妻に「認知症」の兆候が見られ、経過観察中です。もうすぐ定年ですが貯金が少なく介護費用が心配です。今からできる対策はありますか?

妻に「認知症」の兆候が見られ、経過観察中です。もうすぐ定年ですが貯金が少なく介護費用が心配です。今からできる対策はありますか?

3月8日(土) 1:20

60代の妻に認知症の兆候が見られ、経過観察中だというAさん。Aさんは50代後半で現在会社員ですが、あと数年で定年…。また、貯金が少なく将来の妻の介護費用が心配だとのこと。費用負担を減らす方法や、今からできる対策が知りたいとのご相談です。

介護の問題は自分だけではない!

介護保険法が2000年に法施行され、すでに20年以上が経過しています。要介護状態になったときには、介護保険の保険給付を受けるという流れは当たり前です。
 
ただ、保険給付があるといっても、要介護者は増加し、介護保険料は年々上昇しています。厚生労働省の資料(※1)によると、65歳以上の被保険者は2022年3月までに1.7倍、要介護(支援)認定者は3.2倍だそうです。
 
また、生命保険文化センターの「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」によると、必要と考える月々の費用は15.8万円という結果が出ています。
 
これはあくまでも平均です。もちろん、大都市か地方かの居住地、要介護度の程度によって、また介護を「在宅」か「施設」のいずれでするかによっても金額は異なります。
 
超高齢化社会では、親族の介護は自分だけの問題ではありません。費用もかかることから、どんな介護をしていくべきか情報を収集するところから始めてみましょう。
 

働きながら介護ができる制度が続々と!

2025年、中小企業にも、社員が介護休業を取得しやすい環境を整える努力義務が課されます。同時に、介護離職が発生しないよう、新たに職場への補助金が支給されます。
 
例えば、介護休業を15日以上取った社員1人につき、業務を代替した同僚への手当向けに10万円、新規雇用に30万円が補助されます。その他、短時間勤務中の同僚への手当に3万円、介護休業から復帰した際には40万円(15日以上の取得で60万円)などの手当が支給されます。
 
今回の相談者Aさんは、定年を目前として、介護のために退職を想定しているかもしれませんが、介護費用が心配であれば定年後の再雇用や勤務延長などもぜひ検討してみましょう。
 
これらの補助金は社員対象ではなく企業向けではありますが、企業にメリットがあることで、職場にいづらくなるという不安は少なくなるのではないでしょうか。
 
新たな制度ですから事業主が知らないケースも考えられますが、介護休業を申し出しにくいとき、「こんな制度があるので、これをきっかけに、企業として育児や介護との両立支援を目指しませんか?」という提案を会社にしてみることもできるかもしれません。
 

妻の認知症は、自分の老後を考えるきっかけになる

今回改正される補助金などの制度は、労働者に直接支給されるものではありませんが、直接労働者に支給される介護休業給付も見ていきましょう。
 
雇用保険に定める介護休業の要件を満たせば、休業開始時賃金日額×休業日数(最大93日)×67%が支給されます。例えば平均して月額30万円の場合、支給額は月額20.1万円程度が目安です。この給付は「継続雇用」が前提ですので、休業後に職場復帰しなければ支給を受けることはできない点がポイントです。
 
雇用保険の保険給付の中でもう1つ注目したいのが、教育訓練給付です。一般や専門など、何を学びたいかによって、受給金額は異なりますが、講座受講料の20%~最大70%が補助されます。
 
厚生労働大臣が指定する講座(※2)に限りますが、医療や社会福祉関係の分野、介護に関する研修など、さまざまな研修が指定されています。
 
Aさんの場合は、妻が認知症になったことで日常生活以外に関心を向けることは難しいかもしれませんが、年金収入だけで心もとないときに、「できるだけ長く働く」という選択をするために、キャリアアップは自分の老後を豊かにすると考えてみましょう。
 

使えるものは何でも使う気持ちで!

最大93日取得できる介護休業を使っても、Aさんの場合、妻の介護が終わることはおそらくないでしょう。ただ、施設介護ならば入所する施設を検討したり、自宅介護ならば訪問介護事業所を探したりする時間にあてることはできます。
 
育児・介護休業法の改正の中には、介護のためのテレワーク導入、意向確認や、情報提供が事業主の努力義務とされます。
 
もし、教育訓練給付で介護関連の研修を受け、定年後は介護職に転職したり、今の勤務先でテレワークや短時間勤務に転換したりすることで、妻の介護をしながら働き、少しでも介護費用の不足を補うことは可能となります。
 
介護職への転職が心配でも、介護サービス事業所では従業員の不足が続いており、介護職員へ待遇改善のための処遇改善費の支給がされるようになり、実態として介護職の賃金上昇も見られるようになりました。
 
定年を機会に自分のキャリアアップや老後計画を考えるのは、退職していない「今」だからこそ、使える選択肢はたくさんあるといえるでしょう。
 

出典

(※1)厚生労働省介護分野の最近の動向について
(※2)厚生労働省特定一般教育訓練給付制度のご案内
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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