ここ数年、リーク情報や噂が絶えなかった任天堂の次世代ゲーム機が、ついに「
Nintendo Switch2
」という名称であることが、1月16日に正式発表されました。2017年に発売され、世界的な大ヒットを記録した「Switch」の後継機とあって、ゲームファンはもちろん、投資家や業界関係者もその行方に注目しています。
とはいえ、「Switch」ブランドをそのまま引き継ぐ形での“ナンバリング”は任天堂にしては異例です。「
ファミコン→スーパーファミコン
」や「
Wii→Wii U
」といった流れとは違い、シンプルに「2」の数字を冠することで、いったい何を狙っているのか。
そこで今回は「Switch2」の発表がもたらすインパクトや、これまでの任天堂のハード戦略を振り返りながら、同社が
どのような“次世代ゲーム機戦略”を描いているのか
を読み解いていきたいと思います。
さらに、ゼルダシリーズで顕著に表現されてきた“
ゲームにおける世界体験の強み
”という観点も交えつつ、任天堂の“次の10年”を探ってみたいと思います。
なぜ「2」なのか?任天堂のネーミング・ブランディング戦略
任天堂が本格的に据え置き型ゲーム機を世に送り出してきた歴史を振り返ると、ブランドのネーミングに「数字」を直接用いるケースは非常に珍しいです。
「ファミリーコンピュータ」から「スーパーファミコン」への移行は、「スーパー」の一言によって大きな進化を感じさせ、「ニンテンドー64」や「ゲームキューブ」、「Wii」、「Wii U」など、
これまでの任天堂ハードは“数字の羅列”とは距離を置き、“新しさ”や“驚き”を前面に打ち出してきた傾向があるからです
。
しかし、「Switch2」では、その“新ネーミング”路線をあえて放棄し
、“あの大ヒットハードの正統後継機である”ということを明快に示す形となりました
。これは、現在の「Switch」ブランドがあまりにも強力であることが第一の理由と推測できます。なぜなら、すでに世界中で1億台以上が普及し、ライトユーザーからコアゲーマー、さらにはファミリー層や任天堂作品しか遊ばない層に至るまで、幅広く浸透しているからです
また、
投資家サイドからの声も無視できません
。スマートフォン市場のように「定期的なモデルチェンジ→ユーザーの買い替え」というスムーズなサイクル収益安定の鍵となり、そこに「Switch」というブランド力が絡めば、任天堂としては“2”をつけるだけで、スイッチユーザーに「次はこれだ」と買い替えを促しやすくなるからです。
このように、
ブランディング面・投資家面の両方で利点が多いことが、「2」の数字を選んだ大きな要因
ではないでしょうか。
ハードから見る「Switch2」の可能性
今回の発表で注目を集めたのは、発売時期が2025年とだけ示された点です。「25年夏」といった具体的な時期ではなく、年のみでの予告となっています。
任天堂はこれまでも、詳細は後日改めて発表するとしてファンの期待を高めることが多く、ここから推察されるのは、まだ最終的なスペックやサプライチェーンの調整が確定し切っていない可能性、あるいは発売時期を柔軟に動かせるように設定している可能性があることです。
世代交代とはいえ、
初代Switchがなおも現役で人気を誇り、ソフトラインナップも充実している以上、そこから慌てて移行を図る必要性は低いと判断しているのかもしれません
。
さらにリーク情報や予告映像を分析すると、「Switch2」は初代Switchの“ハイブリッド”コンセプトを継承しており、テレビにつないで据え置き機として遊べるだけでなく、本体を持ち出して携帯機としても遊べる特性は任天堂の強みとなっています。
またコントローラー(ジョイコン)周りの取り付け方式や画面サイズなどの変更はあるものの、大きく形状は変わっていないことから、「次世代Switch」というコンセプトを体現する形でのリリースとなりそうです。
ただし、任天堂が単に“性能向上版”を出して終わりとは考えにくく、
同社は常に“遊びの新しさ”を求めており、Wiiで体感操作に世界を驚かせたように、新ハードで何かしらの驚きを用意している可能性があります
。
筆者自身、ゲーム好きですが、ここで思い出したいのが「『ゼルダの伝説』のように、
ゲームの強みはその世界を体験する喜びであり、それは映画などの映像作品にはないゲームの強みであり、任天堂の得意とするところである
」という点です。
その世界に没入し、自分自身が冒険者としてその場を歩み回る感覚こそ、任天堂が何度も提示してきた“ゲームならではの価値”なのです。グラフィックやフレームレートといった性能面の進化はもちろん、プレイヤーが“ゲーム世界を体験する喜び”をさらに高めるような仕掛けも「Switch 2」に期待されるところでしょう。
過去コンソールと比較する任天堂の「方向転換」のタイミング
