(画像提供/デイリーエステート)
2月16日(日) 22:00
生まれつきや、病気や不慮の事故などで障がいを抱えた車いす生活者が住まいを探すときには、車いすが通れる幅や旋回できるスペースがあるかなどの確認が欠かせません。車いすユーザーの生活に必要な視点を持って部屋探しをサポートする不動産会社、デイリーエステート営業部長の田中剛さんとユニバーサルデザイン事業プロデューサーの横山和也さんに詳しく聞きました。
手や足が不自由な人のうち、約28万人は同居者なしの一人暮らし厚生労働省の「2022年(令和4年)生活のしづらさなどに関する調査 (全国在宅障害児・者等実態調査)」によると、身体に障がいがある人のうち全体の7割以上が家族などと同居(同一世帯の方がいる)していますが、18%は同居者なし(同一世帯の方がいない)、つまり一人暮らしです。
身体障がい者(障がい者手帳所持者)における世帯の状況その中で手や足が不自由な「肢体不自由」な人は全国に約158.1万人いることが同調査から分かっているので、そのうちの18%が一人暮らしをしているとして大まかに計算すると、日本人の約28万人が肢体不自由で一人暮らしをしていることになります。
障がい種別にみた障がい者数の推移肢体不自由な人の住まいについて、デイリーエステートの田中さんは「車いすで一人暮らしをしようとすると、さまざまな壁にぶつかる」と、その困難さを訴えます。
困難が多い車いすユーザーの物件探し。障がいの程度や個人の特性によっても異なる賃貸・売買仲介を中心に行う不動産会社、デイリーエステートでは、ユニバーサルデザイン事業として車いすユーザーへ向けた賃貸・売買仲介やリノベーション事業もおこなっています。ユニバーサルデザイン事業部でプロデューサーを務める横山さんは、自身が車いすユーザー。「身体障がい者、その中の車いすユーザーだけを見てみても、日常生活の大変さは障がいの程度によって異なります。そのため、住まい探しにあたってはその人の希望や置かれている状況、障がいの程度などを深く知ることが必要です」と言います。
「対面やオンラインで面談をして状況をヒアリングする際に、使っている車いすの種類、車いすから立ち上がれるかどうか、身体の左右で機能に違いはあるか、さらに排せつ方法やお風呂の入り方などもうかがいます」(横山さん)
また、病気や不慮の事故で後天的に車いすユーザーとなった人は、障がいを抱える前の住居では排せつや入浴、家事など日常にさまざまな不都合が起きてしまい住めないことが多いため、入院中に退院後の住まいを決めておかなければいけないこともあるそう。住まいの事情も人それぞれです。
「入院中にオンラインで中古マンション購入+リノベーションの相談をされた車いすユーザーさんの場合は、住宅ローンを組むときに金融機関側に車いすユーザーへの融資の前例がなく、融資を取りつけるのに苦労したという例もありました」(田中さん)
賃貸住宅の場合は、ヒアリングで相談者の希望を聞き、物件検索サイトに掲載されているあまたある物件の中からインターネットの地図などを駆使して10件くらいまで候補をしぼります。さらに現地調査を経て紹介できるのは1~2件、場合によっては0件のこともあると言います。
「『障がい者が入居を希望している』と言うだけで、拒否感を持つオーナーさんや不動産会社も多く、『対応した経験がなく不安だから、とりあえず断っておこう』というケースがほとんどです」(田中さん)
とくに賃貸住宅の場合、建物の仕様や設備など、ハード面の問題がより大きくなります。基本的に賃貸住宅では、原状回復が困難なリフォームなどは許可が下りないことが多く、車いすで室内や建物の躯体を傷つけないように注意しながら住む必要があるからです。
横山さんは、20代で旅行中に転落事故に遭って車いすユーザーとなりました。「自分が車いすユーザーだから分かることがある」と言います。
「車いすユーザーの住まいに関しては、インターネットや物件資料に記載されていない情報を細かくチェックしなければいけません。例えば、床に段差はあるのか、その段差は車いすで乗り越えられる高さなのか、といった確認点がたくさんあります。そのため、私と田中で直接現地を見に行って、納得できるものだけを紹介しています」(横山さん)
横山さんが事前の物件調査で特に注目するポイントは、駅からの距離や道の状況のほか、共用部分の段差や動線、車いすが旋回できる幅の有無、トイレや浴室の広さ、手で操作する住宅設備の床からの高さ、騒音や床への荷重など、多岐にわたります。
マンションのエレベーターを降りたらエントランスが2~3段の階段になっていて、車いすで先へ進めないこともありました。また、ポストの扉の位置が高くて手が届かないことや、操作しにくい電気のスイッチなどが日常生活の障壁になるケースも。住戸内で車いすを使用する予定の場合は、重量のある電動車いすを使っても床が傷まないか、操作時に発生する音が近隣に響かないかなどもチェックポイントです。
このようなハード面以外に、ヘルパーや訪問介護事業者への依頼、車いすや福祉用具の給付金申請などでつまずいて一人暮らしを断念する人も多いそうです。そこで、デイリーエステートでは福祉サービスなど、ソフト面の相談にも応じるようになりました。
「自分にしかできないことを活かせる!」と不動産会社と協業突然の事故により車いすユーザーとなった横山さんが、家業であるペットホテル運営の仕事から不動産業界に飛び込んだきっかけは、入院中に知り合った医療関係者で賃貸物件を所有する人の好意によるものでした。入院後の住まいをどうしようかと悩んでいた横山さんに「所有している物件に入居して、車いすの人が住みやすい部屋をつくってみてほしい」と声をかけてくれたのです。入居前に段差やトイレ、お風呂など、細かく要望を出してリノベーションしてもらい、そこで約3年間過ごした後、その時の経験を活かして10年ほど前に新築マンションを購入。そこに車いすで使いやすいように簡単なリノベーションを施して、今もそのマンションに暮らしています。
