結婚や出産へのプレッシャー、先行き不透明な恋愛の不安、仕事に対する焦りなど、現代女性ならではのリアルな悩みをいくつも抱えながら、明るく前向きに、ロンドンで一人暮らしをする30代前半のシングル女性。2001年にスクリーンに初登場して以来、20年以上にわたって、世界中で愛され続けてきた等身大ヒロイン、ブリジット・ジョーンズがついに帰ってきた。
【写真を見る】20年にわたる歳月を経て、ブリジットとダニエルは男女の恋愛を超えた友愛関係を築いている(『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』)
前作から9年ぶり、シリーズ第4作にして完結編となる『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』が現在公開中。本稿では、第1作から第3作まで、恋に仕事に奮闘してきたブリジットのてんやわんやの人生を振り返ると共に、最新作の見どころや、恋の相手となる男性キャラクターたちとの関係、ブリジットがこれほどまでに愛される理由について考えてみたい。
■リアリティあふれる人物像が共感を呼んだ「ブリジット・ジョーンズ」シリーズ
ブリジット・ジョーンズは、もともとは原作者ヘレン・フィールディングが、1995年にイギリスの新聞「インディペンデント」紙のコラム欄にて匿名で連載していた架空の日記の主人公。執筆当時、ブリジットと同じく、ロンドンで暮らす30代の独身女性で、過去にBBCのテレビレポーターの仕事をしていた時期もあるフィールディング自身の経験が、ブリジットのキャラクターにおおいに投影されている。そのリアリティあふれる人物像が共感を呼び、1996年に書籍化された「ブリジット・ジョーンズの日記」は世界中の言語に翻訳出版されて大ベストセラーに。1999年に続編、2013年には第3作が出版された。
小説のブリジットと同様、公開当時32歳のレネー・ゼルウィガー主演で映画化した『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)は、ブリジットの上司ダニエル・クリーヴァー役にヒュー・グラント、バツイチ弁護士のマーク・ダーシー役にコリン・ファースというタイプの異なる英国俳優2人の好演も光り、世界的大ヒットを記録。以後、『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』(04)、『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』(16)とシリーズ化され、ブリジットとファンは一緒に年を重ねてきた。
映画化作品の第1作から一貫して脚本や原案に携わってきたフィールディングだが、最新作『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』では脚本だけでなく、ゼルウィガーと共に製作総指揮も担当。これまでのシリーズのなかでも、ブリジットの生みの親、ブリジットの体現者である彼女たちの思いが最も強く込められた作品になっている。
■プレイボーイのダニエルと堅物のマーク、正反対の男性との間で揺れ動く
第1作『ブリジット・ジョーンズの日記』で初登場した時のブリジットは、ロンドンの中堅出版社に勤める32歳のシングルガール。職場の上司で遊び人のダニエルと職場恋愛を始める一方、結婚をせっつく母親からはバツイチで堅物の人権弁護士マークを紹介される。ダニエルと破局したあと、ブリジットは心機一転してテレビ業界に転職。慣れないレポーターの仕事に取り組みながら、いつしか心のなかでマークの存在が大きくなっている自分に気づく。
ドジで性格がいいヒロインは、ロマコメの定番だが、なかでもブリジットの大きな特徴は、圧倒的な“フツーっぽさ”である。役作りで体重を10kg以上増量したゼルウィガーのぽっちゃり体型は、節酒とダイエットがままならないブリジットのキャラにリアルな説得力をプラス。ブリジットの迷走、やらかしの数々も、かわいらしさより、イタさや情けなさが上回っていて、多くの女性が「彼女は私と同じ!」と強く共感した。劇中、弁護士マークの「ありのままの君が好きだ」という有名なセリフはシリーズを貫くテーマにもなっている。
■価値観の違いや些細な行き違いからマークと破局の危機に…!?
続編『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』の物語は、前作でブリジットとマークがお互いの気持ちを確認し合ったハッピーエンディングのあとからスタート。交際後に判明した価値観の違い、完璧な恋人に対する劣等感、強力なライバルの出現など、誤解や行き違いが重なった末、2人の関係は壊れかけてしまう。そんななか、ブリジットはテレビ番組の司会の仕事に転職した元カレ、ダニエルと取材旅行でタイに行くことになるのだが…。
どんなに落ち込んでも、親友たちの友情を支えに、気持ちを切り替えてがんばろうとする能天気な前向きさがブリジットのいいところ。第2作でいつもポジティブなブリジットのスタンスが光ったのは、タイで麻薬密売の疑惑をかけられ、投獄されるシーン。一生出られないかも、という悲惨な状況下でも持ち前のユーモアを発揮し、現地の女性たちとも仲良くなってしまう姿が頼もしかった。失敗も笑い飛ばし、楽観的に生きていくことの大切さを教えてくれるたくましいヒロイン像は、当時の女性にとって新たなロールモデルでもあった。
■妊娠したブリジットの父親は誰!?
