アカデミー賞短編実写映画部門にノミネートされた「The Man Who Could Not Remain Silent(沈黙できなかった男)」が描く、実在の英雄トモ・ブゾフの息子ダルコ・ブゾフさんが、アカデミー賞授賞式を目前に控えた2月中旬、セルビアのベオグラードで心臓発作により急死した。52歳だった。
14分の短編映画は、旧ユーゴスラビア内戦下の1993年2月、民族間の憎悪が渦巻く中で人道的勇気を示したクロアチア人トモ・ブゾフの実話に基づいている。ベオグラード発の列車671号がボスニア東部のシュトルプツィ村付近で停止した際、セルビア系民兵組織の武装メンバーが乗り込み、ボスニア・ムスリムの乗客の「民族浄化」を開始。トモの乗った車両でムスリムの少年が見つかると、彼は少年に座るよう指示し、自らがその身代わりとなった。
民兵に三度座るよう命じられながらも、トモは毅然として拒否し続けた。最終的に、彼はムスリムの乗客18人とともに列車から連行され処刑された。500人の乗客の中で、無実の市民を守るために立ち上がったのは彼ただ一人だった。トモの遺体は、30年以上経った今も発見されていない。
歴史的な巡り合わせとして、ダルコさんの死は父親の英雄的行動からちょうど32年目の命日と一致した。さらに、この訃報は映画がフランスのセザール賞(フランス版アカデミー賞)で短編実写映画賞を受賞した翌日に伝えられた。
「The Man Who Could Not Remain Silent」は、アカデミー賞受賞はかなわなかったが、カンヌ国際映画祭の最高栄誉である短編パルム・ドールを獲得している。
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写真:Everett Collection/アフロ