【選抜高校野球】もはや「冬のセンバツ」 極寒の甲子園で選手たちはどう戦ったのか?

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【選抜高校野球】もはや「冬のセンバツ」 極寒の甲子園で選手たちはどう戦ったのか?

3月21日(金) 11:45

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「寒いですね......」

甲子園球場のスタンドで知り合いとすれ違うたびに、何度そんな挨拶を交わしたか数えきれない。

末吉良丞の好投もあり青森山田に勝利した沖縄尚学photo by Ohtomo Yoshiyuki

末吉良丞の好投もあり青森山田に勝利した沖縄尚学photo by Ohtomo Yoshiyuki





【開会式は体中にカイロ】3月18日に開幕した選抜高校野球大会(センバツ)は、初日から極寒状態が続いている。大会2日目は最高気温9度。登山に行くような完全防備でスコアブックをつけていても、手はかじかみ、文字が震えてしまう。もはや「冬のセンバツ」である。

かつて横浜高の名伯楽と呼ばれた小倉清一郎さんは、春と夏の甲子園の違いについてこう語っていた。

「スタンドの見え方が違います。夏は薄着で白い服の人が多いから、ボールと重なって見づらいんです。でも、春はみんな厚着をしていて、黒い服装の人が多い。だからボールが見やすいんです」

四季がある日本の、屋外球場ならではの視点だろう。

18日の開会式当日、沖縄から初出場したエナジックスポーツの砂川誠吾は、こんな感想を述べている。

「こっちに来てから、毎日100回くらい『寒い』って言ってるような気がします。沖縄ではとても感じられない寒さですね。手も耳も痛くて......。沖縄では年中ボールを使って練習ができるので、まだ慣れないです。でも、このなかで野球ができるのは新鮮ですし、光栄です」

今大会に出場した選手・関係者は、「寒さ」というもうひとつの敵にどのように立ち向かっているのだろうか。

開幕戦に登場した柳ヶ浦(大分)の遊撃手・亀安歩汰は、「カイロ作戦」を実行したと明かしてくれた。

「開会式で体が冷えないように、体中にカイロを貼りまくりました。背中、脇腹、太もも、足の裏......と、ほぼ全員が貼っていましたね。開会式が終わって、キャッチボールが始まる前に背中以外ははがしました」

亀安によると、これだけカイロを貼っても開会式は寒かったという。それでも、試合が始まれば「寒くてもやらなくちゃいけないので」と集中。試合開始直後から遊撃で好プレーを連発している。

一方、背番号1の杉本羽輝は「昨日のリハーサルの時点で寒いことはだいたいわかっていたので、想定できていました」と語った。

「アップをして常に体を温めていたので、試合中は寒いと感じることはなかったです」

柳ヶ浦は開幕戦で二松学舎大付(東京)に敗れたものの、2対3と接戦を演じている。

【北海道出身の左腕が活躍】一方、初戦で米子松蔭(鳥取)に10対2と大勝した花巻東(岩手)は、コンディションが悪いという認識すらなかったようだ。主将の中村耕太朗は言う。

「むしろ暖かいです。甲子園は日差しがあるだけで、こんなに暖かくなるのかと思いました。岩手は日差しがあっても、寒い時は寒いですから」

筆者が驚いていると、中村はこう続けた。

「ほかの高校も寒いと感じるところが多いのかなと思います。自分たちは寒いのをずっと経験しているので、そこは強みかなと実感しています」

北国の選手ほど「冬のセンバツ」は有利なのだろうか。そこで、大会2連覇を目指す健大高崎(群馬)の青柳博文監督にも聞いてみた。なぜなら、健大高崎の左右二枚看板である石垣元気と下重賢慎は、いずれも北海道出身だからだ。

ナイトゲームの終盤には雨にも見舞われた18日の明徳義塾戦、青柳監督は「自分はベンチで凍えていました」と明かした。北海道出身者は寒さの残る甲子園では有利なのでは、と仮説を向けると、青柳監督は「それはあるかもしれません」と答えた。

「下重は半袖で練習していますし、石垣なんてタンクトップ姿で、こっちが心配になるんですよ。そんなに体を冷やして大丈夫なのかって」

石垣が故障のため登板回避するなか、下重は明徳義塾との延長10回タイブレークの死闘をひとりで投げ抜き、勝利を収めている。

【寒さを克服した沖縄尚学が快勝】筆者が特に注目していたカードは、大会2日目(19日)の青森山田(青森)対沖縄尚学(沖縄)である。北の青森山田、南の沖縄尚学。気温9度という環境での戦いだったが、試合は沖縄尚学が6対3で快勝している。

沖縄尚学の比嘉公也監督は、選手としても監督としてもセンバツ優勝を経験している。沖縄では考えられない寒さに打ち勝てた要因について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「昨年の秋に明治神宮大会に出場させてもらったのが大きかったです。あの時は今日以上に寒かったですから。あれを経験できたのはよかったなと」

明治神宮大会は全国10地区による地区大会を優勝したチームが出場できる。そう考えると明治神宮大会は全国屈指の強豪と戦う腕試しの場というだけでなく、「冬のセンバツ」のリハーサルにもなるのか。

ただし、比嘉監督に「何か寒さ対策はしたのですか?」と尋ねると、しきりに首をひねる比嘉監督から逆に問われた。

「何かあります?あれば教えてほしいです」

一方、選手たちはどうやって戦っていたのか。二塁手を務める比嘉大登は試合中、涙ぐましい寒さ対策をしていたことを明かした。

「5回までは太陽が出ていたのでまだ我慢できたんですけど、グラウンド整備が終わったら太陽が隠れて雨もパラついてきて。寒いし、緊張するし、カチカチになっていました。だから守備中はずっとジャンプして、足が固まらないようにしていました」

一方、敗れた青森山田の選手は、「青森のほうがずっと寒いので、甲子園は全然寒くなかった」と語る選手が多かった。そんななか、ある選手はこんな実感を語っている。

「寒さより空気が乾燥していて、指先がカサカサになったのが気になりました。言い訳にはしたくないんですけど、対策しないといけない部分だったと感じます」

いくら寒さに強い北国のチームであっても、冬場は雪に閉ざされ実戦練習が不足するハンディキャップがある。逆に南国のチームは寒さに弱くても、年間通して実戦練習ができるアドバンテージがある。

センバツが開催されるのは、対外試合が解禁されて間もない肌寒い時期。その時期に強いと一概に断じられるチームはなさそうだ。

最後にひとつ朗報だ。天気予報によると、大会4日目(3月21日)以降は気温が上昇し、大会5日目(3月22日)以降は気温20度を超える見込み。「冬のセンバツ」は閉幕し、いよいよ「春のセンバツ」が本格化してくる。

春の訪れを実感できるような、熱い戦いが展開されることを願いたい。

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