◆2024年「この3冊」
◇(1)『楽園の夕べ ルシア・ベルリン作品集』ルシア・ベルリン著(講談社)
◇(2)『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』古川日出男著(河出書房新社)
◇(3)『もの想う時、ものを書く』山田詠美著(中央公論新社)
<1>はどこをとっても素晴らしい、奇蹟みたいな短編集。一切の説明は排され、ただその時のその場所が浮かび上がる。色、光、匂い、感触、音や音楽、言葉の一つ一つが喚起するもの。この人の書く少女はいつも大人以上に理知的で、それはまだ男も酒もドラッグも知らないからかもしれないが、知ったあとの女たちのでてくる小説がまた、素晴らしいのだ。
<2>は読まない限り絶対に想像できない広がりと深さを持つ書物で、驚いたり笑ったり感心したりしているうちに、まんまと異世界に連れて行かれる。しかもその異世界は現実と地続き。驚愕。
<3>は山田詠美という人の、真摯さ誠実さ気高さが横溢しているエッセイ集。人を、生活を慈しむとはどういうことかがわかる。「我家のMVP」はもう最高。昭和の文士たちの魅力的な横顔がのぞけるのも貴重。

『楽園の夕べ ルシア・ベルリン作品集』(講談社)著者:ルシア・ベルリン
Amazon
|
honto
|
その他の書店

『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』(河出書房新社)著者:古川 日出男
Amazon
|
honto
|
その他の書店

『もの想う時、ものを書く-Amy's essay collection since 2000』(中央公論新社)著者:山田 詠美
Amazon
|
honto
|
その他の書店
【書き手】
江國 香織
1964年、東京生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞社主催「小さな童話」大賞を受賞。89年「409ラドクリフ」でフェミナ賞。『こうばしい日々』で91年産経児童出版文化賞、92年坪田譲治文学賞。同年『きらきらひかる』で紫式部文学賞。99年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、02年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で直木賞、07年『がらくた』で島清恋愛文学賞、10年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、12年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。「つめたいよるに」「神様のボート」「すいかの匂い」「東京タワー」「なかなか暮れない夏の夕暮れ」など著書多数。小説以外に、詩作、エッセイ、童話、海外絵本の翻訳も手がける。
【初出メディア】
毎日新聞 2024年12月14日
