【3.11 被災タワマン4棟からの教訓】南海トラフ地震など災害に向けたタワマン防災とは?マニュアル、設備、コミュニティ形成などの学び仙台市

(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)

【3.11 被災タワマン4棟からの教訓】南海トラフ地震など災害に向けたタワマン防災とは?マニュアル、設備、コミュニティ形成などの学び仙台市

3月9日(日) 22:00

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前編では、東日本大震災で被災した4棟のタワーマンションの被害状況や課題について見てきた。
地震国日本においては全国どこに暮らしていても、どんな家に住んでいても大地震への備えが必要だ。ただし、タワマンは高さが破格であること、さまざまな設備によって生活が支えられていること、数百から数千人という多様な住民が暮らしていることで、戸建てや低中層のマンションとは違った特質を備えている。
後編では「大地震・災害に対して、タワマンはどのような備えを行うべきなのか」被災タワマンの関係者の声に耳を傾けてみよう。

■関連記事(前編):
【3.11 被災タワマン4棟のリアル】被害の明暗を分けたのは“構造の違い”。東日本大震災から14年目、住民たちのホンネ仙台市

防災マニュアルは策定途上。ノウハウは役員の頭のなかにあった

ライオンズタワー仙台広瀬(以下、広瀬)では、入居から7年目、2010年4 月の管理組合定例総会で、予算を確保して防災マニュアル作成計画の承認を受けた。
当時の管理組合法人理事長で建築系の大学教員だった杉山丞(すぎやま・すすむ)さんは「タワマンが多く建つ東京都中央区に視察を申し込みました。その際、中央区の指導のもといち早く防災マニュアルを作成していたリガーレ日本橋人形町 にも視察に行きました」と、東日本大震災発災前年に、防災への備え を始めたことを話してくれた。

取材に応じたタワーマンション概要

取材に応じたタワーマンション概要

ライオンズタワー仙台広瀬は、2002年竣工で東北初の免震タワマンだ。32階建て・421戸と巨大だ(写真:村島正彦)
ライオンズタワー仙台広瀬は、2002年竣工で東北初の免震タワマンだ。32階建て・421戸と巨大だ(写真:村島正彦)

「その後、仙台市消防局にも何度か相談に行って、準備を進めていました。それが、マニュアルの完成・住民への配布を目前に、東日本大震災が起こったのです」という。「ただし、このマニュアル検討を進めていた自治会・理事会役員は、当タワマンの設備や発災後の対応手順がアタマに入っていたため、結果としてたいへん役に立ちました」と説明してくれた。
その実例としては被災の教訓も踏まえて、以下のようなものだ。

1)自分のマンションの給水設備が停電時にどうなるのか、断水時にどこまで予備が残るのか、それをどのように取り出せば良いのかなどを把握できていた。また、それを水タンクに入れて運ぶ流れもスムーズにできた。

2)非常用自家発電機があるような大規模な高層マンションであれば、それが命綱になる。燃料を十分に備蓄し、自家発電機に負荷をかけずに運転を長引かせる方法を把握し、自家発電機から電気を送れる照明、非常コンセント、非常電話の場所と、その有効な利用方法などを理解できていた。これは、災害対策本部や避難所の設営や、携帯の充電などにおいても威力を発揮した。

3)2フロア程度のブロックを設定し、自治会班長をブロック長として、日ごろから交流を図り、災害時には安否を確認し合う体制を、マニュアルを通じて構築しようとしていたが、今回はマニュアル配布直前だったこともあり、残念ながらそこまでの周知徹底は図れなかった。

4)マニュアルを検討する中で、居住者の実態を把握しようと現況調査を行ったことによって判明した「防災弱者」世帯(およそ70歳以上の高齢者のみの世帯)に対して個別訪問し、安否確認と困っていることの聞き取りを行い、若干の食糧支援を含めおおよそ対応できた。

5)マニュアルとは別に、日頃から防災訓練と併せて炊き出しの訓練を重ねてきたことで、ガスボンベや調理器具、発電機などが随分と揃っていた。アルファ米やビスケットなどの備蓄があるとより良いとは思うが、過度に自治会・理事会に依存することなく、各家庭が3日分の備蓄を行うことを前提としたい。

