サッカー界には多くの王がいる。真の王であるペレをはじめ、ディエゴ・マラドーナ、ヨハン・クライフ、フランツ・ベッケンバウアー、ジーコ、マルコ・ファン・バステン、ロベルト・バッジョ、ロマーリオ、(元ブラジル代表の)ロナウド、ロナウジーニョ、ジネディーヌ・ジダン、リオネル・メッシ......。
しかしそのなかでも、あるカテゴリーにおいて、ひとり突出している選手がいる。クリスティアーノ・ロナウドだ。彼は世界のトップクラスの選手のなかで最高齢の40歳であり、かつ、この年齢でありながら世界で最も稼ぐ選手として輝いているのだ。
2年前、ロナウドが2億5000万ドル(約375億円)とも噂される移籍金、推定年俸は2億2000万ドル(約320億円)でアル・ナスルに移籍したときは、確かにキャリア終盤を年俸と引き換えたかのように見えた。しかし、高額な報酬とVIP待遇を受けながらほぼプレーしなかったネイマールなどと違い、ロナウドはサウジアラビアでも結果を出し続けた。2023年1月にアル・ナスルに加入して以来、彼は94試合でプレーし83ゴールを決めている(3月1日現在)。そんなクリーンなロナウドのイメージは、サウジアラビアにとっては非常に貴重な存在だった。
サウジアラビアでも絶大な人気を誇るクリスティアーノ・ロナウド(アル・ナスル)photo by Rueters/AFLO
サウジアラビアは人権問題などでネガティブな印象もある国だが、現在、スポーツで国のイメージを変えようとしている。世界から有名サッカー選手を集めているのもその一環だ。サッカー界の高額年俸者10人のうち8人が、サウジアラビアのクラブに属していると言われる。
そのなかでも、ロナウドの獲得に成功したことは、間違いなく最強かつ最も重要な偉業だったろう。レベルが高いとは言えないサウジアラビアの国内リーグに、彼を1シーズン以上キープし続けられていることも、誰も予想し得なかった偉業だ。
サウジアラビアが2034年のW杯開催権を手に入れることができたのも、ロナウドの存在が大きかったに違いない。もはや「獲得した」だけでは十分ではない。サウジアラビアとしてはこれからも、彼のイメージをできるだけ長く使い続けたいと思っているだろう。
【目標はW杯出場と通算1000ゴール】だが、ロナウドとアル・ナスルの現在の契約は2025年6月までだ。この期日を過ぎれば、彼はいつでも世界のどのクラブとも契約を結ぶことができる。しかし同時に、オプションでもう1年、現在の契約を延長することもできるし、新たな条件で契約を更新することもできる。
そこでロナウドを手放したくないアル・ナスル、いやサウジアラビアという国家は、前代未聞の、サッカー史上最大のオファーを出してきた。さる2月5日、ロナウドは40歳になった。その誕生日プレゼントとして、サウジアラビアは大盤振る舞いのオファーを彼に申し出たのだ。
新契約では、年俸1億8800万ドル(約244億円)、月給にして約1500万ドル(約23億円)が保証される。もしこれを受け入れれば、ロナウドは再び世界一の高給取りのサッカー選手となる。なんでも一番でありたいロナウドにとっては、とても魅力的な申し出だ。
ただ、ロナウドをサウジアラビアに引き留めているものは金だけではない。いま現在、ロナウドの目標は2026年北中米W杯出場すること、そしてキャリア通算1000ゴールに達することにある。ちなみにここまで通算925ゴール(3月1日現在)を決めている。
サウジ側はそのことをよく理解している。だからこそ彼が「もういい」と思えるまで好きなだけ現役を続けられる。新契約ではそんな体制も作りあげた。もちろん、その間は高額の報酬を払い続けることになるが、それは彼らにとっては問題ない。とにかく末永くサウジアラビアにいてほしいのだ。
言ってみればこれは、ロナウドを"カズ化"させる計画なのだ。ちなみに58歳で現役を続けている三浦知良の偉業は、地球上にあまねく知れ渡っている。『ニューヨーク・タイムズ』紙が「カズという現象」について報道しているくらいだ。
もちろん、カズの記録を破るには、ロナウドはさらに18年以上もピッチに立ち続けなければならない。フィジカル的には問題ないかもしれないが、カズのように3部や4部でプレーすることを彼がそれをよしとするかは疑問だ。昨年8月、ポルトガルのテレビ局のインタビューでは、ロナウドは「アル・ナスルで引退するだろう」と話し、それがすぐなのか、2~3年後なのかは「わからない」と述べている
いずれにせよロナウドは、現代サッカーの歴史のなかで、トップ選手としては最も長くプレーした者となるはずだ。
その人気はまだ決して衰えてはいない。ロナウドが昨年8月にYouTubeチャンネルを開設すると、わずか90分で100万人、24時間で2000万人のチャンネル登録者を獲得した。現在の登録者数は7350万人にのぼる。
そんなロナウド引き留め作戦のとどめは、彼がアル・ナスルの株主になるということだ。今回、アル・ナスルはオファーの一環として、ロナウドにクラブ全体の5%の株式を譲ることもオファーした。
ロナウドは以前から、将来はクラブのオーナーになりたいとほのめかしている。その夢はポルトガルでも実現できるだろうが、サウジアラビアと強固な絆が結ばれているなか、サウジのチームのオーナーになることも可能になる。
これだけのことをされて、はたしてロナウドはサウジアラビアを去ることができるだろうか。
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