第3作『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』は、フィールディング原案のオリジナルストーリー。43歳になったブリジットはいまやニュース番組の敏腕プロデューサー。結局、マークは別の女性と結婚し、現在は離婚協議中だ。ブリジットは野外ロックフェスで出会った婚活サイトの創設者ジャック(パトリック・デンプシー)、久しぶりに再会したマークとそれぞれ同時期に一夜を共にするが、後日、妊娠が発覚する。
40代になったブリジットの妊娠、出産という、小説では描かれなかったエピソードに焦点を当てた本作。本当の父親が不明でも、出産すること自体に迷いはナシ。フィールディング自身が40代で長男、長女を出産したこともあり、仕事を持つ40代の女性にとっては、もはや結婚より出産のほうが切実なテーマだと感じられる内容になっている。マークとジャック、性格的に合うのはジャックのほうだとわかっているのに、マークが忘れられないブリジット。愛が理屈や計算じゃないことを知っている、大人になった彼女の選択がうれしかった。
■最愛の人マークの死を悲しみながらも、子育てに仕事、恋愛にも前向きに奮闘する!
ブリジットとマークの幸せな結婚からおよそ10年後、最新作『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』では、なんとマークと死別し、2人の子どもを抱えるシングルマザーとなった50代のブリジットの新章が描かれる。最愛の夫が海外での人道支援活動中に命を落とすという衝撃的な展開は、2013年に発表された原作小説どおり。マークの死から4年、悲嘆の日々を過ごしてきたブリジットは、彼女を心配する親友たちに背中を押され、仕事やデートの現場への復帰など、新しい一歩を踏みだす決意をする。
本作でまず驚くのは、かつてブリジットを翻弄したプレイボーイの元カレ、ダニエルとの予想外な関係性である。ブリジットをめぐり、何度もマークと子どもじみたケンカを繰り広げていた彼が、あの色男ぶりは変わらぬまま、ブリジットの子どもたちのベビーシッターを引き受ける日が来るとは…。子どもたちも彼にすっかり懐いている様子が微笑ましい。20年にわたる歳月を経て、ダニエルと男女の恋愛を超えた友愛関係を育むことができたのは、ブリジットの気さくでさっぱりした性格によるところが大きいだろう。
そして、本作には新たな2人の男性が登場する。1人は公園で出会ったあと、アプリでつながり、ブリジットと意気投合する29歳のロクスター(レオ・ウッドール)。彼とブリジットは肉体関係を持ち、友人にも公認の恋人同士になる。20歳もの年の差カップルなのに、2人の間にどこか初々しくて爽やかな雰囲気が漂うのは、素直なブリジットのアラフィフになっても変わらぬ“少女性”ゆえ。一時の遊びではない真剣な関係の行方に注目してほしい。
2人目の男性は、ブリジットの10歳の息子ビリー(カスパー・クノプフ)の理科教師で、冷静で厳しいミスター・ウォーラカー(キウェテル・イジョフォー)。ブリジットがデート前にコンドームを爆買いしている時など、絶対に誰かと会いたくないような恥ずかしい状況に限って、いつも出くわしてしまう彼は、ブリジットとは違い、とても生真面目な性格の人物。正反対のキャラクター同士に見える2人は、少しずつお互いを知るうちに、不思議と惹かれ合っていく。
もちろん、たとえ亡くなってもマークの存在がブリジットのなかで消えることはない。悩んだ時、不安を感じた時、日常の様々な場面でブリジットの前にマークの姿が現れるたびに、彼女がどれほど彼を愛し、信頼していたかが伝わってきて、泣きそうになる。死は誰もが避けられない人生の悲哀。ロマコメの枠を超えて、大切な人を失ったことがあるすべての人の胸に沁みる物語になっているところも、本作の見どころの一つだ。
■失敗してもへこたれず、挫折した時に立ち上がるブリジットの強さに誰もが惹かれる
振り返ってみれば、モテないと嘆いていたわりに、ブリジットは実に多くの男性から深く愛されてきたキャラクターである。しかも一見平凡な彼女に対し、相手は誰もが羨む魅力的な男性ばかり。しょっちゅう、とんでもない失敗をしでかし、自堕落なところもある彼女が、なぜこんなにモテるのか。それは、ブリジットの親近感や優しさはもちろんのこと、やはり底抜けに楽観主義な彼女の人柄に、彼らがホッとするからではないだろうか。
いいところばかりをアピールする完璧な女性は疲れるが、自然体でダメダメなブリジットは一緒にいて楽しいし、心から安らげる。それに、いつも過酷な社会で気を張って生きている彼らだからこそ、失敗してもへこたれず、挫折した時に立ち上がるブリジットの強さに惹かれるのだ。幸せになるための第一歩は「いまこの時の、ありのままの自分」を認め、受け入れること。いまも昔もブリジットの生き方は、観る者に勇気を与えてくれる。
文/石塚圭子
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