2024年は主演映画「熱のあとに」を始め、映画「劇場版 アナウンサーたちの戦争」やドラマ「新宿野戦病院」など話題作への出演が続いた橋本愛さん。
【写真】橋本愛の美しい“金髪ボブ姿”の撮り下ろしカット多数
柚木麻子さんの小説「早稲女、女、男」を実写映画化した「早乙女カナコの場合は」では、恋に不器用でしっかり者の主人公・カナコを演じている。自身が演じた役柄の魅力や作品と向き合っていく中で感じたこと、さらに“言葉の扱い方で大事にしていること”などを語ってくれた。
■映画版はいろいろとアップデートされていて「そこはすごくすてきだなと思いました」
――本作の原作である柚木麻子さんの小説「早稲女、女、男」を最初に読まれた時の感想を教えていただけますか?
【橋本愛】5年ほど前に本作のお話をいただいて、その時に初めて読ませていただいたのですが、まず惹かれたのが柚木さんの軽やかでユニークな文体でした。
だけど読み進めていくと、人にはあまり見られたくないようなところを暴かれているような感覚になり、“ここまでむき出しにされちゃうのか”と驚きました(笑)。もちろん、そういったところにもすごく惹かれましたし、登場人物たちに共鳴できる部分も多々あったので、すごくおもしろい小説だなと思ったのを覚えています。
――「早稲女、女、男」は10年以上前に発売された小説ですが、本作ではあらゆる部分が現代版にアップデートされている印象を受けました。
【橋本愛】現代では男女二元論で語ることが少なくなりましたし、古いジェンダーロールに縛られることも少なくはなってきていますが、昔は「女とは」「男とは」といったことを私自身掘り下げて考えてしまっていた時期があったなと、原作を読んで懐かしい気持ちになりました。
タイトルには「早稲女」とありますが、本作では大学名を出していないですし、確かに映画版はいろいろとアップデートされていますよね。私自身もそこはすごくすてきだなと思いました。
――橋本さんは“過剰な自意識から人に素直に甘えられない不器用な早乙女カナコ”のどんなところが魅力的に感じましたか?
【橋本愛】カナコは中川大志さん演じる長津田と、中村蒼さん演じる吉沢という二人の男性を翻弄している計算高い女性に見られることもあるけれど、カナコの内心はもっと泥臭くて、もっと誠実なんです。長津田と別れてすぐに吉沢と付き合うほうが楽なのに、それがどうしてもできない。
「乗り換える」みたいなことは相手にも失礼だし、そういう行為をする自分を自分で許せないと思う気持ちと、周りからキャラ的に許されていないんじゃないか、という気持ちがあったのではないかと。彼女の自意識が絡むゆえの葛藤を抱く姿がすごく魅力的に感じました。
――留年を繰り返すダメ男の長津田くんよりも、真っ当に生きている吉沢さんと付き合ってしまえばいいのにと思いながら観ていました(笑)。
【橋本愛】そう仰る方は多いです(笑)。吉沢さんとお付き合いしてダメだったとしても、その経験はカナコにとってきっといいものになるはずで、だけどどうしてもそれが心情的に許せない。不器用な人ですよね。カナコは自意識に絡め取られながらも、相手に対して誠実な心も持っているので、そこがすてきに感じるし、“キャラ的に私にはできない…”みたいな気持ちも、私にはよくわかるんです(笑)。
――「キャラ的に」というのは、橋本さんのパブリックイメージということでしょうか?
【橋本愛】こういうお仕事をしているとパブリックイメージがついて回るのですが、10代のころはそれが自分自身とあまりにも違いすぎて、どうしていいかわからなくなることもありました。昔ほどではありませんが、“これって私のキャラ的に許されるかな…?”と考えてしまうことが今もあって。
たとえば、バラエティ番組に出演した時に“こういう発言していいのかな?”とか、友達が撮った動画で私がすごく変な動きしているのを客観的に見て、“この映像が世に出てしまったらファンが減ってしまうかも…”と不安になることもあるんです(笑)。だからなんとなくカナコの気持ちがわかる気がして。葛藤しながらも、“周りが抱くイメージ”と“ありのままの自分”のどちらも大事に思っているカナコにすごく共感しながら演じていました。
■男性から下に見られたくないという自意識は「私自身もありますし、カナコもそうなのではないかなと」
――カナコと長津田くん、カナコと吉沢さんの関係性をどんなふうに捉えて演じられたのでしょうか?
