先週末(3月14日から16日まで)の北米興収ランキングは、ちょうど1ヶ月ぶりに初登場タイトルが1位と2位を飾ったのだが、その1ヶ月前と比べると全体の総興収は1億ドル以上少ない5181万ドル。これはコロナ禍からの回復を果たした2023年以降では、昨年のスーパーボウル週末に次いで2番目に低い数字となる。2022年以降で見ても7番目に低い数字と、それだけ現在の北米映画界の閑散ぶりは顕著。ひとまずここが底値になると願っておきたい。
【写真を見る】従来の中国歴代No. 1作品にトリプルスコア!?中国アニメが驚異的な大ヒットで、ハリウッドの歴史的ヒット作を猛追
さて、そんな週末にNo. 1スタートを決めたのは、デニス・クエイドとメグ・ライアンを両親に持つジャック・クエイドが主演を務めた『Mr.ノボカイン』(6月20日日本公開)。生まれつきどんな痛みも感じない体を持つ真面目な銀行員が、恋人を救出するために強盗たちに戦いを挑むアクション映画だ。3365館で封切られ、初日から3日間の興収は880万ドル。2年前のスーパーボウル週末に1500館に満たない規模で公開された『マジック・マイク:ラストダンス』(23)以来の低興収でのNo. 1となった。
3000館以上の大規模公開作品に限定してみると、このオープニング興収は歴代ワースト106位。上位にいる105作品の過半数を2020年以降の公開作が占めているように、近年は公開規模と初動成績が噛み合わないことは少なくない。ひとつだけ留意しておきたいのは、それらが噛み合わない=期待外れの失敗作と言い切れないところ。同104位の『グレイテスト・ショーマン』(16)や同40位の『恋するプリテンダー』(23)のように、じわじわとヒットして初動成績の鈍さを取り返した作品も少なからず見受けられるからだ。
ちなみにその105作品のうち、興収ランキングで1位スタートだったのは2022年のサマーシーズン終わりの閑散期に公開された『デ・ヴィル家の招待状』(22)のみ。その週末の全体の総興収は5214万ドルだったので、先週末よりわずかに高い。『デ・ヴィル家の招待状』といい『Mr.ノボカイン』といい、この作品が失敗したというよりも、同じ時期に公開された大作が伸び悩み、1位になったことで余計に目立ってしまったという印象のほうが強い。
なにより『Mr.ノボカイン』の制作費は、スタジオ作品としてはリーズナブルな1800万ドル。上記の300館以上のオープニング興収ワーストランキングで100位前後にいる作品は、多くが2000万ドル前後の興収に着地しているので、本作もその辺りで落ち着くだろう。幸いなことに、批評集積サイト「ロッテン・トマト」によれば批評家からの好意的評価は82%、観客からのそれも87%と高い。閑散期に足を引っ張られなければ、もう少し伸びる可能性も秘めているはずだ。
そんな北米とは打って変わって、景気がいい話題をひとつ。北米ではちょうど1ヶ月前にひっそりと公開され、トップ10圏内にランクイン(累計では1000万ドルを突破している)していた中国アニメ『ナタ魔童鬧海』(4月4日日本公開)が、中国国内でいまとんでもないことになっているのだ。
元々、中国歴代興収4位(当時)だった『ナタ〜魔童降臨〜』(19)の続編ということで期待が大きく、今年の春節の目玉作品のひとつとして公開された同作。公開から45日間で、これまでの中国歴代興収トップだった『1950 鋼の第7中隊』(21)を3倍近く上回る興収150億元を突破。これをドルに換算すると、なんと20億ドル以上にもなる。
つまり、ハリウッド映画以外では史上初の全世界興収10億ドル超えを達成し、あっという間に史上7作品目の全世界興収20億ドル突破作品となり、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(19)と『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)を抜き去り、全世界歴代興収5位に浮上。その勢いはまだ衰える気配がなく、『タイタニック』(97)と『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22)をも射程圏内に収めている。
しかも今年の春節には、人気シリーズ「唐人街探偵」の最新作『Detective Chinatown 1900』もすでに35億元を超える、通常であれば申しぶんのない大ヒットを記録しており、『ナタ魔童鬧海』と『Detective Chinatown 1900』の2作だけでもう25億ドル以上、つまり現時点の今年の北米映画界全体の倍以上の興収を叩きだしているのである。恐るべし。この2作と中国映画市場の盛り上がりは、今後も注視しておきたい。
文/久保田 和馬
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