出典:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人提供資料より

大震災前に「災害時対応マニュアル」の発行・住民への配布周知がかなわなかったことは残念ではあるものの、こうした検討と建物の設備の確認、取り扱い手順、防災弱者の把握と安否確認、炊き出しまで行えたことは、刮目に値するだろう。
マンション管理会社にお任せでは、こうはいかない。
住民組織である管理組合が主体的に動いて、それぞれのマンションの設備機器や住民特性に合った「災害時対応マニュアル」の整備が役に立つことがよく理解できた。

2011年9月に完成した全戸配布の「災害時対応マニュアル」。副題に【地震に強い自立型高層住宅のために】と添えられている。管理組合では「ひろせの杜」という広報紙を隔月で発行している。東日本大震災後の2011年7月号(資料:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)
2011年9月に完成した全戸配布の「災害時対応マニュアル」。副題に【地震に強い自立型高層住宅のために】と添えられている。管理組合では「ひろせの杜」という広報紙を隔月で発行している。東日本大震災後の2011年7月号(資料:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)

防災体制構築で管理会社と役割分担。被災対応を円滑化

つぎに防災体制については、アップルタワーズ仙台(以下、アップル)管理組合法人理事長の武藤潤子さんのお話をひもといてみよう。

アップルタワーズ仙台。手前のアベリアタワーは18階建ての耐震構造。奥に見えるのがブローディアタワー、30階建てで免震構造だ(写真:村島正彦)
アップルタワーズ仙台。手前のアベリアタワーは18階建ての耐震構造。奥に見えるのがブローディアタワー、30階建てで免震構造だ(写真:村島正彦)

武藤さんは「そもそも私は東日本大震災後に、購入し入居しました」と断ったうえで話してくれた。
「8年前に私が理事長に就任したときには、管理組合としては防災について何も対策を取っていませんでした。たまたま、仙台市が行っている『杜の都防災力向上マンション認定制度』 のことを知り、この最高格付け【六つ星】を取ることを目標にしました」という(※1(参考ページは記事末に記載))。

「杜の都防災力向上マンション認定制度」チラシ。防災力の向上を目指し「1つ星」から取得を呼びかけている(資料:仙台市)
「杜の都防災力向上マンション認定制度」チラシ。防災力の向上を目指し「1つ星」から取得を呼びかけている(資料:仙台市)

まず行ったことは「防災マニュアル」の整備だが、年を経るごとに、災害を経験するなどして新たな発見があり、マニュアルは既に4回改訂したという。

武藤理事長が作成・全戸配布している「理事会ニュースプラス」。『防災力向上マンション認定』で「六つ星」を取った以外にも『マンション管理計画認定制度』(※2)でも100点満点を取得したという。「分譲会社が販売時に掲げた『100万人が嫉妬するタワーマンション』というキャッチフレーズを踏まえて、管理組合としてもさらに価値向上を目指す」と話す(資料:アップルタワーズ管理組合法人)
武藤理事長が作成・全戸配布している「理事会ニュースプラス」。『防災力向上マンション認定』で「六つ星」を取った以外にも『マンション管理計画認定制度』(※2)でも100点満点を取得したという。「分譲会社が販売時に掲げた『100万人が嫉妬するタワーマンション』というキャッチフレーズを踏まえて、管理組合としてもさらに価値向上を目指す」と話す(資料:アップルタワーズ管理組合法人)

2021年2月に仙台市を震度5強、同年3月に震度5弱の大きな地震が襲った。「2月の地震ではエレベーターが緊急停止して,常駐の管理員さんたちは、至るところで鳴る警報音に駆け回って対応していました。そんな様子を見て、震度5以上の地震が起きたら管理組合理事に1階のロビーに集まってもらうことにしました。管理員さんは緊急対応で管理員室に不在になるので,われわれでできることは対応しようということです」

翌3月の地震では、それが実行に移された。「私たちで管理員室に備えられたホワイトボードをエントランスに出して『エレベーターが停止していること、検査員が来るまでは動かないこと、前回の地震では復旧に5時間を要したこと』など掲示しました」という。

