムにおいても、ミッキーが諦めない理由は愛の力だと思います。私にとっては、初めてとなるラブストーリーになりますが、そのような観点でもぜひ楽しんでほしいです」と熱く呼びかけていた。
取材・文/成田おり枝
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