錦織圭「35歳はやっぱりこたえます」足に抱きつく息子の姿が物語る流れた月日の長さ

photo by web Sportiva

錦織圭「35歳はやっぱりこたえます」足に抱きつく息子の姿が物語る流れた月日の長さ

3月7日(金) 10:05

提供:
3時間近くの死闘を制し、ファンの熱狂と祝福の声を浴びる勝者のもとに、似た面差しの幼児が弾むように駆けていった。

父の勝利を知ってか知らずか、足に抱きつく姿は見る者の心を和ませ、同時に、流れた月日の長さを物語りもする。

錦織圭がBNPパリバ・オープン(インディアンウェルズ)で勝利を得たのは、コロナ禍で開催時期が半年遅れた2021年大会以来。そしてこの大会を最後に、錦織は股関節のケガに始まる長期離脱期に入った。

第一子が誕生したのは、その頃と前後する。成長した息子の姿は、錦織の復活の道のりを映すようでもあった。

錦織圭は4年ぶりにインディアンウェルズで初戦を突破photo by AFLO

錦織圭は4年ぶりにインディアンウェルズで初戦を突破photo by AFLO



「ここらで勝って、モヤモヤを晴らしたいなと思います」

今大会開幕を目前に控えた日、錦織はそう口にしていた。

今季の錦織は、開幕戦の香港オープンで準優勝という最高のスタートを切る。ただ、その帰結として急上昇したランキングは、出場可能な大会が増え、スケジュールの過密化という副産物をもたらした。疲労を抱えたまま出場した直近のダラス・オープンとデルレイビーチ・オープンの2大会では、いずれも初戦敗退を喫する。

「香港でいいテニスして、そこから疲れもあり、全豪オープンではちょっと体がもたなくて......。デルレイビーチでも痛みがあり、なんかフルでプレーできなかったので」

そのような、本人曰く「先週までボロボロ」だった状態から復調の兆しが見えたのは、ここ数日。練習でも好感触をつかみ始めたなかで、口にしたのが前述の意気込みである。

錦織が初戦で当たったハウメ・ムナル(スペイン)は、守備力に定評のあるストローカー。昨年9月にクレーコートのATPチャレンジャー大会で初対戦し、6-2、4-0のリードから逆転負けを喫した相手でもある。

戦いの舞台をATPマスターズに移した今回の再戦でも、似た数字がスコアボードに刻まれていった。

【スポーツドリンクと塩を取りまくった】序盤から長いラリーが続くも、両翼から攻める錦織がムナルの鉄壁に穴をうがつ。立ち上がりから4ゲーム連取した錦織が6-2でセット先取。第2セットもブレークアップし、勝利まで2ゲームに迫った。

ただ、続くサービスゲームで錦織は「風もあり、ずっと取れずに苦労していた」というサイドのコートに立つ。相手を押し込み放つドロップショットも、この日はどうにも決まらない。

「彼は守備がいいし、ここが跳ねるコートということもあり、完璧なドロップを打たないと難しいと思ってしまった」

その思いが、手もとを狂わせただろうか。このゲームを落とした錦織は、最終的に5-7で第2セットを失った。

2セット終了時点で、すでに試合開始から2時間が経過。ファイナルセットの第3ゲーム後に、錦織はトレーナーを呼び、左ひざのマッサージを受けた。

そしてこの時、右足の太ももに痙攣(けいれん)が走ったという。続くゲームでネット際に走った直後には、足が硬直したように動けなくなった。

「完全に、つりましたね」と、錦織が振り返る。

「左のひざをかばっていたからか、治療した瞬間、右に痙攣が出てきた。かなり久しぶりだったので、ビビリましたね。どうすればいいかを思い出しながら、なんとか対応していました」

そこからは「スポーツドリンクと塩を取りまくった」。その甲斐あってか、数ゲーム後には痙攣もおさまり、「何とか持ちこたえられた」と言う。

ゲームキープに苦しみながらも、ピンチの時ほど声を上げ、フォアの強打を叩き込んだ。最後のタイブレークでは、経験の差が出ただろうか。ミスが出始めた相手を突き放し、6-2、5-7、7-6で勝利をもぎ取った。

試合から、約1時間後──。取材に応じる錦織は、さほど疲れた様子も見せず、充実の表情で試合を振り返る。

「全体的には、よかったです。反省する点としては、2セットで終われたポイントや瞬間もありました。風もあり、難しい試合ではありましたけど、納得のいく内容のテニスはできていたので、次につながる試合だったかなと思います」

【このプロセスを楽しまないといけない】身体の状態も「たぶん痙攣だけなので、大丈夫だと思います」と、現状では大きな不安はない様子。

「先週と先々週の2大会に比べれば、今日はよかったですし、やっと少し戻ってきたという感覚。今日の試合に負けていたとしても、納得のいくようなプレーはできていた」と、1勝以上の意義を見いだしていたようだ。

練習や試合の日々を、点ではなく線の一部として見ることは、今の錦織のテニスへの向き合い方そのものでもあるのだろう。

2024年末に錦織は、35歳を迎えた。区切りの数字にさしたる意味がないことは知りながらも、年齢について大会前に尋ねた時、彼は「35歳は、やっぱりこたえますね」と苦笑いしつつ、こう答えていた。

「どちらかというと、過去よりも出口のほうが先に見えてくる。若い頃とは違った意味での焦りがあるし、『早く結果を出さないと』とか、いろいろな感情は出てきますよね。

でも、これが最後の数年だとして、結果が出なくても、このプロセスを楽しまないといけない。負けている時も、勝っている時も、自分のメンタルの保ち方とか、そこらへんをうまくやりたいなと思います」

なお、初戦の勝利から1時間ほど経った時点で、錦織は次の対戦相手を知らなかった。

「まだ知らないので、すみませんが、次の相手の質問はなしで」

気恥ずかしそうな笑みをふわりと浮かべて、彼が言う。残された時間を自覚しつつ、今この瞬間を慈しみながら、彼は確かな足取りで前へと進んでいく。



【関連記事】
◆錦織圭「おじさんは、がんばっています」後輩から「神」とあがめられる35歳の日本代表愛
◆錦織圭の助言も取り入れた園部八奏全豪オープンジュニアを制した17歳の素顔
◆錦織圭は4年ぶりの全豪オープンで、世界11位に「僕の打つボールが遅く感じた」とまで言わしめた
◆錦織圭が初めて語ったイップスとの戦い「大事なポイントが取れない。なぜかすぐミスする」
◆日本女子テニス「6人のティーンエイジャー」が次々と世界へ海外メディアも注目するニューウェーブ
Sportiva

新着ニュース

エンタメ アクセスランキング

急上昇ランキング

注目トピックス

Ameba News

注目の芸能人ブログ