コーヒーで旅する日本/四国編|日々、刻々と移ろう気分に寄り添うコーヒーを。「LUSH LIFE COFFEE」が思い描く“みずみずしい生活”の深意

大きな窓を通して、常に外の空気が感じられる店内

コーヒーで旅する日本/四国編|日々、刻々と移ろう気分に寄り添うコーヒーを。「LUSH LIFE COFFEE」が思い描く“みずみずしい生活”の深意

3月5日(水) 0:00

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全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。瀬戸内海を挟んで、4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。
【写真を見る】フィルターコーヒー507円は、ハンドドリップとフレンチプレスが選べる。しっとりした口溶けのレモンケーキ270円は、酸味の余韻が爽やかな看板スイーツ
大きな窓を通して、常に外の空気が感じられる店内


四国編の第22回は、香川県高松市の「LUSH LIFE COFFEE」。高松を代表する観光地・栗林公園のお膝元にあって、2019年のオープン以来、海外からのお客にも支持を得る気鋭の一軒だ。店主の川染さんも、オーストラリア・メルボルンでバリスタ修業を積んだ経験の持ち主。個性豊かなカフェが街に根付くメルボルンのコーヒーカルチャーに触れ、地元高松で現地のクオリティを再現し、コーヒーを楽しむ日常を提案している。「生活のリズムの一部として、いろんな場面で普段使いしてほしい」という川染さんが、店名の“LUSH LIFE”に込めた思いとは。
店主の川染高太郎さん、未樹子さん


Profile|川染高太郎(かわそめ・こうたろう) ・未樹子(みきこ)
1978年(昭和53年)、香川県生まれ。愛媛で過ごした学生時代、飲食店でのアルバイトをきっかけにバリスタの道へ。同業の先輩の勧めで、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアに渡り、バリスタとして働きながら、現地のカフェカルチャーを吸収。帰国後は、高松のスペシャルティコーヒー専門店の先駆け・アロバー、静岡、東京のカフェや調理専門学校の講師を経験。N.Y.発のベーカリーカフェ・THE CITY BAKERYで、同僚だった現在の奥様・未樹子さんと出会い、2019年、地元の高松に戻って「LUSH LIFE COFFEE」を開業。

■メルボルンで体感したバリスタの醍醐味
店は栗林公園から最寄り駅への通り道に位置する

高松を代表する観光地の一つが、国の特別名勝・栗林公園。街なかにそびえる紫雲山を借景とした、日本最大級の大名庭園は、海外のトラベルガイドで3つ星を獲得するほど、今や世界的な名所ともなっている。「LUSH LIFE COFFEE」が店を構えるのは、栗林公園のお膝元という立地。「お客さんは、海外からの観光客も含めて、県外の方が半分以上」と店主の川染さん。ただ、観光地でありながら店はまばらなエリアとあって、地元の人々にとっては穴場のロケーションだという。

「この辺りは、かつて市役所などがあった名残で古くから続く店は点在していますが、あまり新しい店ができなかった場所。だから地元のお客さんが逆に少ない。海外では、どの国も国立公園のお膝元は賑わっています。でも、ここは賑わいが少ないから、もったいないなと感じてました」。川染さんがそんな印象を持ったのは、自身がバリスタとして海外で働いた経験があるからこそだ。
ドリップコーヒーは金属フィルターを使用。豆のオイルも含めてスペシャルティコーヒーならではの醍醐味を提案


学生時代を愛媛で過ごし、当時からカフェ、レストラン、バーなどの仕事に親しんできた川染さん。そのころに出会った仕事場の先輩から、本格的にバリスタを目指すなら、オーストラリアに行くことを勧められたことが、海外に渡るきっかけとなった。特に勧められた街が、個性豊かなカフェが日常に根付くオーストラリア。ワーキングホリデーで渡豪して、約4年を過ごした。「1年目は違う仕事に就いて、2年目はメルボルン、その後、ニュージーランドに移り、4年目から本格的にバリスタとして技術の向上を目指しました。現地での仕事はめちゃくちゃ楽しかったですね。どこに行ってもおいしいコーヒーが飲めるうえに、品質に対して安価だから、毎日でも通うお客さんがほとんど。日々、店に来ては何かしらの会話があって、生活の中にコーヒーを楽しむ環境が浸透しています。そうしたローカルなサービスを愛する気質が強いので、あのスターバックスも入り込めなかったほど。ほかの町とは空気感が違うのを肌で感じました」と振り返る。その後、高松に戻って、地元のロースターのパイオニア的存在である老舗・アロバーで、スペシャルティコーヒーの多彩な酸味の魅力に触れ、1年を経て今度はニュージーランドへ。さらに、再びメルボルンに移り、のべ3年ほどを海外で過ごした経験は、川染さんにとって何よりの財産だ。
 席の数を最小限に抑えた、開放的な空間


