◆2024年「この3冊」
◇<1>『脳を開けても心はなかった 正統派科学者が意識研究に走るわけ』青野由利著(築地書館)
◇<2>『心の哲学史』村田純一、渡辺恒夫編(講談社)
◇<3>『黒人理性批判』アシル・ムベンベ著(講談社)
<1>と<2>はアプローチの方法はまるで違うが、主題に共通点がある。デカルトが、物と心の存在様式の根本的差を、見事に明確化して後、心の学問的追究の現場は、専ら心理学が担い、自然科学は物の振る舞いだけを追求し、心には立ち入らないはずだったが、その科学も、現代では脳科学をはじめ、いくつかの領域が、心や意識の解明に関心を示すようになった。<1>は、まさしく現代の科学(者)が心にどう取り組もうとするかを、ジャーナリストの目で鮮やかに捉えて興味深い。
<2>はむしろ科学以外の立場でのアプローチを、研究者の立場で振り返った論集として、珍しい成果となった。
<3>は、およそ異った世界だが、カメルーン出身の著者が、自らの思想形成の状況を語った、我々にはとかく未知(無知)の領域を伝えてくれる稀有の書。

『脳を開けても心はなかった: 正統派科学者が意識研究に走るわけ』(築地書館)著者:青野由利
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『心の哲学史』(講談社)著者:村田 純一
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『黒人理性批判』(講談社)著者:アシル・ムベンベ
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【書き手】
村上 陽一郎
1936年東京生まれ。科学史家、科学哲学者。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。上智大学、東京大学先端科学技術研究センター、国際基督教大学、東京理科大学大学院、東洋英和女学院大学学長などを経て、豊田工業大学次世代文明研究センター長。著書に『科学者とは何か』『文明のなかの科学』『あらためて教養とは』『安全と安心の科学』ほか。訳書にシャルガフ『ヘラクレイトスの火』、ファイヤアーベント『知についての三つの対話』、フラー『知識人として生きる』など。編書に『伊東俊太郎著作集』『大森荘蔵著作集』など。
【初出メディア】
毎日新聞 2024年12月21日
