<わたしの幸せな結婚>北米でのヒットを呼んだのは“朝ドラ”的構成もアニメプロデューサーに聞くアニメ「わた婚」ヒットの要因

アニメ「わたしの幸せな結婚」/(C)顎木あくみ・月岡月穂/KADOKAWA/「わたしの幸せな結婚」製作委員会

<わたしの幸せな結婚>北米でのヒットを呼んだのは“朝ドラ”的構成もアニメプロデューサーに聞くアニメ「わた婚」ヒットの要因

3月7日(金) 9:30

 アニメ「わたしの幸せな結婚」
【写真】原画との比較で見る瞳の表現

目黒蓮主演で映画化された顎木あくみの小説「わたしの幸せな結婚」(KADOKAWA)。現在、TVアニメは第二期が放送中(毎週月曜夜10:30-11:00ほか、TOKYO MXほかで放送/ABEMA・ディズニープラス・FOD・Hulu・Leminoほかで配信)。アニメ版も人気を博し、Netflixではアジア・北米地域での視聴が大きく伸びている。本作プロデューサーのKADOKAWAアニメ事業局・吉岡拓也、三原万季に話を聞く中、見えてきた海外でのヒットの要因、誤解もあった海外での日本アニメの認知度とは。

■人間ドラマへの共感を高めるハイエンドなアニメ化に

――まず、本作を手に取ったときの印象から教えてください。

吉岡:原作のスタートは小説投稿サイトで、私が手に取ったときはすでにサイトの中でのプレビュー数も非常に多く、小説の出版をさせていただいていた弊社内でも話題に上がる作品になっていました。ただ、面白いと思った反面、担当するとなったときには、プロデュースの仕方は悩みました。ファンタジー系は弊社の得意ジャンルですが、そこに女性向けで恋愛もの、キャラクター描写も写実的で、ドラマ性が強いという複合的に編み上がった構成の作品を、アニメにするのであればどういった映像にするのが一番エンターテインメントになるかをすごく考えた記憶があります。朝ドラ的な雰囲気的があり、どちらかという実写の方が似合いそうだったので、考えたのは映画に近しいアプローチした。人間ドラマとアクションのバランスを取りながら、映像美の中で作品の魅力を最大限に引き出すのがいいだろうなと思いました。ターゲット層にしても、そのまま作品従来の女性層だけを意識すると狭まってしまうので、人間ドラマへの共感を高めるハイエンドな映像(アニメ)づくりを目指して、広くアニメファンにも楽しんでもらえる作品をつくりたいと、原作を読みながら考えました。

――三原さんは原作の感触、いかがでしたか?

三原:私がこの作品を知ったきっかけは、母が原作の読者だったからです。60代で、ラノベを読むこともなく、アニメもあまり観ない人にも刺さる作品なのだ、というのが第一印象にありました。最初、タイトルからは恋愛要素が強いものを想像していましたが、読み進めるとファンタジーかつバトルもあり、思惑、陰謀が渦巻いていく、というところに引き込まれました。

――第一期から1年以上空いての第二期放送となりましたが、手応えはいかがでしたか?

三原:アニメ業界もコンテンツの消費は早いため若干の心配はありましたが、ふたを開ければ変わらず支持をいただけてよかったと思います。2月のさっぽろ雪まつりで美世と清霞の雪像を作ったのですが、かなりの方が足を止めて見てくださって。ちゃんと作品を知っている方の声も聴こえて、それはすごく嬉しかったですね。

吉岡:いろいろ要素が絡み合っている作品ではありますが、根幹の部分はとても「王道」の作品でもありますので、シリーズ展開の期間は少し間が空きましたが、流行などにはあまり左右されず、作品の本質をしかっりと楽しんで観ていただけたのではないかと思います。

■海外で日本アニメを観ているのはまだまだ一部のギークという現実

――Netflixで世界同時配信され、第一期からアジア・北米でもヒットしています。受け入れられた要因、ヒットの背景はどのように分析していますか?

吉岡:家長制度が根強く、女性はあまり表立ってはいけないという昔の日本が反映された時代設定なので、最初は欧米の方には理解しづらいのではないかという懸念がありました。ただ、第一期が終わった後にNetflixの方とお話したところ、ドラマ性の強い作品は日本のアニメコンテンツはまだあまり多くなく、特に本作のようないわゆる「朝ドラ」的な作品はなかったようで、そうしたある種の未開拓ジャンルに対するユーザーの肯定的な受け取りもあったのだと思います。そうした要素が受け入れられるというのは貴重な収穫だったのと、背景美術に対する言及は非常に多かったです。SNSでは「美しい」という感想はもちろん、日本らしい風景への称賛も見受けられました。背景美術も一枚一枚こだわって制作されているので、そこが認められたのは嬉しいです。この背景美術が情景を作り、ドラマの強度を上げているのもヒットの要因ではないかと思っています。
海外視聴者の目を引き付けた美しい和の表現