任天堂はこれまで、ハードごとに大きくコンセプトを変えてきた歴史を持ちます。
「ファミコン→スーパーファミコン」では、2DからMode 7などを活かした奥行き表現を拡大させ、「ニンテンドー64」で本格的な3D空間を開拓し、「Wii」で体感操作をメインストリームに押し上げる。そして、据え置き型と携帯型を融合させた「Switch」が誕生しました。特に「Wii」から「Wii U」への移行は、タブレット型コントローラーを取り入れたもののコンセプトが曖昧となり、
後継機の差別化に失敗してしまった歴史があります
。
「Switch2」においては、まさにこの
「Wii U」的な“分かりづらさ”をどれだけ排除できるかが重要
であり、後継機をアピールする際、前作との違いが明確でないと新たなユーザーを呼び込みづらいく、既存ユーザーにも買い替えを促しづらくなります。ナンバリングを付けることで“正統後継”の分かりやすさはあるが、革新的な機能・操作系統などがなければ「Wii U」と同様、「なんだか中途半端な進化」に映ってしまう危険もあるのです。
実際、「Switch2」の名称発表後に任天堂の株価は下落(終値ベース4.26下落)していることから、ユーザーや投資家サイドにとっては現段階では「予定調和」の情報がほとんどであることが推測できます。
一方で、初代Switchの大ヒット要因のひとつは、タイトルラインナップの絶妙な充実ぶりです。ローンチのゼルダの伝説シリーズの「ブレス オブ ザ ワイルド」や「ティアーズ オブ ザ キングダム」が圧倒的な世界体験をもたらしたことはもちろん、そのほかにも「マリオカート」「大乱闘スマッシュブラザーズ」「あつまれ どうぶつの森」と、
任天堂を代表するビッグタイトルが続々登場しました
。さらにインディゲームの受け皿としても成功を収め、Switch市場を広げることに成功しています。
つまり、“ビッグネームIP”を的確なタイミングで投入しながら、インディータイトルも巻き込む。その点で、Switchは理想的なプラットフォームとなったのです。
投資家視点から見た「Switch2」の狙い
投資家や市場アナリストの視点に立つと、やはり「ハードのライフサイクルをいかにうまく回すか」が最大の関心事です。ソニーのプレイステーションが「PS1」から「PS5」へとナンバリングを重ねる中で、ユーザーは「ああ、次はPS5が出るのか」と自然に買い替えを検討する流れができています。
一方の任天堂は、ハードの名称が大きく変わるたびに“新しい概念”を打ち出してきたため、
ユーザーの興味を引く半面、投資家視点では予測しづらいリスクを抱えてきました
。「Wii」の大成功から「Wii U」の伸び悩みという落差が、その典型例です。
「Switch2」というネーミングは、このリスクを最小化するための最良の手段といえます。これまでの実績・ユーザー基盤を土台に、「Switch」の延長線上で確実に台数を上乗せでき、かつ定期的な買い替えを狙えるからです。さらに、
性能面の強化やオンラインサービスの充実は、サードパーティの開発も後押しし、ソフト売上や関連グッズの売上拡大にも貢献することが予想されます
。
投資家としても、突然のブランド転換で大きく方向性を変えるよりは、安定かつ確実にリリースされる後継機の方が安心感があり、これが長期的な株価や企業イメージの安定化につながる可能性が高いでしょう。
任天堂のキャラクタービジネス:ゲーム機を超える収益源
任天堂を語るうえで外せないのが、マリオやゼルダ、カービィなど、魅力的なキャラクターIP(知的財産)です。近年は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに開園した「スーパー・ニンテンドー・ワールド」が国内外で大きな話題を呼び、ハリウッド映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も世界的に大ヒット。
今や任天堂のキャラクターたちは、ゲームという枠を超えてビジネスを拡大しています
。
こうしたキャラクタービジネスの成功は、新ハード「Switch2」への注目度をさらに高める要因でもあります。多くの消費者は、マリオやリンク(ゼルダの伝説の主人公)といったキャラに対して、ゲームのみならず映画やテーマパークでも親しみを抱いており、
その“愛着”が専用ゲーム機で遊びたいという意欲へと直結し、結果的にハードの販売台数やソフトの売上を押し上げています
。
任天堂としても、ゲーム機が普及すればするほど自社IPに触れる人口が増え、さらなる関連グッズやテーマパーク事業、映像作品へと繋げやすくなり、まさに好循環を生み出しているのです。「Switch2」も、この好循環をより強固なものにするための基盤として機能することが期待されます。
今後の焦点:ソフトラインナップとオンラインサービス