当時、不動産とは無関係だった横山さんがデイリーエステートと関わるようになったのは、会長の田中清一(たなか・きよかず)さんとの出会いでした。田中清一さんは車いすユーザーである横山さんの暮らしぶりに関心を寄せ、不動産会社である自社で「車いすユーザー向けの住まいを一緒につくれないか」と協業を持ちかけます。
話を聞いた横山さんは「誰にでもできることではなく、自分にしかできないことが活かせる!」と強く感じ、協業の提案を快諾。最初は外部のプロデューサーとして、車いす生活を余儀なくされた人や、その家族が快適に暮らせる空間をつくるため、デイリーエステートの中にユニバーサルリノベーション事業を立ち上げたのです。
まず、ユニバーサルリノベーション事業の一環としてつくるべき住まいは、障がい者向けホテルか、マンションか、それとも一戸建てか……と検討を重ねました。結果、「本人や家族にとって必要なものを見極めるためのワンクッションがあると便利だろう」という結論に至り、企画から3年の歳月をかけて、2022年8月に宿泊体験のできるモデルルーム「WADACHI(わだち)」を完成させます。同時に横山さんはデイリーエステートに入社し、本格的に車いすユーザーの住まいを考える仕事に従事することになりました。
横山さんは、車いす生活となってから入居した前述の賃貸マンションのリノベーションで、不要な機能を過剰に取り付けてしまい、逆に不便になる苦い経験をしました。この経験から、宿泊体験が可能なWADACHIでは、人や障がいの程度によって異なる便利さや快適さを見極め、提案できることが強みのひとつです。
「WADACHIは、さまざまな企業や団体の協力を得て、車いす生活に必要なもの、空間をトータルプロデュースしています。例えば福祉用具、介護用ベッド、介護用リフトなどは、使ってみて自分に合うか合わないか、必要かどうかを判断できます。車いすのタイヤにはめるカバーや、自社で開発した介護用ベッドに敷くムートンマットなどの購入もできる、ちょっとしたセレクトショップのようになっています」(田中さん)
「かつて自分が賃貸マンションに施したリノベーションの『無駄』は、他の人に経験して欲しくないのです。また、受傷してすぐにはできないことも、リハビリを重ねて体の機能が戻ってくるとできるようになることがあるため、完全バリアフリーの住まいが必ずしも良いとは言えません。10~20年後を見据えたリノベーションが重要だと考えています」(横山さん)
障がい者の住まいさがしで分かった困難と今後の展望田中さんが、企業としてユニバーサルリノベーション事業を通して痛感しているのは「障がいのある人の住まいは、パッケージ化ができない」ことです。
「障がいの程度や個人のこだわり、感じる快適さなどは千差万別なので、パッケージ化して商品として売り出すのは難しいと感じています。一人ひとり細かくヒアリングして、現地に出向いて物件を調査する、いわばオーダーメイドです。そこまで手をかけないと入居できないほど、障がいのある人が賃貸住宅に住むハードルは高いと言えます。一方で規定の仲介手数料以外のご料金をいただいているわけではないので、事業として決して採算が良いとは言えません」(田中さん)
一方で、介護福祉関係者や車いすユーザーの家族には、ユニバーサル事業の取り組みを喜んでもらえることが多いと言います。
「病院では、退院した後の手続きや住まいの話はされますが『後は自分たちで考えたり探したりして、手配してください』というところがほとんど。しかし、車いす生活を体験できるWADACHIができたことで、介護・医療関係者の人や家族も、車いすユーザー本人と一緒に見学に来て『やるべきことが分かった』という声をいただいています」(田中さん)
デイリーエステートの今後の課題は、認知度を上げていくこと。知ってもらえれば車いすユーザーや家族、関係者にも喜ばれ、不動産仲介の相談数に対して成約率も高いので、WADACHIの完成から3年目の今が踏ん張りどころだと感じています。
「ユニバーサル事業は、今はまだ会社の収益に直接的に寄与しているとは言えない状態」だと語る田中さん、横山さんには、大きな夢があります。それは、自社に蓄積したノウハウを用いて車いすユーザーに特化した収益物件をつくること。1戸ずつ、さまざまな車いすユーザーに対応した施工を施し、区分マンションとして投資家が投資できるようにする、一般的な区分マンション投資に社会貢献が加わった収益物件の提供です。
「投資家には付加価値を提供できますし、車いすユーザーは入居を断られる心配がありません。その賃貸マンションでの生活を経て、車いすユーザーが自分にとって何が必要で何が不要かも分かるので、ゆくゆくはご自身で物件を購入したり、リノベーションしたりすることにも活かせます。当社にとっては将来的に、障がい者対応の知識を持った不動産会社としてエキスパートになれる点がメリットであり、そうなれると自負しています」(田中さん)
車いすユーザー自身が自らの経験を活かして住まい探しや住まいづくりに関わる、デイリーエステートのこれまでの取り組みはもちろん、これから投資家、入居する車いすユーザー、デイリーエステートと関わる人全てがWIN-WIN-WINになれるビジネスを目指す、田中さんと横山さんの計画も応援したいですね。
●取材協力
株式会社デイリーエステート
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