プレーするだけが野球じゃない プロを目指す高校球児たちが集まるが舞台を支えた元女子マネジャーたちの挑戦

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プレーするだけが野球じゃない プロを目指す高校球児たちが集まるが舞台を支えた元女子マネジャーたちの挑戦

3月9日(日) 9:00

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夏の甲子園の地方大会で敗れた高校生たちにプレー機会を設けようと2024年8月、北海道で開催された「リーガ・サマーキャンプ」。今年の第2回に向けて、3月3日にエントリーが始まった。

昨年はNPBやMLBのスカウトが視察に訪れ、秋のドラフト会議で石田充冴(北星学園大学附属高校)が巨人に4位、澁谷純希(帯広農業高校)が日本ハムに育成2位で指名されて入団。さらに、軽度の知的障がいを抱える工藤琉人が独立リーグのKAMIKAWA・士別サムライブレイズと契約に至った。

ほかには大学進学を控えてプレー機会を欲する者、高校時代に補欠で公式戦に出場できなかった者たちが輝きを放ったなか、彼らを陰で支えたのが"元女子マネジャー"だった。

初開催のリーガ・サマーキャンプを陰で支えた山内美月さん(写真左)と森岡鈴さんphoto by Nakajima Daisuke

初開催のリーガ・サマーキャンプを陰で支えた山内美月さん(写真左)と森岡鈴さんphoto by Nakajima Daisuke





【かつては指示待ち人間だった】「彼女たちに運営を手伝ってもらい、女子マネジャーの力や可能性をあらためて感じました」

そう話したのは、「リーガ・サマーキャンプ」を開催した一般社団法人「ジャパン・ベースボール・イノベーション」の阪長友仁代表だ。チーム単位ではなく、個人でエントリーして実戦機会を設けるという取り組みをゼロからつくるうえで、阪長代表が真っ先に探したのは、一緒に運営を担ってくれる学生だった。

「高校野球では指示があってから動く場合が多いけど、リーガ・サマーキャンプに参加してくれたふたりは自ら機転を利かせて行動してくれました。そのおかげでリーグ戦の運営がすごくスムーズに進みました」

阪長代表がそう感謝するのは、森岡鈴さんと山内美月さん。高校卒業後に看護学校、大学とそれぞれの道に進んだ"元女子マネジャー"たちなくして、リーガ・サマーキャンプの成功もなかった。

「明日、栗山英樹さんが視察に来られるから、セレモニーで司会をやって!」

阪長代表は毎日のようにそんな無茶ぶりをした。会場の栗山町民球場の近くに暮らす2023年ワールド・ベースボール・クラシック優勝監督が翌日視察に来るので、選手たちにサプライズを仕掛けようというのだ。

相手は超有名人で、高校球児にとっては雲の上のような存在だ。女子マネジャーだった頃の森岡さんなら、うまく対応できなかったかもしれない。いわゆる指示待ち人間で、自分の考えをうまく話すことも苦手だったからだ。

ところが、リーガ・サマーキャンプという前例のない舞台では阪長代表をはじめ、行動的な大人たちに囲まれた。同じ立場で参加した山内さんも、自ら気づいたことを積極的に行なっていく。森岡さんはそんな環境に飛び込み、思考が変化していった。

「今までの私は、『自分にはできないから、黙って見ておく』と、はなからあきらめていました。でもリーガ・サマーキャンプでは自分以外の全員が『やってやる!』という感じだったから、『私、できないから......』とただ見ているわけにはいきません。『自分もやらなきゃ』と思って行動してみたら、すごく面白くなっていきました」

開会式の司会や試合中のアナウンス、写真撮影やSNSの運用、球場の環境美化を誰の指示もなく進めていくうち、「今、私はこれをする必要がある」と考えて動くクセが身についた。

