胃もたれを“いつものことだから”と放っておけば、最悪取り返しのつかないことになるかもしれない……(写
1月27日(月) 2:00
「3カ月以上、ずっと胃の不調が続いたので、自宅近くの内科を受診し、薬を処方してもらいました。ところが、症状がいっこうによくならない。もしかして、何か重大な病気なのかも……と怖くなり、消化器内科専門のクリニックで検査を受けることにしました。
胃カメラやレントゲン、血液検査などをやった結果、聞いたこともない『機能性ディスペプシア』という診断でした。すぐに治療薬を処方してもらい、2週間ほどで胃の不調は改善されました」(東京都・50代主婦)
食べすぎ、飲みすぎ、あるいはストレスなどによって、一時的に胃が痛くなる経験をしたことのある人は多くいるはず。だが、胃痛、胃もたれ、みぞおちが焼けるような症状などが、週に1回以上の頻度で、3カ月以上続いているという人は、注意したほうがいいかもしれない。
近年、一般的にはあまり耳慣れない消化器系の疾患「機能性ディスペプシア」に悩まされている患者が、全国的に増えているという。機能性ディスペプシアとは、胃の中はきれいなのに、胃の不調が慢性的に続く不思議な病気。具体的にどのような症状が起きるのか。
「胃の内視鏡検査(胃カメラ)などの画像検査では異常が見られないにもかかわらず、みぞおち周辺の痛みや、食後の胃もたれ、少し食べただけですぐおなかいっぱいに感じてしまう(食後早期の飽満感)など、さまざまな症状を呈する病気です。
胃や十二指腸といった上腹部の不調を訴えて消化器内科を受診する人の約半数が、機能性ディスペプシア。今もっとも一般的な病気だといわれています」
こう語るのは、日本消化器病学会専門医で、機能性ディスペプシアの治療に詳しい「日本橋人形町消化器・内視鏡クリニック」の石岡充彬院長。
病院を受診していない人たちを含めると、国民の10人に1人は、この病気の可能性があるとも……。
発症年齢は20~30代に多いが、40~80代の幅広い年齢層でも患者が増えており、男女比では、やや女性のほうが多いといわれている。病気が発症する原因は何か?
「主な原因としては、ストレスや食事、運動、睡眠といった生活習慣。ほかにも、性格や遺伝的な要素といった、持って生まれた要因など、さまざまな因子が複雑に絡み合って発症するものと考えられています。
また、食あたりのような、ウイルスや細菌などへの感染をきっかけに発症するケースもあります」(石岡院長、以下同)
日本生活習慣病予防協会が、全国の消化器内科医331人を対象におこなったアンケート調査によると、“ストレスが要因”で、今後、日本人の新たな国民病となる疾患として、回答数が最も多かったのが、この機能性ディスペプシアだった。
すでに日本人の多くが罹患している可能性もある“新国民病”の機能性ディスペプシア。もし、慢性的な胃の不調が続くようであれば、この病気を疑い、早めに検査を受けたほうがいい。早期治療によって症状はほぼ改善し、重症化することも少ないそうだ。
■放置しているとがんを見逃すことも……
「治療には、内服薬を使用します。主に、胃酸過多を抑える薬、胃の動きを整える薬などを処方します。それでも効果が見られない場合は、漢方薬であったり、心理的ストレスが強い人には抗うつ薬など、心療内科で使われる薬を用いる場合もあります」
機能性ディスペプシアは、ストレス、睡眠不足、運動不足、不規則な食事時間や偏った食事など、生活習慣の乱れが原因で起こる。そのため、症状の改善にはこれらを見直すことも重要となってくる。
そこで石岡院長に、機能性ディスペプシアにならないための3つの予防・再発防止策をアドバイスしてもらった。
【1】食事
「アルコールやカフェイン、チョコレート、刺激のある食品や脂っこい食べ物などを控える」
【2】規則正しい生活
「睡眠をよく取ること。自律神経を整えることは、胃の症状改善に有効となります」
【3】ストレス回避
「このストレス社会において、ストレスをゼロにすることは難しい。それでも何か、自分なりのストレス発散法を見つけて、できるだけため込まないようにすることが大事です。たとえば、軽いランニングなどの運動習慣も症状の改善に有効であることが知られています」
機能性ディスペプシアは、命に関わる重大な病気に発展することはないという。とはいえ、勝手な自己診断で“大丈夫だろう”と、放置してしまうと、症状をこじらせて痛みがより強くなり、仕事を休まざるをえないような症状へと発展する可能性もあるそうだ。
「胃炎や胃潰瘍、胃がんなどの病気でも、機能性ディスペプシアと似たような症状が出てくる場合があります。自己診断で放置したままでいると、これらの病気を見逃し、進行させてしまうことにもなります。
取り返しのつかないことにならないためにも、症状が長く続く場合は、一度、消化器内科を受診することをおすすめします」
もともと機能性ディスペプシアを発症しやすい要因を持っている人の場合、胃に負担をかけすぎると、発症の引き金になったり、落ち着いていた症状がぶり返して強く出ることもあるという。
この年末年始、暴飲暴食をした人もいるだろう。もし胃の調子が慢性的に悪い状態が続いていたら、この病気を疑って、早めに検査を受けることだ。