「Switch2」の発表でユーザーが最も気になるのは、どのようなソフトが発売されるかという点です。任天堂は歴代ハードの立ち上げ期に合わせ、目玉となるビッグタイトルを用意してきました。たとえば、初代Switchのローンチには『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を投入し、
その圧倒的なクオリティと自由度でユーザーを魅了し、ハード普及を牽引する“キラータイトル”の代表例となりました
。
今回も、「マリオカート」や「あつまれ どうぶつの森」などの新作がSwitch2のローンチや発売初期の大きな目玉になる可能性は十分あり、ファンが“待ってました”と飛びつくようなラインナップを戦略的に配置することで、初年度から需要を盛り上げる狙いも見えるでしょう。
また、オンラインサービスの強化にも注目が集まっており、現行の「Nintendo Switch Online」ではファミコンやスーパーファミコン、さらにはNINTENDO64やゲームボーイといった過去ハードのソフトが遊べるようになっていますが、さらなる拡充を望む声があることから、「Switch2」に合わせてオンライン周りが刷新・強化されれば、
追加料金で新作や大型アップデートを遊べるサブスクリプションが充実する可能性もあるでしょう
。
もちろん、これらすべての施策がうまく機能するためには、任天堂が一貫して大切にしてきた“ゲームならではの世界体験の強み”をどこまで引き出せるかが鍵を握っています。
映像作品と異なり、プレイヤー自身がキャラクターを動かし、世界を探索し、物語に直接関われる。この体験こそが、数々の名作ゼルダを支え、任天堂ブランドをここまで強固にしてきた最大の武器だといえます。
「Switch2」は新たな革命か、それとも安定路線か
任天堂が「Switch2」と名乗るハードを出す背景には、初代Switchの成功に甘んじず、
継続的な買い替え需要と新たなエンターテインメント体験を両立させたいという明確な意図があります
。その一方で、あまりにも大胆な方向転換は「Wii U」の轍を踏むリスクを抱えるため、これまで築いてきたユーザー層を手放さない工夫が不可欠です。
このバランス感覚をどう取るかが、「Switch2」の分岐点となるでしょう。
最終的に、ゲーム機の魅力を決定づけるのはやはりソフトです。強力な自社IPに加え、インディーやサードパーティのタイトルが多彩に揃うことで、
ファミリー層からヘビーゲーマーまで幅広く楽しめるプラットフォームとなりえます
。
任天堂が「Switch2」のライフサイクルを長期的に見据え、2025年以降のソフト展開を戦略的に準備しているのは想像に難くなく、発売が近づくにつれ、大手ゲーム見本市や独自のダイレクト配信など、あらゆるチャンネルを通じてファンを興奮させる仕掛けが次々に出てくることが予想されます。
任天堂が思い描く“次の10年”は、この「Switch2」によってどのような形をとるのか。ハードの進化、ソフトの多様化、オンラインサービスの拡充、そしてキャラクタービジネスとの連動。
あらゆる要素が融合し、これまでにないスケールでエンターテインメントの未来を切り拓いていくことが期待されます。
Wii Uの不振を反面教師に
逆に、これまで以上の革新性や明確な差別化がなければ、「Switch」の延長線上で大きな伸び悩みに直面するかもしれず、高い期待があるからこそ、大きな失敗のリスクもあります。
それでも、任天堂がこれまで数々の困難や失敗を糧に、常に新しい遊びを提供し続けてきたのは周知の事実であり、特に「Switch」ではWii U期の不振を見事に挽回し、その勢いをここまで保ってきました。
「Switch2」は、そんな任天堂が時代の要請と独自の創造力をどう融合させるのかを示す“試金石”となり、今はまだベールに包まれている部分が多いですが、これから続々と明らかになるであろう新機能やキラータイトルに、ゲームファンのみならず世界中のエンターテインメント業界が注目しています。
果たして「Switch2」にはどんな運命が待っているのか、その答えは、おそらく2025年のローンチから数年かけて見えてくるため、売上に応じて任天堂の株価も大きな影響を受けることになります。
いずれにせよ、任天堂の強力IPと、ユーザー自身が世界を冒険できるゲームの魅力を最大限に活かし、革新と安定をどのように両立するのか。その挑戦こそが、任天堂がこれまで積み上げてきた「ゲームの神髄」を次世代へと引き継ぐ鍵となるでしょう。
<文/鈴木林太郎>
【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数X(旧ツイッター):@usjp_economist
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