【写真】「阿修羅のごとく」など数々の話題作を手掛けた森田芳光監督
深作欣二監督や森田芳光監督など、日本映画の歴史を築き上げてきた名匠たち。そんな彼らの映画に対する想いを、貴重な映像でつづる特別番組「新・監督は語る」がCS放送「衛星劇場」で2022年より放送中。本記事では、4月に放送される12人の監督の中から3人をピックアップ。各監督の作品や特徴、魅力について紹介していく。
■過激な“バイオレンス映画”を通して社会問題を訴えかける深作欣二監督
1953年に東映に入社し、1961年に監督業をスタートした深作欣二監督。やくざ映画の名プロデューサーのもと「解散式」(1967年)を撮り、「恐喝こそわが人生」(1968年)といった日本映画史に残るやくざ映画やクライムエンターテイメントを生み出した。そんな深作監督を代表する作品と言えば、「仁義なき戦い」(1973年)や「バトル・ロワイアル」(2000年)が挙げられるだろう。
週刊誌に連載されていた“広島やくざ戦争”をもとにした「仁義なき戦い」。原爆が投下された後の戦後・広島の混乱を、暴力で生き抜く男たちの群像劇として制作された。当時からいわゆる“任侠もの”と形容される作品は数多くあったが、実録路線へ舵を切ったことが功を奏し大ヒットを記録。のちに「仁義なき戦い 広島死闘篇」(1973年)や「仁義なき戦い 頂上作戦」(1974年)とシリーズ化された。
そして、“クラスメイト42人のうち最後の1人になるまで殺し合う”というセンセーショナルな題材を扱った「バトル・ロワイアル」。誰かを殺さなければ自分が殺されてしまう…というシチュエーションの中で、生徒たちはさまざまな葛藤をし、もがき苦しむ様子が描かれる。
ビートたけし、藤原竜也、山本太郎などの豪華キャスト陣が出演する本作は、先の読めない緊張感の走る演出やストーリー展開はもちろん、命について深く考えさせられるような作品に仕上がっている。
両作品をはじめ、さまざまな“バイオレンス映画”を手掛けてきた深作監督だが、各作品を通して暴力でしか解決できない人間の苦しみや虚しさがリアルに描かれており、その根底にはむしろ“暴力への批判”があるようにも思える。
ちなみに、「バトル・ロワイアル」に登場する少年少女たちは中学3年生で、深作監督が戦争を体験した年齢と同じだったそう。そのため、深作監督は過去のインタビューにて「人が死ぬ映画を真面目にやらなきゃいかんな、と思っていた時にこの原作を読んで、自分の中学3年の時の体験が思い起こされた」と語っている。本作で“暴力”の象徴ともいえる戦争の残虐さを、映画を通して伝えたかったのかもしれない。
「新・監督は語る」では、1998年に収録した深作監督へのインタビュー映像を放送。「仁義なき戦い」「蒲田行進曲」などの誕生秘話や制作秘話を明かしており、“これからの日本映画”について持論を展開する深作監督の貴重な姿も映し出される。
■「セーラー服と機関銃」などで俳優の魅力を存分に引き出してきた相米慎二監督
1980~90年代の日本映画界に新たな風を吹かせ、今なお多くのファンを魅了する相米慎二監督。1970年代から契約助監督としてそのキャリアをスタートさせ、「翔んだカップル」(1980年)で監督デビューを果たすと、その後「台風クラブ」で東京国際映画祭グランプリ、「あ、春」でベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞などを受賞し脚光を浴びた。
53歳の若さでこの世を去るまでに13本の長編映画を手掛けた相米監督だが、中でも「セーラー服と機関銃」(1981年)は彼の代表作の一つとして知られている。当時まだ幼さの残る薬師丸ひろ子を“やくざの女組長となる女子高校生”役に抜擢。暴力団相手に主人公・星泉(薬師丸)が弾丸の雨を降らせるという演出はインパクト抜群で、同シーンからは相米監督の才能やこだわりが感じ取れる。
ちなみに、相米監督作品で見出された俳優は薬師丸だけではない。「翔んだカップル」に出演した鶴見辰吾をはじめ、「台風クラブ」(1985年)の工藤夕貴、「雪の断章 -情熱-」(1985年)の斉藤由貴、「東京上空いらっしゃいませ」(1990年)の牧瀬里穂、「お引越し」(1993年)の田畑智子などの俳優陣は、相米監督作品への出演を通して役者としての魅力や株を大きく上げるきっかけとなった。
その要因の一つに、相米監督が俳優に寄り添う姿勢を見せていたことが挙げられる。とある札幌ロケでは、凍える俳優たちの姿を見て自らも裸足になり、その痛みを分かち合ったという相米監督。俳優たちと同じ目線に立って作品作りをおこなったことが、彼らの成長につながったとも言えるだろう。「雪の断章 -情熱-」に出演した斉藤も、過去のインタビューにて「私の、演技をする人間としての核になっている事は間違いない」と振り返っていた。
■多岐にわたるジャンルで才能を見せる森田芳光監督
「家族ゲーム」(1983年)や「失楽園」(1997年)、「阿修羅のごとく」(2003年)など数々の話題作を手掛けた森田芳光監督。通常の監督はヒューマンやコメディ、アクションなどそれぞれ得意分野のジャンルがあるイメージだが、森田監督の場合は多岐にわたるジャンルを手掛けてきたことでも知られている。
代表作である「家族ゲーム」は、家庭教師が受験生を鍛える姿を描くホームコメディ。また、商業映画デビュー作である「の・ようなもの」(1981年)は、若者の恋物語を軽やかに描いた青春群像劇となっている。さらに、流行語大賞にもなった大ヒット作品「失楽園」では、世間から孤立し不倫にのめり込む男女が描かれた。
特定のジャンルにこだわらず、オールマイティに名作を生み出す森田監督だが、実は各作品ではフラットな人間関係や社会問題の描写が共通して描かれている。「おいしい結婚」(1991年)では“当時の結婚観”に、「キッチン」(1989年)では“トランスジェンダー”に切り込んでいる。まだ多様化が進んでいない80~90年代という時代に、先取りした新しい題材を扱うことで、観客の興味をより一層惹きつけた唯一無二の監督とも言える。
そんな森田監督は、実は当初ディスクジョッキーを志望していたという。「新・監督は語る」では、1998年のインタビュー映像とともに、森田監督が映画作りに目覚めたきっかけや、メジャーな商業映画監督になるまでの苦労話を告白。さらに、「の・ようなもの」「家族ゲーム」「メイン・テーマ」「失楽園」など自身が手掛けてきた作品を振り返りつつ、“映画のあるべき姿”についても語っている。
なお、“歴代の名監督”の思いや魅力に迫った「新・監督は語る」の放送ラインナップとして、4月6日(日)朝8時30分から「岡本喜八」、同日朝9時から「石井隆」、同日朝9時30分から「深作欣二」、同日朝10時から「森田芳光」、同日朝10時30分から「今村昌平」、同日朝11時から「和田誠」、同日朝11時30分から「熊井啓」、同日昼12時から「相米慎二」、同日昼12時30分から「工藤栄一」、同日昼1時から「石井輝男」、11日(金)夜6時45分と23日(水)朝4時30分から「犬塚稔」、18日(金)昼12時と29日(火)夜6時15分から「田中徳三」にそれぞれフォーカスした内容を衛星劇場で放送する。
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