【プレミアリーグ】シティ&ユナイテッドのダブル不振でマンチェスター市の「サッカー観光」産業が崩壊中

利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【プレミアリーグ】シティ&ユナイテッドのダブル不振でマンチェスター市の「サッカー観光」産業が崩壊中

3月11日(火) 9:15

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市内に複数のビッグクラブを擁し、その名前を聞くだけでサッカーを思い起こさせる都市がある。マドリード、ミラノ、ローマ、サンパウロ、リオデジャネイロ、ロンドン、そしてマンチェスター。しかし今、マンチェスターは2大チームの不振により大きな打撃を受けている。

マンチェスター・ユナイテッドは、27年間監督を務めたサー・アレックス・ファーガソン(プレミアリーグ優勝13回、チャンピオンズリーグ/CL優勝2回)が2013年に引退して以来、かつての輝きを取り戻すことができない。

デイビッド・モイーズ、ライアン・ギグス(暫定)、ルイス・ファン・ハール、ジョゼ・モウリーニョ、オーレ・グンナー・スールシャール、マイケル・キャリック(暫定)、ラルフ・ラングニック(暫定)、エリク・テン・ハグ、ルート・ファン・ニステルローイ(暫定))......ユナイテッドは11年余りで9人もの監督を代え、それがチームの危機をより深めた。

それぞれの監督は皆、前任者の仕事を解体し、相反する哲学を実行する。異なるビジョンと異なる戦術によって昨季とはまるで違うチームが作られ、選手たちはその変化に適応するだけで精一杯だった。そうこうしているうちに、マンチェスター・ユナイテッドというクラブのアイデンティティはすっかり迷子になってしまった。

かつては安定性と長期的な視野で有名だったユナイテッドは、今では常に危機的な状況に置かれている。新しく赴任した監督や選手たちは、それをどうにかしてほしいと、「救世主」のレッテルを貼られ、過度の期待を寄せられたあげく、失敗する。

マタイス・デ・リフト、ジョシュア・ザークツィー、マヌエル・ウガルテといった選手に1億7000万ポンド(約320億円)以上を費やしたにもかかわらず、パフォーマンスは低下し続けている。また次々と監督を追い出したことで、監督へ支払った報酬と違約金だけでも8000万ポンド(約150億円)を超える。

問題はピッチだけに留まらない。チームの財政ひっ迫による大幅な人員削減は、クラブの運営組織を根こそぎ破壊した。

【オールドトラフォードの劣化】彼らはクラブで長年働き、各部門でチームを支えてきた人々だ。スカウト、医療、管理部門、ユース育成などのスタッフを、コスト削減のために解雇された。なぜユナイテッドは自ら首を絞めるようなことをするのかと、誰もが疑問に思っている。

オールドトラフォードの劣化は、こうしたユナイテッドの問題を象徴している。サンチャゴ・ベルナベウやサンシーロとともにサッカーの殿堂として名を馳せ、数々の名勝負の舞台となってきたスタジアムも、コストとスタッフの削減により、ろくにメンテナンスもできていない状況で放置されている。

スタンドではあちこちで雨漏りし、先日のプレミアリーグ第27節イプスウィッチ戦では、ネズミがピッチに侵入するという事件が起こった。2024年12月の保健省の検査では、少なくともスタジアムの12カ所でネズミのフンが発見されており、いくつかのバーやレストランは閉鎖された。

この街のもうひとつのチーム、マンチェスター・シティはかつて、常にユナイテッドの後塵を拝してきたが、2008年のアブダビのシェイク・マンスールによる買収以降、世界最強のクラブとして君臨していた。しかしそのシティも、今、厳しい現実を目の当たりにしている。

チャンピオンズリーグで敗退が決まり浮かない表情のジョゼップ・グアルディオラ監督(マンチェスター・シティ) photo by Reuters/AFLO

チャンピオンズリーグで敗退が決まり浮かない表情のジョゼップ・グアルディオラ監督(マンチェスター・シティ) photo by Reuters/AFLO



ユナイテッドの危機とはまた種類が異なるが、同様に深刻だ。シティはいま、2009年から2018年にかけての財政上の違反の疑いで告発されている。その数なんと115件。もしこれらの違反が確定すれば、政府やプレミアリーグからクラブに対し、厳しい処分が科せられると言われている。