――今のお話は興味深いです。ドラマ性の高さがヒットに結び付くのは意外だったわけですか? 我々の感覚では、むしろそうした作品が受けるのは当然ではないかと思えます。

吉岡:もちろん、ドラマ性やストーリーの面白さも作品がヒットする上で必要な要素であることは間違いないと思います。ですが、ここ数年で急速に日本のアニメ市場が拡大し海外にも広まっているとはいえ、海外においてもマス層を含めて多くの人々に知られているのは名門少年誌から生まれた超有名作品であり、そのほとんどがファンタジー・アクションジャンルの作品です。とりわけ、日本の深夜アニメ作品を毎クール熱心に観てくれているのはギークと呼ばれる日本のアニメや漫画を好むコアファンの人々ですが、彼ら彼女らも日本のアニメに求める一番の要素はファンタジーな世界観やアクションが映えるアニメ作品であると感じています。一方で、世界中で日々生み出される映像作品・コンテンツの多くが実写作品であることは間違いなく、日本でも世界でも、「アニメ作品を観たことがない」という人がいても不思議ではないと感じています。それはNetflixの利用者も同じだと思うので、だからこそ本作のような作品が日本の深夜アニメとしては今までに無かったジャンルとして話題になったのだと思います。私たちとしては、日本のアニメや漫画を熱心に応援してくれるコア層は大切にしつつも、そうしたライト層にも楽しんでもらえるアニメの製作を行っていくこともコンテンツ製作者として非常に大切なことだと感じています。

――日本のアニメが海外に輸出される一方、日本には中国、韓国のアニメが輸入され、スタジオの制作能力も日本に迫る勢いです。こうした状況の中、今後の国内と海外展開についてどのような考えをお持ちでしょうか?

吉岡:どんな映像作品にもその国や地域の文化的背景や長い時間をかけて醸成された価値観に基づくことでのみつくることができる部分があり、日本という国で生まれた感性や性質でしかつくれないアニメーションがあると思っています。だからこそ、この国で生まれた独自の「アニメ」という映像表現方法とその文化を守り、その制作環境・機能を保護し成長させ、アニメに関わる人々がきちんと豊かであるように継続性を持ってアニメを製作していくことが映像メーカーの責務であると考えています。そういった意味では、海外でも多くのアニメ作品が生み出されるようになり、それが日本に入ってくることよりも、他の産業もそうであるように、海外の安いコスト、労働力でモノが作れるようになると、そちらばかりに投資が向いてしまい国内の生産能力・産業が衰退してしまうことであったり、経済成長が硬直化している日本において優秀な制作者・人材が海外に流出してしまうことを懸念しています。次ぐ一時の売上のためだけに大量に作品を生み出し消費するモデルについては見直しをはかり、資本を持つ企業が一丸となってその資本を正しく投資し、本当の意味で「サステナブル」なアニメづくりを目指す時期来ているように強く感じています。日本国内のアニメづくりの環境がより安定し、盤石な成長基盤の上に成り立っているのであれば、海外のスタジオが参入してくることで新しい表現が生まれる可能性も大いにありますし、アニメーションの発展としてはプラス要素もたくさんあると思います。

三原: 10年前ぐらいだと、アニメと言えばディズニー、ピクサーの作品。「子どもたちが見るもの」というのが海外の一般的な状況です。それが大きく変わったのは、配信が一般的になり、日本のセルルックアニメの最新作が、タイムロスなしで観られるようになった近年からかと思います。日本文化として知られるようになって、日本での制作方法をモデルに中国、韓国もアニメを生産する、その様な流れは今後も増えてくると思います。その時に面白いのは、その国の生活文化が反映されて、日本にはなかったストーリーや世界観を観られるようになることかなと思います。

特に力を入れたという瞳の表現。こちらはアニメカット

■作品性を深めた背景美術、瞳の表現、エバン・コールの劇伴

――海外の視聴者も魅了した「わたしの幸せな結婚」の美しい画面、キャラクター表現。これを作るのに、特にこだわった点はどこになりますか?

吉岡:まず、作品の世界観に説得力を持たせるためにスタッフのみなさんとたくさんロケハンをしました。ただ資料を見るのではなく、実際に明治、大正期の建築物や風景が残る場所や博物館のような場所を巡って、そこで見たディティールまでを徹底的に落とし込んでもらったと思います。そうした作業があって、当時を再現するような写実的な絵が作られ、アニメとしても説得力が生まれていると思います。あとは、個人的にはキャラクターの瞳の表現にはことさら力を入れているように感じています。

――描き込みをしたということですか?