■今この瞬間の気分に合わせたベストな一杯を
エスプレッソ用のオリジナルブレンドは、豆の販売でも人気が高い

帰国後の2013年からは、静岡や東京など国内を渡り歩き、バリスタや調理専門学校の講師などを経て、N.Y. から日本に上陸したベーカリー・カフェTHE CITY BAKERY品川店へ。その後、大阪梅田店に移り、現在の奥様・未樹子さんと出会う。お互いにバリスタとして勤め、2018年、独立を視野に高松に帰ってきた。当初は自家焙煎も考えたそうだが、「豆の販売よりはサービス重視で、コーヒースタンドとしてやりたいとの思いがありました。メルボルン時代の経験から、豆の品質だけでなくサービスや店の環境が味にも影響すると感じていて、やるからにはバリスタとして常にクオリティの高い仕事をしたかった」と川染さん。そこでコーヒーは、東京のOBSCURA COFFEEにオリジナルの豆を依頼。スペシャルティコーヒーが好きな人にも、深煎り党にも受け入れられる味わいを目指した。

「東京にいるときによく行っていましたが、スペシャルティの専門店でありながら、極端な浅煎りにならない、バランス感がいいなと思っていました。また、ダイレクトトレードで豆を仕入れているのも大事なポイント。アフリカ系の豆は店で独自に買い付けているもので、個人店ではなかなかできないこと」。中でも、店の顔となるべきブレンドは、ドリップ用とエスプレッソ用の2種類を提案。メルボルンにいたころ、最も印象に残った店で飲んで以来、思い入れあるルワンダをベースにしている。「ブレンドとは別に、シングルオリジンでも提供しています。今のブレンドは、スペシャルティコーヒーならではのユニークな風味をかけ合わせて、相乗効果を引き出すイメージ。店のキャラクターが出るものですから、普段、コーヒーを飲みに行くときもブレンドに目が行きますね」
オセアニア圏では定番のフラットホワイト507円。ほかマキアートやジブラルタルなどアレンジは多彩


ドリップ用のブレンドは、ひと口目にはビターな香味が立つが、徐々にみずみずしい果実味へと移り変わる。まさに深煎り、浅煎りのいいとこどりのような、味わいの変化が印象的だ。またエスプレッソを使ったメニューには、オーストラリアでポピュラーなフラットホワイトも定番に。まろやかなミルクの甘味と華やかなコーヒーのフレーバーが心地よく広がる。ほかにもバリエーションは幅広いが、川染さんのいち推しはマキアートだとか。「オーストラリアでは、その店のエスプレッソのおいしさを測るものとして、初めて訪ねた店で必ず注文するそうで、いろいろあるなかで最後にはマキアートに行きつくと聞きました。コーヒーの味を活かしつつ飲みやすさも加味したマキアートは、日本ではいまだになじみが薄いんですが、こちらからおすすめすると気に入って下さる方は多いですね」。現地のカフェカルチャーに触れられるのも、この店の楽しみの一つだ。
フィルターコーヒー507円は、ハンドドリップとフレンチプレスが選べる。しっとりした口溶けのレモンケーキ270円は、酸味の余韻がさわやかな看板スイーツ


コーヒー豆は常時7、8種をそろえるが、「お客さんの気分は日によって違いますから、そのときのベストな一杯を出すためにも、幅広いレンジの豆が必要。バリスタは、店の内と外、両方に接してつなげる存在。ロースターから届く豆を、お客さんにどうプレゼンして、そのときの気分にフィットさせるか、常にバランスを取るのが大事な役割」と、会話を通した当意即妙の対応力こそが川染さんの真骨頂だ。