想定される罰則は、リーグ戦での減点、罰金、移籍禁止、選手の数カ月間の出場禁止。最悪の場合は降格もありうる。

こうした内政の不安定さから、今シーズンのシティの成績は見る影もない。プレミアリーグを制し、世界王者に輝いてから1年ちょっと経った現在、来シーズンのCL出場権も危うくなっている。

新加入の選手はジョゼップ・グアルディオラのシステムに適応するのに真剣に苦しんでいる。何よりロドリのケガによる欠場、そしてケヴィン・デ・ブライネの度重なる負傷によるパフォーマンスの劣化をカバーできる選手がいない。

【人員削減で失業率増加】

シティの成功の大きなカギであった監督のグアルディオラも、個人的な問題から仕事に集中できない状況にある。彼は昨年の11月にシティとの契約を2027年夏まで更新した。しかし、本当は更新には乗り気ではなかった。シティ内部の人間の話によると、契約を更新するまでに彼はチームと11回話し合いの場を設け、そのうち9回目まで契約更新に「NO」と言っていたという。どちらかというクラブ側に押しきられた感じだ。

更新を渋った理由は、シティにおけるひとつの時代が終わったという自覚、そして何より妻のクリスティーナ夫人との問題だ。彼女はイングランドにはこれ以上滞在することを嫌がっており、夫がシティから去ることを望んでいた。

更新の話が決まると、彼女はスペインに戻ってしまった。「離婚である」とか、「いや、まだ指輪はしているから今のところは別居だ」などと、口さがないイングランドのタブロイド紙が騒いでいて、決して落ち着いてチームを指揮できる状態にない。

プレミアリーグ第28節終了時点で、両チームの順位はシティ5位、ユナイテッド14位。マンチェスターのアンドリュー・マレー・バーナム市長は、ふたつのチームの危機で「市は経済的な打撃を受けている」と言っている。

少し前まで、ホームで試合のある週末には100%の稼働率を記録していたホテルも、今では最高でも60%。特に外国人観光客は激減している。市の財政を潤してきた強力な「サッカー観光」産業は崩壊した。地元のツアーオペレーターは、試合やスタジアムを訪れる観光客にサービスを行なっていたスタッフの半数以上を解雇した。

サポーターでにぎわっていたふたつのスタジアム近辺のレストランやパブでは、最大60%の収益減が報告され、何十年も営業を続けてきた老舗の数軒は閉店の危機に瀕している。チームへの関心の低さが原因だ。試合の観客動員数はさらに減少している。以前はシティの試合のチケットを手に入れるにはかなり前から手を打たなければいけなかったが、今では、試合直前でもチケットが買える。

人員削減はクラブだけではすまない。警備会社、ケータリング会社、グッズ販売店、輸送サービス会社などが大幅な人員削減を行なっている。バーナム市長によれば、2024年の離職率は例年より50%増えたという。失業率の増加は、今や毎日のようにメディアのニュースになっている。

さらに深刻なのは、マンチェスターのイメージの失墜である。「伝説的なフットボールの街」という評判は、計り知れないダメージを受けている。

ユナイテッドとシティが世界最高のチームであった頃は、マンチェスターの専門学校や大学へ多くの留学生が押し寄せていたが、今その出願率は35%減少したという。

また、以前は会議、セミナー、イベントをマンチェスターで開こうという企業が多かった。ウィークデーに会議をしたあと、週末にはついでにサッカーでも見ようと考える人は多く、常に会場が不足していた。しかし現在までのところ、2025年にマンチェスターで開催される予定のビッグイベントは皆無だ。

両クラブとも、羽振りのいい頃は、市の青少年育成プログラムや健康増進、教育や貧困地域への支援などに協力していたが、今はそれも縮小している。これらの支援を受けていた少なくとも2万5000人の市民が影響を受けているという。

シティとユナイテッドがどのようにプレーをするかで、マンチェスターという街自身の活力が決まる。危機に瀕しているのは、サッカーの栄光だけではなく、都市全体の経済と社会である。よくも悪くも、これがサッカーの影響力なのだ。

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