2025年1月17日より全国公開された「サンセット・サンライズ」。本作は、都会から移住したサラリーマンと宮城県・南三陸の住民たちとの交流や、コロナ禍や地方の過疎化、震災などの社会問題を盛り込みながらユーモアたっぷりに描いた作品となる。公開前に試写で観た本作の感想を紹介(以下、ネタバレを含みます)。
【写真】都会から移住したサラリーマンの晋作を演じた菅田将暉
【ストーリー】
新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉さん)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタートさせる。
仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た“よそ者”の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流に戸惑いながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた。
■岸善幸監督×宮藤官九郎さん脚本×菅田将暉さん主演の豪華なタッグが実現!
「正欲」(2023年)で、第36回東京国際映画祭最優秀監督賞を受賞した岸善幸監督と、話題作を連発し続ける脚本の宮藤官九郎さん、「あゝ、荒野」(2017年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ほか数々の映画賞を受賞して以来、7年ぶりに岸監督作品に主演する菅田将暉さんという豪華タッグの作品である。
楡周平さんの同名小説を原作に、都会から移住したサラリーマンと宮城県・南三陸で生きる住民との交流や、人々の力強さや温かさをユーモアたっぷりに映し出し、その背景にあるコロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、震災などの社会問題と向き合いながら豊かなエンターテインメントに転化させたヒューマンコメディの本作。
岸監督と菅田さんが最初に仕事をしたのは、2016年に公開された岸監督の映画初監督作「二重生活」。直木賞作家・小池真理子さんの同名小説の実写化で、門脇麦さん演じる大学院生の恋人役を菅田さんが演じていた。その翌年には映画「あゝ、荒野」で再びタッグを組んだ二人。「あゝ、荒野」は前篇と後篇という形で2作公開され、ダブル主演を務めた菅田さんとヤン・イクチュンさんはボクシングに人生を賭けた義兄弟役に挑んだ。
「あゝ、荒野」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した菅田さんにとって、岸監督との絆は特別なものだったに違いない。だからこそ、監督が初めてコメディに挑戦した「サンセット・サンライズ」への出演を快諾したのだろう。
菅田さん自身も2021年に放送された連ドラ「コントが始まる」以降、コミカルな要素のある作品から遠ざかっていたイメージがある。ドラマ「ミステリと言う勿れ」や映画「花束みたいな恋をした」、「キャラクター」、「銀河鉄道の父」などラブストーリーやミステリーもの、実在する人物を描いた作品への出演が続いたからだ。
「サンセット・サンライズ」では、都会から移住したサラリーマンの晋作を演じた菅田さん。宮城県・南三陸で暮らす人たちの中にいつの間にか溶け込み、大好きな釣りを楽しみながら在宅ワークをこなす晋作を魅力的に体現している。
■井上真央さんや三宅健さん、竹原ピストルさんらキャストの個性が光る演技に注目
晋作が移住ライフをスタートさせる一軒家の大家・百香を演じたのは、ドラマ「100万回言えばよかった」での好演が記憶に新しい井上真央さん。連続ドラマ「獣医ドリトル」以来14年ぶりの共演となる井上さんと菅田さんは、本作でほどよい距離感を保ちながら交流を深めていく男女を演じた。
百香は地元のマドンナ的存在で、ある過去を抱えながらひたむきに生きている女性。そんな百香が晋作に対して少しずつ心を開いていく様子を繊細に演じている。
百香の父で漁師の章男を演じたのは中村雅俊さん。普段のダンディな佇まいからは想像がつかないほど、漁師姿が似合っていて驚いてしまう。また、宮城出身の中村さんが話す宮城弁もナチュラルで、晋作と章男のやり取りにはクスクスと笑ってしまうようなユーモラスな場面も多い。
「モモちゃんの幸せを祈る会」(百香を気にかけている独身男4人で結成)のメンバーで、水産加工工場勤務の高森武(タケ)を三宅健さん、酒処「海幸」二代目店主の倉部健介(ケン)を竹原ピストルさん、宇田濱町役場勤務の山城進一郎を山本浩司さん、同じく宇田濱町役場勤務の平畑耕作を好井まさおさんが演じており、この4人が都会から来た晋作を怪しむ場面が笑いを誘う。
「モモちゃんの幸せを祈る会」のリーダーであるケンは、店に突然現れた晋作のことが気に入らず、おいしい料理を「どうだ!」と、なぜか晋作の前に勢いよく置く姿がなんともおもしろい。竹原さんのワイルドな雰囲気がケンにピッタリで、ケンが店で歌うシーンも本作の見どころのひとつといえる。
また、ケンの店で晋作が食べる料理はどれもおいしそうで、鑑賞後は迷わず居酒屋に直行したくなる。ハモニカ焼き(メカジキの背びれの付け根の塩焼き)やモウカノホシ(ネズミザメの心臓の刺身)など、劇中に登場する郷土料理をロケ地である気仙沼で食べるツアーがあったらいいのにと思う。
コロナ禍以降リモートワークになった人の中には、晋作のようなお試し移住に興味を持つ人や、二拠点生活を始めてみようかと考えている人もたくさんいるだろう。本作を観ると、釣りを存分に楽しみ、地元の人たちとも交流し、仕事もちゃんとこなす晋作の生活に少し憧れてしまう。
忙しい日々を忘れさせてくれるような本作を、ぜひ劇場でご覧いただきたい。
文=奥村百恵
(C)楡周平/講談社(C) 2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
【関連記事】
・
横浜流星が5つの顔を持つ逃亡犯を演じ分ける!人間の醜悪さと素晴らしさを描いた映画「正体」を鑑賞
・
俳優・堂本剛の魅力が炸裂している映画「まる」を鑑賞!“○”を描いたら現代アートの人気作家に
・
「ソウX」を鑑賞、観ているだけで痛みを感じるデスゲームがすごい!体調やメンタルがすぐれない際は注意を
・
映画「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」大ヒット公開中!迫力ある戦闘シーンとハラハラ展開に大興奮の超大作
・
映画「ロボット・ドリームズ」の推しポイントを紹介!80年代のニューヨークの街並みに心躍り、犬とロボットの絆に心温まる
・
映画「ホワイトバードはじまりのワンダー」の見どころを紹介。いじめられっ子の少年が、命がけで好きな女の子を守る姿に涙する
・
イラストレーター・ふゅの恋愛クリニック【第5回】「友達の多い彼とグループで遊ぶ休日に疎外感を感じて憂鬱…」