帰ってきたお年寄りや子どもの対応をしたのも理事たちだ。「階段を昇れないと泣き出す子どもがいたりして、低層階にある共用部の和室やシアタールームなどを開放することを考えました。しかし、その鍵の所在が分からなかったことから、以後、管理員室に緊急時に理事が持ち出せる防災倉庫など含めた全てのスペアキーを入れた『キーボックス』を用意してもらいました」と経験を踏まえた対応を模索している。

2011年以降の仙台市に関係する主な地震

2011年以降の仙台市に関係する主な地震

仙台市では近年だけでも、2021年に2回、2022年に1回、4棟全てでエレベーターが緊急停止する大きな地震が起こった。アップルではいずれの場合にも、復旧まで約5時間を要したという。Bタワマンは平時にも関わらず郊外だからか復旧には1〜2日かかったとのこと(上の図は「気象庁震度データベース検索」より※仙台市の震度は、青葉区・若林区・太白区の観測地点のうちの最大震度)

このほかにも、非常用発電機を長く使えるように燃料予備タンクを備えたり、受水槽のポンプが作動しなくても直接取水できるように蛇口を取り付けた。全てのエレベーターに後付けで、カゴ内に閉じ込められた際の防災セットを備えるなど、緊急時を想定して逐次改善を試みている。

また、年に2回、義務づけられている防災訓練では、理事の全員が、非常用電源やポンプの再起動の方法の予行訓練を行って、非常時に備えている。

年に2回の防災訓練では、理事たち全員が発電機の使用方法などを確認する(写真:アップルタワーズ管理組合法人)
年に2回の防災訓練では、理事たち全員が発電機の使用方法などを確認する(写真:アップルタワーズ管理組合法人)

防災訓練への参加を呼びかけても参加は限られるため、全住戸に「避難訓練問題」を配布して、回答をコンシェルジュに持参してくれたら粗品を提供するなどして、住民の防災意識のボトムアップにつとめている(資料:アップルタワーズ管理組合法人)
防災訓練への参加を呼びかけても参加は限られるため、全住戸に「避難訓練問題」を配布して、回答をコンシェルジュに持参してくれたら粗品を提供するなどして、住民の防災意識のボトムアップにつとめている(資料:アップルタワーズ管理組合法人)

仙台市の認定制度では「防災活動」において、地域との連携を求めている。
武藤さんは「私たちのタワマンが建つ周囲の町内会で防災訓練もやっており、そこと連携を持つ必要があることを知りました。そこで、仙台市と相談してアップルタワーズ単独で町内会を新しく組織して、近隣の町会と連携を取ることとしました。それから、私たちの敷地は大規模開発で公開空地も大きく、建物も免震で安全性が高いので、空地や建物のエントランス内も開放して地域貢献することも視野に入れています」という。

サークル活動・お祭り、日ごろからのコミュニティが生きる

タワマンというと、居住者は周囲とのお付き合いは控えがち、プライバシーに踏み込まないクールな印象がある。最近、SNSでは「タワマン文学」と称して高層階と低層階の分断などを揶揄する向きもある。
ただし、災害時を考えると、そんなことは言っていられない。タワマンこそコミュニティがないと極めて脆弱なのだ。

広瀬の杉山さんは「2フロアの26戸でひとつの班を構成しています。これは非常時の安否確認を行う単位で、班ごとにブロック長を決めています。お互いに顔見知りとなっておくことも大切で、スカイラウンジで班別の懇親会を開くなどして、コミュニケーションを図る工夫をしています」という。ただ、こうした防災を前面に出した堅苦しい会だけでは参加も少ないし継続性がないため、頻繁に交流イベントを開催している。

2フロア・26戸毎のブロックで自治会の班を構成。班毎にスカイラウンジで防災マニュアルの説明と併せて懇親会を開き、交流を促している(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)
2フロア・26戸毎のブロックで自治会の班を構成。班毎にスカイラウンジで防災マニュアルの説明と併せて懇親会を開き、交流を促している(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)

防災訓練では、ブロック長がマンションの防災施設について視察し知識を深めて、もしものときに備える(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)
防災訓練では、ブロック長がマンションの防災施設について視察し知識を深めて、もしものときに備える(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)

