3月14日(金) 12:00
『アベンジャーズ/エンドゲーム』『グレイマン』のアンソニー&ジョー・ルッソ監督の最新作『エレクトリック・ステイト』がNetflixで配信されている。
本作は知能をもつロボットが人間と共存する世界を舞台にした作品だが、これまでのルッソ兄弟の作品同様、完全なフィクションを描くのではなく、私たちの暮らす社会の問題や実像を照らし出す物語が描かれる。彼らは本作で何を目指すのか?配信直前のタイミングで話を聞いた。(インタビューではアンソニー、ジョーの両監督が質問に答えたが、以前、ふたりから「僕らふたりの意見として答えさせてほしい」と言われたことがあるため、本稿でも“ルッソ監督”として掲載する)
『エレクトリック・ステイト』の舞台は、ロボットが高度な知能を持った世界。かつて人間に仕えていたロボットは自分たちの権利を訴えて反乱を起こし、現在は人間が制御可能なロボットだけが社会で活動し、追放されたロボットは塀に囲まれた“エレクトリック・ステイト”と呼ばれる土地に追いやられている。主人公の女性ミシェルは、黄色いロボット“コスモ”と出会ったことから、姿を消した弟クリストファーを探す冒険の旅に出ることになり、隠されていた真実、そして消えた弟の真相に直面する。
原作になったのは、スウェーデン出身のシモン・ストーレンハーグの同名書籍。イラストとテキストで描かれる世界観とドラマに監督たちも魅了されたようだ。
「ストーレンハーグのアートワークを見て、親しみがありながらも奇妙な世界観が素晴らしいと感じたんです。この世界について問いかけてくるようなテーマにも興味関心を持ちましたし、クリエイティブな面でも刺激を受け魅了されたので、映画化したいと思いました」
ストーレンハーグの描く世界は、ロボットやドローンが日常に入り込んだ近未来的な光景でありながら、同時にフィフティーズのアメリカや、80年代のアニメーションのキャラクターなど、異なる時代やエリアの文化とデザインが意図的に混在・融合されている、荒涼とした自然に巨大なメカが横たわる奇妙な感覚、温かみのある違和感、既視感のあるものを集め合わせて生み出される斬新さ……映画化では『ブレードランナー 2049』のデニス・ガスナーと、ドラマ『地下鉄道』『シタデル』などに参加しているリチャード・L・ジョンソンがプロダクション・デザインを担当。唯一無二の世界が築かれた。
その一方でルッソ監督は、ロボットやドローン、近未来のガジェットを“そのまま”描くことなく、別のものを象徴させるように描いている。本作に登場するロボットは、単なるSF的なメカではなく“人間に召使のように酷使され、自身の権利を主張して運動を起こすキャラクター”として登場する。進化したVRゴーグルは臨場感ある映像を観るアイテムではなく“日常から目を逸らすためのツール”として描かれる。
「私たちは、現実世界で経験していることをストーリーテリングに盛り込むようにしていますが、いつも我々の抱えている問題や不安を”ファンタジーの世界”に置いて伝えることにしています。そうすることで私たちの悩みや経験を少し形を変えて描けます。本作ではスマートフォンではなく“ニューロキャスター”と言うものが登場しますが、この設定を導入することで、スマートフォンの存在や現実世界で起こっている問題をより映画的に面白く描くことができます。また観客は少し形を変えたものを観ることで、現実に存在するバイアスや偏見を取り払って問題を見ることができるわけです」
現実世界の問題や悩みをそのまま描かずに別の何かに“置き換えて”描く手法はルッソ監督の十八番だ。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』では主人公が“私たちは安全のためにどこまで自分のプライバシーを犠牲にできるのか?”という問題に直面した。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』ではヒーローたちが、宇宙の均衡を保つために全宇宙の生命の半分消し去るべきだと主張する敵と対面する。どれも描かれるのはフィクションで、ファンタジーの世界だ。しかし、その奥には現実の社会が抱えている問題が見える。
本作も先の『キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ』を執筆した脚本家クリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーが脚本を手がけた。本作では独善的な人間が何らかの価値を良かれと思って押し付けてくる問題が根底に描かれる。便利や快適、正義の名の下に私たちの自由や喜びが奪われようとしている。それで良いのか?『エレクトリック・ステイト』は『キャプテン・アメリカ』や『アベンジャーズ』と同様の視点を持つ作品だ。
「私たちは大きな変化を遂げている混沌とした世界に住んでいます。90年代のデジタルの進化から変化はより大きくなっていると思いますが、私たちは常に支配から逃れたいという想いがあり、一方で新しい可能性が出た際にはそれが危険なものにならないように制御したいという欲求があると思います。
逃れたい想いと、支配したい欲求が同時に存在する。私たちは生活する中でこのパラドックスについて考えていると思うのです。そしてこのふたつの衝動が私たちの暮らしにどう影響を与えているのか?それは社会を見る広大でグローバルな視点と、個人の生活というパーソナルな視点から考察できるでしょう。私たちはこれらの“ふたつの概念”を面白いと思っているのです」
本作はアクション満載、笑えるシーンたっぷりのエンターテイメント大作だ。一方でじっくりとリピート観賞すると、ルッソ監督と脚本家チームが映画の後景に仕掛けたドラマやメタファー、問題意識が見えてくるはずだ。気軽にリピート観賞できるのがNetflixの魅力でもある。繰り返し観て、心ゆくまで本作を堪能してほしい。
Netflix映画『エレクトリック・ステイト』
Netflixで独占配信中