吉岡:描き込みもですし、光の具合とか、撮影処理まで含めた全体的な表現だと思います。絵でキャラクターにお芝居をさせるというのは本当に難しいことで、もしかするとアクションをさせるよりも日常芝居をさせる方がずっと難しいのではないでしょうか。特に今回は登場人物の心理面が非常に重要な作品なので、人の感情が浮かぶ瞳の表現を大切にしてくれているのだと思います。また、そうしてできる表現にさらに厚みをもたらしてくれたのが、エバン・コールさんの音楽(劇伴)だと思います。
特に力を入れたという瞳の表現。こちらはアニメカット

特に力を入れたという瞳の表現。こちらは原画


――「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「葬送のフリーレン」が有名ですが、音楽でのキャラクター表現に長けている方ですね。

吉岡:真っ白な紙に「描く」ことで世界をどんな形にも創れることがアニメのいいところではあるのですが、一方で生身の俳優さんがお芝居をされる実写作品とは違い、わずかな表情の変化や所作でキャラクターの心情を表現することがアニメには少し難しく、なので音楽の持つ表現が非常に重要になってきます。エバン・コールさんは作品世界の情景やキャラクターの心情をとてもうまく捉え、音楽で作品性を深めてくれました。あと、こだわりの裏話としては、ヒール役の「バックボーン」をすごくしっかり考えています。

――甘水直ですか?

吉岡:第二期では甘水直がそうですし、第一期では継母の香乃子や特に義母妹の香耶がそうでした。美世や清霞が立ち向かう「壁」であるヒール役のキャラクターの人物像をしっかりと作り込むことができなければそのキャラクターの行動原理が曖昧になってしまい、そうすると、それに立ち向かうヒロイン・ヒーローもぼやけてしまい作品のストーリーも曖昧になってしまうので、映像の中で描かれていないことも設定としてはしっかり作り込みました。

――声優でも、キャラクター背景を知ることで芝居に深みを与えるという方は多くいます。

吉岡:この作品の場合は特にそうだと思います。映像としては描かれていないキャラクターのそれまでの人生とそこから生まれる感情を想像しないと説得力が出ない台詞がたくさんあります。

――それでいうと、美世役の上田麗奈さんの芝居はまさにキャラクターのバックボーンを背負っている感じですね。

三原:第一期を見返して、私もすごく感じました。最初の頃の美世の声はか細くて、本当に弱々しいんですよね。それがだんだん変わってきて、第二期に入ってからの美世の声は、強くなったというか、芯が入った感じです。視聴者の皆さんにも、改めて第一期から美世の変化を振り返ってみてもらいたいです。

■放送は残り4話。美世の選択、タイトル回収の行方にも注目

――アニメ化の前には実写映画化もされています。ご覧になりましたか?

吉岡:これはもう個人的な感想ですが、「アンナチュラル」「MIU404」をはじめ、(映画「わたしの幸せな結婚」監督の)塚原あゆ子さん作品の大ファンなので、非常に楽しく拝見しました。世と清霞のドラマと、異能がもたらす事件とその不穏な空気感のブレンドも素晴らしく、塚原さんが撮ると「わた婚」はこうした表現になるのかと、楽しんでおりました。ただのファンの感想ですみません(笑)。

三原:私も塚原さん作品の大ファンで、映像表現のスケール感はやっぱり実写ならではと思いました。特にびっくりしたのが冒頭のタップダンスで、原作にないシーンからいきなり入るじゃないですか。あれを見た瞬間、ぞわっとして、一気に映画の世界に引き込まれました。

吉岡:「オクツキ」を暴くという作品上ファンタジー色の強いシーンを実写ならではの表現で、それでいてとても惹きつける印象的なシーンにされていて、確かにあれは驚きましたね。

――映画を観て参考になったシーンなどはありましたか?

吉岡:アニメと実写では映像表現のアプローチもできることも全く異なりますので、制作面での参考というのは無いと思います。ただ、原作の世界観を映画というメディアの中で最大限に引き出したフィルムを拝見して、同じく原作を映像化させていただく立場として、私たちもアニメで最高の表現にしようと奮い立った記憶はあります。

――放送は第二十二話まで終わり、裏切った新が清霞を撃つという衝撃の幕引きとなりました。引き裂かれた美世と清霞が再び手を取り合うことはできるのか、というのが気になるところです。

吉岡:最終話までのネタバレをせずに…と思うと、なかなか言及しにくいですね(苦笑)。軍に連行された清霞を救うため、美世はこれから色々なことに向き合うことになります。夢見の能力、自分の「家」の問題、そして、清霞からの愛情と自分の気持ちにどう向き合うか…。「幸せ」のために美世が選択する道を最後まで見守っていただければと思います。

三原:美世の成長に、きっとファンの方の気持ちも熱くなると思います。ここまでの物語を通して成長してきた美世の姿をしっかり見届けていただきたいのと、じりじりと近づいていく美世と清霞の距離感、もどかしい二人の関係がどう発展するのか。まだ婚約者の2人ですが、今後の行方にも注目してください。

◆取材・文=鈴木康道
 アニメ「わたしの幸せな結婚」第二期キービジュアル




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