「パラサイト半地下の家族」のポン・ジュノ監督と「TENET テネット」のロバート・パティンソンが初タッグを組んだ映画「ミッキー17」が3月28日から公開される。本記事ではポン監督が作品に込めた思いを、コメントとともに紐解いていく。
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【動画】「ミッキー17」日本版予告2000年の初監督作「ほえる犬は噛まない」で鮮烈なデビューをかざったポン監督。03年の「殺人の追憶」では、殺人事件を追う刑事たちの捜査をサスペンスフルに描き韓国で500万人を超える大ヒットを記録し、続く「グエムル漢江の怪物」では、突然現れた怪物に娘を奪われた父と家族の奮闘を描き、初の国際的プロジェクト「スノーピアサーでは、氷河期の地球を走り続ける階級列車を舞台に最後尾からの決死の攻防を描いてみせた。
その後も、巨大生物と少女の交流を通して現代社会の倫理や企業間の争いを浮き彫りにした「オクジャ Okja」、予測不能の展開で全世界を驚愕と興奮の渦に叩き込んだ「パラサイト半地下の家族」と、ポン監督は常に進化を続けてきた。「ミッキー17」は、人生失敗だらけでダメダメのミッキーを主人公に、これまで描いてきたエッセンスを凝縮させている。
「母なる証明」では、軽度知能障害がある青年への“バカ呼ばわり”とその顛末、「オクジャ Okja」では、資本家によって親友への特別な想いを踏みにじられた少女ミジャを、韓国の山村から海を渡ってアメリカへと向かわせた。「パラサイト半地下の家族」では、半地下の家族4人がIT長者に寄生する様をユーモラスに描き、その先にある深い階級格差を浮き彫りにした。
「ミッキー17」では、“使い捨て”られるミッキーの人の良さにつけ込んで「死ぬってどんな気分だ」と侮蔑的な問いかけるデリカシーのなさや、自分の得しか考えない支配階級による理不尽な業務命令と労働搾取など、世界に共通する愚行を暴き出している。
ポン監督は「これまで私が扱ってきた要素もありますが、今回初めて“人間の愚かさ”をより深く掘り下げました」と語る。「そして、その愚かさが、時に愛すべきものになるという視点です。私の作品は、よく『冷酷でシニカル』と言われます。でも、今回の映画は『温かみがある』と言われることが多いですね」と、これまでの作品とは異なる感想を耳にして、歳をとったからかもしれないと笑う。
人生ダメダメのミッキー17の前に勝ち気な18号が現れることで主人公の内的な変化が生まれる。使い捨てワーカーは同時に複数存在することは許されない。2人のミッキーは生き残りを賭けてバトルを始めるのだが、やがてミッキーの意識に「生きること」への問いが生まれる。複数のミッキーを見事に演じ分けたパティンソンの確かな演技力によって、心が変化していく様がリアルに表現されているのだ。
「『ミッキー17』は愚かな愛すべき人たちの物語です」と語るポン監督。続けて「若者や労働者階級の物語です。無力な存在が、意図せずしてヒーローになってしまう話。それが現代の観客には響くのではないかと思います」と、世界の若者にこそ観てもらいたいと言う。
「とても“人間らしい”物語です。観客には、この映画を純粋に楽しんでほしいと思っています。映画を観終わった後に、『人間とは何か』『人間らしく生きるためには何が必要か』について、ほんの少しでも考えてもらえたら嬉しいですね。3分くらいでいいので(笑)」
「ミッキー17」は、3月28日に全国公開。
【作品情報】
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