そのなかでもいちばんのイベントは、8月の夏祭りだ。毎年、公開空地などに設けたステージで、和太鼓やバンド演奏、住民によるフラダンスや演舞などが披露される。屋台が設けられビールが振る舞われ、最後は盆踊りで締めくくられる。
住民間の交流を促し、また、屋台の出店では、防災用に備えたコンロ、プロパンガスなどを活用し、非常時の予行演習にもなっているという。

防災訓練やお祭りの際に防災用に備えたコンロや寸胴鍋を試用していたことで、発災後に炊き出しを行うことができた(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)
防災訓練やお祭りの際に防災用に備えたコンロや寸胴鍋を試用していたことで、発災後に炊き出しを行うことができた(写真:ライオンズタワー仙台広瀬管理組合法人)

アップルの武藤さんは「生け花教室や健康体操をやったり、コミュニティ活動にも取りかかりました。それが、防災連携のために町内会をつくったことをきっかけに、こうした活動がより活性化しています。エントランスホールで住民のみなさんの趣味の絵や洋裁などの作品を展示する文化祭、ハロウィンでは子どもたち向けにコンシェルジュにお菓子を用意し配布したり。いちばん大きいのは夏祭りです。大道芸や手品師を呼んだり、かき氷やポップコーン、射的や水ヨーヨーづくりなど住民それぞれの得意な範囲で手づくりのお祭りです。いまでは、毎月なにかイベントをやっています。防災と構えずに、ふだんのこうした活動で、顔見知りを増やしてもらって、コミュニティを醸成し、いざというときの助け合いにつながればと考えています」という。

夏休みには、エントランスホールでラジオ体操を行う(写真:アップルタワーズ管理組合法人)
夏休みには、エントランスホールでラジオ体操を行う(写真:アップルタワーズ管理組合法人)

住民が主体となって行っている手作りの夏祭り。住民が子どもたちに水ヨーヨーづくりを教える(写真:アップルタワーズ管理組合法人)
住民が主体となって行っている手作りの夏祭り。住民が子どもたちに水ヨーヨーづくりを教える(写真:アップルタワーズ管理組合法人)

Bタワマンの住宅部会長の森陽夫(もり・あきお)さんは、発災後に自治会が役に立ったことについて紹介してくれた。「竣工し一斉入居した翌年2000年に、3人の有志の女性を中心に自治会が発足していました。日ごろから培った住民同士の付き合いが奏功して、倒れてきた重い仙台箪笥に挟まれた人の救護など、隣近所の人たちで対応したと言います。また自治会で備蓄したアルファ米と住民の持ち寄った食材で豚汁などの炊き出しを3日間にわたって行い、被災後の空腹を満たし、寄り添い助け合うことで安心感をもたらしました」と話してくれた。

長期を見据えて防災設備の刷新も織り込む

タワマン規模となると、管理員室に防災センターの機能を備えることが法令で定められている。火災警報器、エレベーターや非常用電源、スプリンクラーなどをモニタリングする制御盤を備えて、管理員が建物の安全を見守っている。

こうした施設・設備は、不具合や故障があったら適切に修繕し、20~30年を超えると老朽化から設備交換の必要性もでてくる。制振・免震装置は、定期的メンテナンスはもちろん60年ほどで交換の必要があると言われている。

Aタワマン管理組合理事長の高橋博(たかはし・ひろし)さんは「わたしどものマンションは、1991年竣工なので今年で築34年になります。2022年に非常用エレベーターを含む3基のエレベーターを改修し、防災制御盤も同じ年に交換しました。とても費用がかかるものですが、安全の確保のためには必要な出費です」と話してくれた。
防災設備の保全のためには、住民が毎月納める修繕積立金の適切な徴収も必要となる。

築34年のAタワマンの防災センター。2022年に防災制御盤一式を交換した。老朽化した防災機器などを適切に修繕・交換することも大切だ(写真:村島正彦)
築34年のAタワマンの防災センター。2022年に防災制御盤一式を交換した。老朽化した防災機器などを適切に修繕・交換することも大切だ(写真:村島正彦)