■2つの意味を持つ“LUSH LIFE”に託した思い
開店からの数年で栗林公園の周辺は新しい店が増えつつある

ドリンクをメインにして、コーヒーにぴったりのサイドメニューも。未樹子さんお手製の焼菓子の中でも、フレッシュの果汁をたっぷり使ったレモンケーキは、コーヒーとのペアリングを考えた看板スイーツとして好評だ。またホットサンドなどの軽食のほか、土日限定でモーニングも提供。エッグベネディクトやアボカドトーストといった、オーストラリアのカフェでは定番のメニューを楽しめる。
随所にオセアニアスタイルを取り入れたメニューの中にあって、唯一、異彩を放つのが自家製のコッペパンだ。「自分で手ごねして作ると、最初に聞いたときは思わず“なんで?”と思いました(笑)」とは未樹子さんの弁。その心は、「メルボルンは多国籍な街で、たとえば、イタリア人はパニーニ、フランス人はバゲットなど出身地のパンに誇りを持って、大事にしてるのを感じました。開店にあたって、日本人がそう思えるパンって何だろうと考えたときに、誰もが給食などで親しんでいるコッペパンかなと」。方々の店のコッペパンを食べ歩き、生地が柔らかいタイプと硬いタイプがあることに気づき、その中間を目指して独自に研究を重ねたという。
自家製コッペパンを使ったソーセージドッグ、あんバター各432円。ドリンクとセットで50円引き


この店の開店が呼び水となったのか、同時期に近隣で新たにオープンした店が多く、このエリアの雰囲気も少しずつ変わってきているとか。「栗林公園は、そもそもが立派な価値ある公園。海外からの観光客が多いことで、地元の人々の見方も変わってきているかもしれません。この界隈にエスプレッソを主体とした店は少ないので、自国で馴染んだ味を求める海外の方からは重宝されますが、ただ地元のお客さんには、日常のリズムの一部として普段使いでいろんな場面で使ってほしい。コーヒースタンドは本来、長く滞在するよりは気持ちの切り替え、リセットの場。おいしいコーヒーは、気持ちが落ち込んだときには癒やされるし、気分がよいときはよりよくしてくれる。いいことしかない(笑)。生活の場面に合わせて、もっと自由に使ってもらえれば」

この店の名前の由来を聞くと、川染さんが思い描く、この店のあり方が見えてくる。「ラッシュライフは、直訳すると、みずみずしい生活という意味。ですが、実は裏の意味として、酔いどれ、ぐでんぐでんになるというニュアンスもあるそうで、人間の二面性を表しているようで好きな言葉なんです。誰しもが調子のよいときだけでなくて、ちょっとだらしなくなるときもあって、酸いも甘いも含めた感情の起伏があるのがリアルな日常。その時々で移り変わる、どんな気分にも寄り添える存在でありたいですね」
「界隈でエスプレッソを提供する店が少ないので、自国で馴染んだ味を求める外国人観光客も多いですね」と川染さん


■川染さんレコメンドのコーヒーショップは「FUJIYAMA COFFEE naturel Roster」
次回、紹介するのは、愛媛県東温市の「FUJIYAMA COFFEE naturel Roster」。「店主・藤山さんは、90年代、いち早く松山にカフェカルチャーを広めた、伝説的なカフェ・ナテュレの創業者であり、僕がメルボルンに行くきっかけを作ってくれた方。オーストラリアの移住経験もあり、現地のカフェのスタイルを発信したナテュレは当時、画期的で、ここでエスプレッソを初体験して、バリスタという仕事を知りました。新たに始めた自家焙煎のコーヒーはもちろん、とにかく藤山さんのユニークな人柄も魅力の一つです」(川染さん)

【LUSH LIFE COFFEEのコーヒーデータ】
●焙煎機/なし(OBSCURA COFFEE)
●抽出/ハンドドリップ(キントー)、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(421円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン6種、100グラム853円~


取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治

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