◆2024年「この3冊」
◇<1>『陥穽 陸奥宗光の青春』 辻原登著(日本経済新聞出版)
◇<2>『大人のための印象派講座』三浦篤著(新潮社)
◇<3>『風呂と愛国』川端美季著(NHK出版)
<1>は日本外交の父といわれる陸奥宗光の前半生を描いた歴史小説。人物造形は綿密な史料調査に基づいており、波瀾万丈な物語展開はまるで映画を見るような感動を与えてくれる。虚構の時空間において、近代の歴史人物をどう描くべきか、みごとな手本を示した。
印象派についての書籍が夥しく刊行されるなか、<2>はこの芸術運動を理解する上で、独特な視点を提供している。それぞれの画家の家庭背景、女性関係、政治とのかかわり、さらには画商の営業戦略など、これまで知られていない事実が多く披露されている。
<3>は地道な史料調査と丁寧な文献解読を通して、「入浴が好きな日本人」というイメージが形成される過程を解明し、社会的通念が文化の自己表象として手際よく読み解かれている。

『陥穽 陸奥宗光の青春』(日本経済新聞出版)著者:辻原 登
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『大人のための印象派講座』(新潮社)著者:三浦 篤
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『風呂と愛国: 「清潔な国民」はいかに生まれたか』(NHK出版)著者:川端 美季
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【書き手】
張 競
1953年、中国上海生まれ。明治大学国際日本学部教授。上海の華東師範大学を卒業、同大学助手を経て、日本留学。東京大学大学院総合文化研究科比較文化博士課程修了。國學院大学助教授、明治大学法学部教授、ハーバード大学客員研究員などを経て現職。著書は『恋の中国文明史』(ちくま学芸文庫/第45回読売文学賞)、『近代中国と「恋愛」の発見』(岩波書店/一九九五年度サントリー学芸賞)、『中華料理の文化史』(ちくま新書)、『美女とは何か 日中美人の文化史』(角川ソフィア文庫)、『中国人の胃袋』(バジリコ)、『「情」の文化史 中国人のメンタリティー』(角川選書)、『海を越える日本文学』(ちくまプリマー新書)、『張競の日本文学診断』(五柳書院、2013)、『夢想と身体の人間博物誌: 綺想と現実の東洋』(青土社、2014)『詩文往還 戦後作家の中国体験』(日本経済新聞出版社、2014)、『時代の憂鬱 魂の幸福-文化批評というまなざし』(明石書店、2015)など多数。
【初出メディア】
毎日新聞 2024年12月21日