長周期地震動について検証・改修が求められている

長周期地震動が建築領域で意識されはじめたのは比較的最近だ。
2003年の十勝沖地震の長周期地震動で、震源から約250km離れた苫小牧市の石油コンビナートで、タンク内の石油が共振しあふれ火災が発生した。2004年の中越地震では、東京都港区の六本木ヒルズ(制振構造)でエレベーター6機のワイヤーが共振損傷した。長い固有周期を持つ超高層建築が都市に一般化したことで、長周期地震動への対策が急務となったわけだ。

2016年、国は「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」という警鐘を、タワマンを含む超高層建築物の所有者に対して発した(※3)。
これは「既存の超高層建築物の耐震性に疑わしいものがあり、検証と対策」を促すものだ。
関東、静岡、中京、大阪地域において、地盤の評価を行い、長周期地震動に脆弱な地域を3段階で色分けして示した。3大都市圏という超高層建築物が林立する地域だ。

例えば大阪湾岸部では、従来想定されていた2倍もの地震動が襲うという。「建物が倒壊するまでには強度的に一定の余裕があると推察」されるとしつつも「建物の設計者等の専門家に相談」を呼びかけている。
2017年4月には、新たに設計に用いる「模擬長周期地震動波」を示して、超高層建築物に求める耐震性能を引き上げた。従来の設計用地震動の継続時間の120秒を、500秒以上に延ばした。
これは、東日本大震災において、東北地方だけでなく、東京都、神奈川県、遠く大阪府まで長周期地震動が及び重大な事態を招いたからだ。少なくとも30棟で免震装置の重要な部品である鉛ダンパーに亀裂を生じたことが報告されている。

国が示した長周期地震動対策の対象地域の超高層建築物には検証や改修について、補助制度の対象としている。そして、免震構造の建築物は、4階建て以上を検証の対象としている。

長周期地震動の仕組み
長周期地震動の仕組み。巨大地震が起きると、長周期地震動ははるか遠くまで届き、平野部においてお椀状に存在する厚くて柔らかい堆積層で増幅されて超高層建物を大きく長く揺らす(出典:国土交通省リーフレット)

長周期地震動の特徴
長周期地震動の特徴(出典:国土交通省リーフレット)

免震構造への長周期地震動による被害の恐れ。想定以上の地震動や周期によっては、免震層の過大な変形により擁壁へ衝突の可能性もあるのだという
免震構造への長周期地震動による被害の恐れ。想定以上の地震動や周期によっては、免震層の過大な変形により擁壁へ衝突の可能性もあるのだという(出典:国土交通省リーフレット)

建設時の想定を上回る可能性がある長周期地震動対策の対象エリア
建設時の想定を上回る可能性がある長周期地震動対策の対象エリア(出典:国土交通省リーフレット)

長周期地震動対策の補助制度
長周期地震動対策の補助制度(出典:国土交通省リーフレット)

これに対応して、賃貸のタワマンを所有・管理する東京都住宅供給公社、UR都市機構などは、検証済みあるいは検証を進めているところだという。
長周期地震動対策の補助事業を所管する国土交通省住宅局建築指導課に問い合わせてみたところ、制度開始以来、一般の分譲タワマンからの相談や問い合わせが14件あったそうだ(直接自治体への問い合わせ分は把握しておらず除く)。ただし、安全検証を行った分譲タワマンはゼロだという。

長周期地震動に脆弱な地盤と判定された大阪市や東京湾岸部などでは、地元行政の担当者が心配するものの、タワマン管理組合・住民に周知・理解が進んでいないという。

Bタワマンの森さんは「25階に住むわたしがこれまでもっとも怖い揺れを体験したのは、じつは2008年6月の岩手・宮城内陸地震でした。仙台市は震度5強で、長周期地震動の揺れも大きく、体感としては2〜3mくらいゆっくりと長い時間振り回され立っていないほどでした」と振り返る。