【橋本愛】吉沢さんは自分以上にカナコを愛してくれて、いつも素直な思いを伝えてくれる人で、彼を好きになれたらよかったのにとは思うんです。だけどカナコにとって、どうしようもなく大事なのは長津田なんです。それがなぜなのかと考えたとき、長津田にだけは恐怖心を抱かなかったことが一番大きいんじゃないかなと。
カナコは“男性恐怖症”というのが根底にあるんです。でも、たとえば長津田とは手を繋いでダンスもできるし、近い距離にいても怖くない。なんていうか…長津田からは性的な目線を感じないからこそ安心できた。そこがカナコにとって、唯一無二の存在だと思える部分だったんじゃないかと、そんなふうに捉えながら演じていました。
――カナコが吉沢さんに「泊まらなきゃダメですか?」と聞くシーンは、“わかるわかる…”と思いながら観ていました。吉沢さんはすてきだけれど、性的な何かを感じた瞬間にちょっと引いてしまうというか。
【橋本愛】そうなんですよね。吉沢さんがカナコを大切に想っているのはわかるのですが、同時に性的なフェロモンがすごく出ているので(笑)、どこか“怖い”というか抵抗が生まれてしまったのかなと。だけど長津田にはそういう怖さは感じていなかったから、好きでい続けられたんだろうなと思います。
――大人になってからのカナコと長津田の関係性がまた変わっていくところも本作のおもしろさですよね。
【橋本愛】大人になって二人が再会したシーンでは、長津田が真っ当な社会人として生きていて、それはカナコが大学在学中に望んだ長津田の姿なんです。ところが、そんな長津田を目の当たりにしたカナコは“なんなんこいつ”と思ってしまう(笑)。原作ではカナコが“長津田は自分より下じゃないとダメ”だと思っていることが書かれていて、その部分を読んだ時に“うわっ!生々しい…”と感じたのを覚えています。
――ダメ男を好きになってしまう女性があのシーンを観たら、“痛いところを突かれた…!”と思うかもしれませんね(笑)。
【橋本愛】そうかもしれません(笑)。“男性から下に見られたくないという”という自意識は私自身もありますし、たぶん本作のカナコもそうなんじゃないかなと。文句を言いながらも長津田のことが好きだったのは自分の優位性を維持できていたからで、そうでなくなった時に“思っていたのと違う”と感じて離れたくなる。だけどそれを凌駕するような何か特別なものが二人の間にはあるので、そこがすごくすてきだなと思いました。
■応援してくれる方々とのコミュニケーションで気づいたのは「“言葉にしないこと”の大事さ」
――インタビュー中“自意識”、“パブリックイメージ”という言葉がありましたが、ご自身がどんなふうに見られているのか、どんな方から応援されているのかを少し知ることができるのがInstagramでのインスタライブの時間なのかなと思いました。橋本さんはインスタライブでファンの方とよくコミュニケーションを取っていた印象があるのですが、そういった交流の中で気づいたことがあれば教えていただけますか?
【橋本愛】最近はあまりインスタライブをする時間がないのですが、ファンの方のコメントを読みながらやり取りする時間はすごく好きです。基本的に人見知りではあるのですが、自分のことを応援してくれる方々とのコミュニケーションはすごく楽しいです。そんな中で気づいたのは、“言葉にしないこと”の大事さです。今までは言葉にすることを大事にしていたのですが、今は違うフェーズになっていて。
――発言する際に気をつけるというということでしょうか?
【橋本愛】炎上を恐れているわけではないんですが(笑)、言葉って良くも悪くも誰かに影響を及ぼしてしまうので、大事に扱わなければいけないと改めて気づかされたことがあって。なのでSNSで何か文字を打ってアップする際は、一言一句辞書で調べて、ちゃんと意味が合っているかを確認するようにしているんです。
辞書も広辞苑もすごく重いので、その重みを感じながら言葉を発信することが大事だなと思って。言葉が本当に好きだからこそ、何を発言し、何を言葉にしないかを考えなければいけないなと。そういう気持ちを大事に、これからも言葉や人と向き合っていきたいです。
――話は変わりますが、橋本さんは2024年の東京国際映画祭でコンペティション審査委員を務められ、普段から幅広い作品に触れていることで有名です。そんな橋本さんの最近のおすすめ映画やドラマをご紹介いただけますか?
【橋本愛】2024年に公開された「関心領域」がすごく印象に残る作品でした。アウシュビッツ収容所の壁一つ隔てた隣で暮らす収容所所長ルドルフ・ヘスと、その家族を描いた作品なのですが、直接的な暴力描写がないにもかかわらず、音によってその暴力を想像させられてしまう、その生々しさを体感させられました。
――壁の向こうから叫び声や不穏な音が常に聞こえてきて、音でいろいろと想像させられたのがすごく怖かったです。
【橋本愛】ルドルフ家では実際にあの音が鳴っていたことを想像するとまた怖いですよね。授業でアウシュビッツ強制収容所のことは習いましたが、この作品を観て“ちゃんと歴史を忘れずに、今起きていることにも目を背けていないか?”と問われているような気もしました。
――では、ドラマでおすすめの作品は何かありますか?
【橋本愛】ずっと気になっていた「ブラッシュアップライフ」を途中まで観ました。噂どおりすごくおもしろくて、続きが気になっています。あと、大河ドラマ「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」で横浜流星さん演じる主人公の蔦屋重三郎の妻・てい役を演じるにあたり、勉強のために2023年に放送された「大奥」を観ています。吉永ふみさん原作の男女逆転の「大奥」がすごくおもしろくて引き込まれます。「べらぼう」もおもしろい作品なので、「早乙女カナコの場合は」と共にチェックしていただけたらうれしいです。
取材・文=奥村百恵
◆スタイリスト:清水奈緒美
◆ヘアメイク:石川ひろ子
(C)2025柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
【関連記事】
・
松本若菜「肉感はあるけど引き締まっている体づくりを目指した」最新作で摂生して臨んだ“挑戦的な衣装”
・
小芝風花、今後挑戦したいのは「思いっきりダークな悪役」。オファーを受け大興奮した“ローハンの戦い”では王女ヘラ役
・
「光る君へ」一条天皇役で大注目の塩野瑛久、「受け入れてくれる人にしか言わない」引かれる可能性のある“アニメ作品の見方”
・
水原希子「失ったと思っていたものが実は違った」滝行で蘇った、距離を感じていた母との記憶
・
「THE W」王者・にぼしいわしに聞くフリーの“メリット・デメリット”、利点は「全方位・複合的にネタをブラッシュアップできる」こと