有村智恵が復帰戦で感じたこと、見えたツアーの姿とは?(撮影:鈴木祥)
4月8日(火) 3:00
先週の国内女子ツアー「ヤマハレディースオープン葛城」で、出産と育児を経て2023年の「KKT杯バンテリンレディス」以来、約2年ぶりにツアー復帰を果たした有村智恵が、ひさびさのレギュラーツアーで奮闘した。
昨年4月に双子の男児出産を発表し、36歳で母親となった。今季は「PGM×ACCORDIA チャリティゴルフ」、「KURE LADY GO CUP 2025~Letʻs Move 30ʼs~」とツアー外競技に出場し、実戦感覚も養ってきた。
育児とゴルフの両立は、やはり難しかったことを振り返る。プロアマが行われた水曜日には、「ツアーに出ていた頃のコンディションを100としたら、今は10くらい」と十分な準備ができないまま迎えることに不安も感じていた。
さらに舞台は国内女子ツアーの中でも屈指の難コースといわれる葛城。月曜日から現地に入り、ラウンドを重ね入念に準備を行った。「かなりやれていると思っていて、今までとあまり変わらないかも」と手応えすら感じとっていた。
迎えた大会初日は「思ったより緊張せず、楽しくラウンドできました」と振り返る。それでも復帰初ラウンドは3オーバーの90位タイ。「思った以上のゴルフができた。パッティング以外は良かったと思います」と話したが、バーディはゼロと、グリーン上のミスに悔しさをにじませた。
ただ、2日目は一転。「何も良くなかったです。本当に最後まで手応えがなくて…」。ショット、パット、ショートゲームのすべての課題が浮き彫りになった。5日間の連続ラウンドによる体力的な負担も影響し、「体が思うように動かない場面が多かった」と唇を噛む。
待望の“初バーディ”は、2日目の15番パー5。35ヤードを残した3打目がピンに直撃するショットで“OK”につけ、それを流し込むと笑みもこぼれる。「このままバーディなしで終わるのは悔しいと思っていたので、ピンに当たってくれてうれしかった」。1つのバーディかもしれないが、ボギーを積み重ねるフラストレーションを癒す、貴重なワンプレーとなった。
2日間でトータル10オーバーの113位タイ。戦いは2日間で終わった。「出産してからは、体の感覚に鈍感になっていて、自分の疲れにも気づけなくなっているのが悩み。自分の体の鈍感さで気づけないから修正できないというのが一番の変化」とも明かす。今月から子供たちが保育園に通い始めたことで、練習時間は少しずつ確保できるようになっている。「まずはしっかり練習を積んで、試合に出られる選択肢を増やしていければ」と、次なる戦いへ前向きな姿勢ものぞかせた。
復帰戦を終え、実感したのは、体力の底上げと練習の質をさらに高める必要性。「試合では想定外のことが起こる。それを学べたのが一番の収穫です」と語るように、実戦だからこそ見えてきた課題もあった。自分の“現在地”をしっかりと受け止めながら、来週の「KKT杯バンテリンレディス」に向けて再び歩みを進めていく。
ギャラリーの声援にも心を動かされたこの2日間。「『おかえり』や『復帰おめでとう』と声をかけてもらえて、楽しい2日間でした」。それでも最後は「悔しさしかない。練習行ってきます」と、ツアー14勝を挙げる実力者は静かに闘志を燃やした。
今季は、竹田麗央ら昨年のメルセデス・ランキング上位5人のうち4人が米ツアーに参戦。国内ツアーの勢力図は大きく変化する。そんなコースを有村は、こう見ている。
「若手は本当にうまい選手が多くて、学ばせてもらうことも多い。(工藤)遥加ちゃんの優勝を見て、自分も希望を持って頑張ろうと思った選手たちがたくさんいると思うし、たくさんの30代の選手も刺激を受けたと思う」
スイングやフィジカルの完成度が高い選手が次々と台頭する一方で、32歳の工藤遥加がツアー初優勝を果たしたことで、同世代のベテラン達も大きな刺激を受けたと考えている。
奇しくも、その試合の最終日最終組に入ったのは42歳の全美貞(韓国)、39歳の藤田さいき、そして37歳の穴井詩のベテラン3人。そして穴井が優勝した。若手の勢いが加速を続けるなか、経験豊富なベテランたちも大きなチャンスを迎えるシーズンといえる。
世代交代が進む一方で、経験豊富な選手たちの活躍もまた、新たなドラマを生み出す。有村智恵という名前が、再びリーダーボードの上位を賑わせる日を、ファンはきっと心待ちにしている。(文・齊藤啓介)