J1リーグは第10節終了時点で、アビスパ福岡が暫定首位に立っている(サンフレッチェ広島とヴィッセル神戸が1試合未消化)。大方の予想を裏切る展開だろう。
昨シーズン、福岡は12位だった。これまでも、優勝候補に名前が上がるようなクラブではない。しかも、長年チームを率いてきた長谷部茂利監督が退任した。そして新たに指揮官として招聘されたのは、サガン鳥栖監督時代にパワハラ問題を起こした金明輝監督だった。一部サポーターが就任に拒否反応を示すほどで、ほとんどの関係者が10位以下に予想していた。
しかし、福岡の躍進は本当に意外なことか?
筆者はSportiva の開幕前の順位予想で、福岡を2位に入れていた。順位予想などたいした意味がないし、京都サンガやファジアーノ岡山も上位にいるわけで、今シーズンのJ1はすべてが起こり得る状態だ。今の順位は紙一重と言える。
ただ、福岡が首位に立つのには相応の根拠があったのだ。はたして、福岡の勝利の仕組みとは?
横浜F・マリノスを破り暫定首位に立ったアビスパ福岡の金明輝監督photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Images
福岡の好調の理由は、何より疑問を呈されていた金監督の存在にある。
金監督は、サッカーに対するビジョンやアイデアだけを切り取った場合、Jリーグの監督のなかで際立っている。実際に話をしてみると、サッカーの捉え方、見方は他の監督と一線を画す。昨シーズンのFC町田ゼルビアでは、コーチとして戦術面を整備していたし、ハーフタイムで確実に修正を施せる手腕は鮮やかで、相手チームの選手たちを唸らせるほどだった。
福岡は昨シーズンまでもタフでソリッドなチームだったが、金監督は「サッカーをする」という能動性を最大限に高めている。その点、チームはまったく別の代物と言える。藤本一輝、安藤智哉、見木友哉、名古新太郎、志知孝明など、補強選手も奏功している。
直近の第10節、横浜F・マリノス戦の2-1の勝利は象徴的だった。
試合の立ち上がり、左サイドで藤本がスローインから相手を背負いながらうまく入れ替わって、駆け上がってのクロス。これ自体は個の力の差が出たプレーだが、瞬間に4、5人がエリア内に入っている。シャハブ・ザヘディが相手を釣って突っ込み、できたスペースに紺野和也が入って、クロスのボールをシュート。これは相手に跳ね返されたが、セカンドボールを松岡大起が拾ってミドルで狙っている。
【他のJ1のチームにない特長】得点には至らなかったが、形に持っていけるのはポジション的優位を取れている証拠だろう。
福岡は、相手にボールを持たれても、ほとんど攻め手を与えなかった。攻めだけでなく、守ってもアドバンテージが取れていた。出どころを抑えているからこそ、パスを詰まらせることができた。安藤が積極的なチャレンジでパスカットし、前線に攻め上がるシーンもあった。
早々と先制点を奪われたものの、それはあくまで個人プレーの問題で、福岡の優勢は揺るがなかったのである。
37分には同点に追いつく。敵陣でのスローインを前嶋洋太がヘディングでカット。ポジションで先手を取る構図は、その後の一連のプレーでも続く。名古が落ち着いて落とすと、それを受けた見木がすかさず横に流す。中央でパスを受けた藤本は完全にフリーで、コントロールから狙いすまして右足でファーサイドに叩き込んだ。
そして後半36分の決勝点はひとつの集大成だった。
福岡はポジション的優位を生かす形で、まずは自陣で見木がパスカットに成功。紺野がドリブルでボールを前へ運んでスルーパスし、それを受けたナッシム・ベン・カリファが右サイドをゴールライン近くまで侵入した。相手のラインを押し下げた後、後ろの前島へ。この間、エリア内では見木がマークを外すために動き直しており、そこに前島からクロスが来て、フリーで打ち込んだ。
横浜FMのディフェンスはゾーンディフェンスなのだろうが、ただ人がいるだけだった。選手個人の能力は高いが、ことごとくポジション取りで負けており、練度の低さを物語っていた。
福岡が順位を下げることは、これから十分に考えられるだろう。戦力的に突出しているわけではない。横浜FM戦も終盤、同点にされてもおかしくはないシーンがたて続けにあった。ちょっとでも腰が引けて、それぞれの判断が悪くなり、いるべき場所にいられなくなると、途端に押し込まれる。凡庸なチームに成り下がってしまうのだ。
ただ、彼らが「サッカーをしている」のは事実だろう。チームとしての仕組みができているからこそ、各選手が持ち味を出せる。現在のJ1では、そういうチームが驚くほど少ない。
唯一の懸念は、トップに立った金監督だろう。感情量の多さが精力的な仕事につながっているだけに、そこは諸刃の剣か。しかし、彼が自分自身をコントロールできたら、そしてザヘディが実力どおりの得点力を見せられるようになったら、選手たちは能動的なサッカーで輝きを増し、昨シーズンの町田以上の旋風を巻き起こすだろう。
福岡の首位は祝福すべき一件だ。
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