建築構造を専門とする工学院大学建築学部の久田嘉章(ひさだ・よしあき)教授に、これについてたずねた。「岩手・宮城内陸地震の当時は気象庁の長周期地震動階級の公表はありませんでしたが、観測された強震記録から階級は2~3程度、つまり振幅は15㎝から1mの範囲内と推定されます。振幅が『2〜3m』というのは大きすぎ、RC 造では最⼤でも両振幅で数10cm程度だと考えられ、体感として⾮常に⼤きな振幅に感じたのではないでしょうか。実は⾼層階にいると10〜20cm程度の揺れでも吊り下げているものが大きく揺れたり、物がぶつかったり、建物の軋みの⾳が聞こえ、窓の外の景⾊も動くので⼤きな恐怖を感じると⾔われています」と見解を述べた。

長周期地震動の観測情報について、国は2013年より「長周期地震動に関する観測情報(試行)」のページにて掲載を開始。2019年3月に本運用をはじめた。また、2023年2月からは観測情報のオンライン配信をはじめた(※4)。
なお、長周期地震動階級は1〜4まである。その揺れについては以下のように整理されている。
ちなみに、東日本大震災では、東京23区、静岡県東部などでは最大で長周期地震動階級4を、愛知県西部・大阪府北部・南部などで同2を記録したという。

長周期地震動階級関連解説表
長周期地震動階級関連解説表(高層ビルにおける人の体感・行動、室内の状況等との関連)(資料:気象庁)

比較的初期の超高層ビル、西新宿にある新宿野村ビル(1978年築・53階建て)は、2016年に長周期地震動対策を終えた。対策前に比べて揺れ幅を20~25%低減、揺れの継続時間を約50%短縮できるという。同様の耐震改修は、東京都庁、新宿三井ビルなど、業務系の超高層ビルでは実施済みだ。

国の長周期地震動についての警鐘のベースとなるのは、日本建築学会長周期地震動小委員会が2013年に出した報告書だという。この小委員会のメンバーで検証に中心的な役割を果たしたNPO法人 建築技術支援協会の小鹿紀英(こしか・のりひで)さんは、タワマンの診断・改修が進んでいないことを心配している。「国が示した対象エリアにおいては、危険度合いの色分けに関わらず、管理組合として診断を行ってもらいたい」と訴える(※5)。そのうえで「タワマンでは、屋上設置のマスダンパー方式の制振装置を採用すれば、生活に影響なく耐震性を高める改修が可能です。また、免震建物の固有周期は4秒程度のものが多く、地盤の固有周期がこれと共振すると想定以上の変形が生じる可能性があります。地盤の固有周期は、関東は6〜8秒、大阪は4〜7秒、中京は2〜4秒と考えられており、大阪・中京では共振が心配されます。免震だから安心と思わず検証を行ってもらいたい」と説明してくれた。
さらに「言うまでもありませんが、超高層では家具や什器の転倒や滑動の防止対策は必須です。東京都が出しているリーフレットに詳しいので、必ず対策を行ってもらいたい(※6)。横浜ランドマークタワー最上階の長周期地震動の動画がYouTubeにあるので見て欲しい(※7)」と付け加えた。

小鹿紀英さん
タワマンの高さに由来する固有周期と東日本大震災の地震動で中間階を中心に被害が大きかったメカニズムについて説明する小鹿紀英さん。大手ゼネコン・鹿島建設で制振技術の研究開発に取り組んできた人物だ(写真:村島正彦)

防災対策は、弱み強みの自己評価・防災マニュアル・助け合いで

それでは、来るべき大震災に対して、どのような対策を取るべきなのか。

2024年11月26日、「超高層住宅の災害対応を考える」(住総研シンポジウム)が東京都港区にある建築会館ホールで開催された。シンポジウムでは、地震工学/構造、防災、長期修繕、行政など多分野の専門家から発表があった。

一般財団法人住総研では、2024年度に「超高層住宅長寿命化研究委員会」を組織して3年にわたって研究を行うという。初年度には「災害対応」をテーマに研究を行い、2024年11月にその成果を発表するシンポジウムを開催した(写真:村島正彦)
一般財団法人住総研では、2024年度に「超高層住宅長寿命化研究委員会」を組織して3年にわたって研究を行うという。初年度には「災害対応」をテーマに研究を行い、2024年11月にその成果を発表するシンポジウムを開催した(写真:村島正彦)