【アナウンスに込めた隠れたファインプレー】じつは、森岡さんがリーガ・サマーキャンプへの参加を決めた裏には、高校時代のコンプレックスがあった。高校2年秋、受験勉強に備えることに加え、周囲との人間関係がうまくいかなくなり野球部を退部したのだ。

「サマーキャンプでマネジャーをできるのはチャンスと思って参加したら、周りのみんなから『ありがとう』とすごく言われました。みんな野球が大好きで、今まで自分が関わったことのない価値観を持っている人たちばかり。1日の試合が終わるのがすごく嫌で......毎晩、次の朝が来るのを楽しみにしていました」

26万9500円の参加費を払ってエントリーした選手たちは、"負けても次がある"リーグ戦で積極的にチャレンジした。木製バットは強く振り、芯で捉えないと会心の打球が飛んでいかない。入学から2年4カ月やってきた高校野球とは、異なる環境がリーガ・サマーキャンプでは待っていた。

「知らない子と一緒のチームで野球をやるのは心配です......」

最初はそう漏らす参加者も少なくなかったという。高校時代に公式戦の出場機会がほとんどなく、自分に自信を持てない選手もいた。

だが、失敗しても次があるリーグ戦という仕組みや、積極的なチャレンジを推奨する声かけもあり、前向きにプレーする選手が増えていった。

さらに彼らを後押ししたのが、初日に行なわれたスポーツマンシップ講習だ。「尊重、勇気、覚悟」というスポーツを通じて得られる精神を学び、リーグ戦で実践した。

その成果が見事に表れたのが、エスコンフィールドでのファイナルだった。ゲームセットの直後、勝利したチームだけでなく、敗れた側も全員マウンドに集まって喜びを分かち合ったのだ。

「その瞬間、鳥肌が立ちました。いつの間にみんな、こんなに成長したんだろうって」

そう話したのが、アナウンスを担当した大学2年生の山内さんだ。青森明の星高校で女子マネジャーだった頃、「リーガ・アグレシーバ」という阪長代表が主宰するリーグ戦に参加し、スポーツマンシップ講習を毎年受けた。山内さんは高校3年間をかけて学んだが、リーガ・サマーキャンプに参加した選手はわずか12日という期間でスポーツマンシップを体現してみせたのだ。

エスコンフィールドのアナウンス室で山内さんは鳥肌を立てながら、"隠れたファインプレー"を見せた。試合終了直後、通常行なわれる「○対○でどちらが勝ちました」というアナウンスをあえて割愛したのだ。

「勝ち負けにとらわれるべきではない、と思ったからです。負けた側もマウンドに行って喜ぶなんて、いつの間にスポーツマンシップを身につけたのかなって。選手たちは講習を1回受けただけなのに、高校3年生の吸収力はすごいなと。スポーツマンシップを身につけた選手たちを見て、どっちが勝ったとか、絶対に言うべきじゃないと思いました」

【支える側の力が生み出す未来】高校3年生が個人で参加するという、前例のない第1回リーガ・サマーキャンプが終わって以降も、インスタグラム担当の山内さんは投稿を続けている。

開催期間中、視察に訪れたプロ球団のスカウトから「いつも面白くて見ています」と言われて励みに感じたが、以降は保護者からDMをもらうようになった。

「いつも投稿ありがとうございます。息子が後輩たちに広めているので、次回は参加者が増えるかもしれません」

女子マネジャー出身の山内さんはリーガ・サマーキャンプに参加し、成長できたという実感がある。

「高校でマネジャーの時は、周囲のケアが中心でした。選手が決めたことに対し、マネジャーがサポートする。でも、リーガは自分たちで積極的につくっていく場所でした。これから参加する高校生たちのためにいっぱい提案をして、つなげていけるようにしたいです」

スポーツは「する」だけでなく、「支える」人たちも不可欠だ。女子マネジャー出身の森岡さんと山内さんの行動力に牽引され、リーガ・サマーキャンプという新しい取り組みは第2回に進もうとしている。

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