2014年から生産を始めたボルボの最上級SUV、XC90。この度、2度目となるマイナーチェンジが施され、プラグインハイブリッドの「XC90 Ultra T8 AWD Plug-in hybrid」を試乗してきた。試乗車はXC90の最上級モデルで、オプションとしてBowers & Wilkinsのオーディオが装着されている。
【画像】フロントエンドは一見フルモデルチェンジかと見間違えるほど。洗練されたデザインのボルボXC90(写真31点)フロントエンドは大幅に刷新され、ボルボの電気自動車ラインナップとのデザイン親和性が高められた。Aピラーから前方は全てが新しくなっており、一見するとフルモデルチェンジと見間違えるほどだ。一方、リアエンドに大きな変更はないものの、テールランプのデザインが新しくなっている。
ドアを開けると、真っ先に目に飛び込んでくるのは11.2インチの大型タッチスクリーンだ。従来モデルと比較してピクセル密度が21%向上し、より鮮明な表示を実現。この新システムは、ボルボの新型電気自動車EX90やEX30で採用されているものと同様のユーザーインターフェースを備え、直感的な操作性を提供する。物理スイッチ派の筆者でも、事前に操作方法を聞くことなく容易に操作できた。「スカンジナビアンデザイン」という言葉を安易に使いたくないが、シンプルながら上質な室内空間に仕上げられているのはただただ、お見事としか言いようがない。
パワートレインは従来通りで、最高出力317ps、最大トルク400Nmを誇る2L直4ターボエンジンをフロントに、最高出力145ps、最大トルク309Nmを発揮する電気モーターをリアに搭載。組み合わせられたトランスミッションは8速ATだ。リチウムイオン電池はセンタートンネル部分に配置されており、スペース効率、運動性能、安全性のすべてを満たしている。
大型タッチスクリーンで選択できるドライブモードは「ハイブリッド」、「ピュア(EV走行)」、「パワー」、「AWD」、「オフロード」の5つ。デフォルトはハイブリッドで、バッテリー残量が許す限り、アクセルペダルを強く踏み込まなければEV走行を優先する。新たにファイアーウォールやピラーに追加された遮音材、アクティブノイズキャンセレーション、ラミネートウィンドウ(合わせガラス)、そしてEV走行の組み合わせがもたらすものは、限りない静寂だ。
満充電時には約73kmのEV走行が可能となっており、ハイブリッドモードでもエンジンを使うことなく一日の移動をこなせる場合もあるだろう。プラグインハイブリッドモデルはエアサスペンションが標準装備され、前後に275/35R22インチという大きな扁平タイヤを履きながらも、静かに滑らかに前進する。セルフレベリング機能と速度に応じた車高調整機能も備わっており、車両の動きや路面状況を1秒間に500回モニタリングしているという。
ドライブモードで「パワー」を選択すると車高が下がり、エアサスペンションも"引き締まった"雰囲気に変わるのはセオリー通り。「パワー」を選択していなくても、速くコーナーを駆け抜けると適度なボディロールをしながらも、路面を4輪がしっかりと掴んでいることを感じさせ不安感がない。必要な性能か否かは置いておいて、参考までにプラグインハイブリッドの0→100km/h加速は5.2秒と発表されている。
だが、XC90の本領はそこではないと思う。
いざとなれば速く走れるポテンシャルを秘めながらも、通常時はどこまでも滑らかなのだ。特筆すべきはハイブリッドモードの優等生ぶりだろう。ライバルを凌駕する静粛性とフラットライドから、SZ系のロールスロイス/ベントレーがモダナイズされた乗り心地を思い浮かべた。その雰囲気を満喫すべく試乗中、車両設定でステアリングを「ソフト」に設定したほどだ。エアサスペンションがもたらすフラットライドは過度に柔らかいのではなく、路面の凹凸を軽やかに受け流してくれる。
「Bowers & Wilkinsのオーディオ、素晴らしいので機会があれば試してください」と試乗前にボルボの担当者に言われたことを思い出し、オーディオを操作してみた。当初、音楽配信アプリから流れてくる音楽に特別な印象を受けなかったが、サウンドメニューで「強さ」(エフェクトの)、「エンベロープ」(抱擁感)を高めてみたところ、状況は一変した。約30万円のオプション装備だそうだが、それ以上の価値が見出せる音響空間へと大変身。何時間でも運転していたいと思わせる雰囲気が生まれた。
日本では、現在もコンスタントに年間1,000台強のXC90が売れていると聞く。これは、間もなく日本での販売10年目に突入するにもかかわらずの数字だ。この実績が物語るのは、一過性のブームではなく、確固たる実力と信頼の証だろう。XC90の購入者層は目新しさや流行を追う人々ではなく、家族構成やライフスタイルの変化に応じて、最新のXC90を選んでいるのだろう。
XC90の魅力は派手さや際立った個性ではない。いざというときに揺るがぬ安全性能(アクティブもパッシブも)と、ライバルに勝らずとも決して劣らない高級感という「確かさ」にある。場所を変えてアメリカでも昨年度、ボルボで2番目に売れた車がXC90なのだそうな。
その洗練された静けさと、どこまでも滑らかに続く走りは、移動という行為そのものの本質を問い直すような体験だった。
文:古賀貴司(自動車王国)写真:尾形和美
Words: Takashi KOGA (carkingdom)Photography: Kazumi OGATA
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