シンポジウムでは具体的な、対策・進め方・マニュアルについて、示されたので紹介する。・
新都市ハウジング協会マンションLCP分科会の村田明子さんは、マンションの生活継続(在宅避難)の必要性について発表した。LCP(Life Continuity Planning)とは生活継続計画のことで、大規模な地震や台風など災害に対して、防災・減災へ備える対策のことである。
同分科会では「生活継続力評価ツールLCP50+50」を作成して、ホームページで公開している(※8)。管理組合・自治会・管理会社など、このツールを使って「自分のマンションの強み・弱みを把握してほしい」と話した。

「生活継続力評価ツールLCP50+50」の指標の構成(資料:新都市ハウジング協会)
「生活継続力評価ツールLCP50+50」の指標の構成(資料:新都市ハウジング協会)

また、東京都住宅政策本部民間住宅部マンション課長の山口大助さんからは、「東京とどまるマンション」の紹介がされた(※9)。これは東日本大震災を受けて2012年に「東京都LCP住宅情報登録・閲覧制度」として始めたものだ。
東京都には、現在700棟ほどのタワマンがあるとされ、この「東京とどまるマンション」に登録されたタワマンは74件であるという。山口氏は「登録マンションに対して、防災備蓄資材の購入費用や町会等との合同防災訓練に補助を行っている」と登録のメリットを訴える。

「東京とどまるマンション」パンフレット(資料:東京都)
「東京とどまるマンション」パンフレット(資料:東京都)

みなとBOUSAIプログラム代表・港区防災アドバイザーを務める久保井千勢さんからは、設備や備品の事前の備えに加えて、「いざというときに助け合う」ことの重要性が強調されて語られた。管理組合と居住者が双方につながるツール・情報共有手段の仕組みづくり。迅速な安否確認のために災害対策本部とフロア・ブロックごとなどの複数のマニュアルの整備などについてだ。

東京都中央区では「震災時活動マニュアル策定の手引き」を公開している(※10)。地域を限ったノウハウではない。「是非参照して自分の暮らすタワマンに即したマニュアルをつくってもらいたい」と話した。

「震災時活動マニュアル策定の手引き」(資料:東京都中央区)
「震災時活動マニュアル策定の手引き」(資料:東京都中央区)

なお、このシンポジウムについては、不動産経済研究所の「不動産経済オンライン」に筆者がその記録を詳述している。以下にURLを記載しているので、こちらも参照いただけると幸いだ(※11、12)。

本稿の作成に当たっては、NPO法人東北マンション管理組合連合会、記事で紹介した仙台市内の4つのタワーマンション管理組合、NPO建築技術支援協会の小鹿紀英(こしか・のりひで)さんには快く取材に応じていただいた。そして、防災上の視点やその評価については、一般財団法人 住総研の齋藤宏一(さいとう・ひろかず)研究推進部長、超高層住宅長寿命化研究委員会委員長の秋山哲一(あきやま・てつかず)東洋大学名誉教授、工学院大学の久田嘉章(ひさだ・よしあき)教授に助言をいただいた。本稿の結びに当たって感謝申し上げたい。

注)本記事においては「記憶に基づく証言」をもとにしており、記録と付き合わせるなど正確性について注意を払いましたが、細かい事柄においては事実と異なる場合があります。

●参考ページ
※1 仙台市「杜の都防災力向上マンション認定制度」
※2 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
※3 国土交通省「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」
※4 気象庁「長周期地震動に関する観測情報について」
※5 小鹿紀英「改めて南海トラフ地震を考える」NPO法人建築技術支援協会
※6 東京都「超高層建築物等における長周期地震動対策」
※7 横浜ランドマークタワー長周期地震動の動画 Eearthquake on 70th floor 3.11
※8 新都市ハウジング協会「生活継続力評価ツールLCP50+50」
※9 東京都「東京とどまるマンション」情報登録・閲覧制度
※10 東京都中央区「震災時活動マニュアル策定の手引き」
以下は、不動産経済研究所「不動産経済オンライン」より
※11 村島正彦『タワーマンションの防災対応を考える①』
※12 村島正彦『タワーマンションの防災対応を考える②』


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