『ミッキー17』でポン・ジュノ監督が描いた、人間とクリーチャーの対比「美しさや威厳を宮崎駿監督作品から学んだ」

ポン・ジュノ監督流のクリーチャー論とは?「人間を写し出す鏡」/[c] 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『ミッキー17』でポン・ジュノ監督が描いた、人間とクリーチャーの対比「美しさや威厳を宮崎駿監督作品から学んだ」

4月4日(金) 8:30

非英語作品として初めてアカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』(19)から約5年。韓国の鬼才ポン・ジュノ監督の待望の最新作『ミッキー17』が日本公開された。宇宙開発が進む近未来世界を舞台に、異星での重労働に駆り出されては命を落とし、複製されては何度も同じことを繰り返す男ミッキーの、どん底からの逆襲を描いたSFエンタテインメント。格差社会の現実を背景に置き、スリルとユーモアをまぶして重厚な物語をつづるポン・ジュノの手腕が、ますます冴えわたる。
【写真を見る】『風の谷のナウシカ』王蟲のようなクリーパーが登場する、ポン・ジュノ監督最新作『ミッキー17』

ハリウッドで製作された本作は、ポン・ジュノにとって、同じくSF大作だった『スノーピアサー』(13)、Netflix映画『オクジャ/okja』(17)に続いての英語主体の作品となる。いまや韓国を越え、世界中が注目する監督となったポン・ジュノ監督を、日本公開を目前にして来日したタイミングで直撃インタビュー!本作に込めた想いを語ってくれた。

■「クリーパーが王蟲に似ていることに気づきましたが、意識的に避けようとはしませんでした」
『ミッキー17』来日中のポン・ジュノ監督に直撃インタビュー!


――あなたが宮崎駿監督を敬愛しているのは有名ですが、『ミッキー17』にも、例えば異星生物“クリーパー”のビジュアルに、『風の谷のナウシカ』の影が見られました。これを含めて、本作における宮崎監督への影響について教えてください。

「『オクジャ/okja』にも『となりのトトロ』へのオマージュを意図的に込めたシーンがありますが、今回のクリーパーの場合は当初、クロワッサンをベースにしていたんです。そこにアルマジロやダンゴムシの要素を加えたのですが、作業を進めているうちに、『風の谷のナウシカ』に登場した王蟲に似ていることに気づきました。しかし、意識的に王蟲を避けようとはしませんでした。こういうアイデアに到達できたことが私にはうれしかったんです。『もののけ姫』の動物たちもそうでしたが、宮崎監督が描くクリーチャーには存在感や美しさがあり、人間よりも威厳を持っているんです。宮崎監督の作品から学んだのは、そのような着眼点でした。『ミッキー17』のクリーパーも、同様の存在にしたかったんです」
【写真を見る】『風の谷のナウシカ』王蟲のようなクリーパーが登場する、ポン・ジュノ監督最新作『ミッキー17』


――確かに、本作に登場する人間のキャラクターは、あまり威厳がないですね。クリーパーは原作以上に重要な存在として描かれていますが、それは意図的なものだったのですね?

「そうです。なぜなら、それはこの映画の主題と結びついているからです。私の映画にクリーチャーが登場する時は、人間がとても情けなく、時には邪悪な存在のようにも思えます。言い換えれば、クリーチャーは人間を写し出す鏡のような存在ですね。例えばこの映画では、権力者が主人公ミッキーに汚れ仕事を押し付けて、彼を何度も死なせる。彼らの言い分は、それがミッキーの仕事であり、そのような契約だからということ。ほかの人々は、それによって安堵感を得ていて、ミッキーの死に対して罪の意識すら感じていません。逆にクリーパーの世界では、1匹の命を救うために全クリーパーが行動します。これは人間の世界の情けない部分と意図的に対比させています」
セリフがなくとも2役の見分けが付くパティンソンの演技を絶賛していた


――ミッキーを演じたロバート・パティンソンの、俳優としての凄みについて教えてください。この映画ではジム・キャリーの演技をヒントにしたとのことですが。

「体の使い方がとてもうまい。フィジカルな柔軟さがあり、見ていて確かにジム・キャリーや、バスター・キートンを思い出すことがありました。本作でパティンソンはミッキー17と18番目のミッキー、つまりミッキー18と、実質的には二役を演じていますが、この2人は見た目が一緒でも性格は極端に異なっています。そのため、言葉を発していなくても17と18が違う人物であるとわかる必要がありました。パティンソンの場合、肩のラインや後ろ姿、または目つきだけの演技で、観客はそれがどちらなのか見分けることができます。相当な準備をして撮影に臨まれたんだと思います」

――女性キャラクターに意外性があり、良い意味で予想を裏切っていますが、これは意図的なものですか?

「そうですね。トニ・コレットが演じたイルファのように、好ましくないキャラクターもいますが、女性キャラクターは概ね善良です。ミッキー17の恋人となるナージャは、とりわけ重要で、彼女がいなければミッキーは持ちこたえることができなかったでしょう。それともう1人、科学班のなかにドロシーという女性がいます。目立たない存在ですが、私が特に愛情を感じているキャラクターです。というのも、このコミュニティでミッキーは軽視され、あざ笑われていますが、ドロシーだけは礼儀や配慮を持って接している。そこに大きな意味がある気がします」
ミッキー17の恋人となるナージャ


■「映画を1本つくる度に、一度死んでまた生まれ変わるような感覚を抱く」
撮影監督は“光と影の魔術師”であると説明


――撮影監督のダリウス・コンジと組むのは、『オクジャ/okja』以来で2度目ですね。世界的に活躍しているカメラマンですが、彼の撮影はあなたの作品にどんな効果をあたえていますか?

「どんな撮影監督でもそうですが、“光と影の魔術師”というべきですね。ダリウスの場合は、とりわけ影に対して敏感なアンテナを持っています。何年か前に彼の家に遊びに行った時、家の中が暗くて驚きました。奥様が『暗すぎて料理もできない』と怒っているのに、ダリウスは『これでもまだ明るいほうだよ』と(笑)。もとい、本作で一つ例を挙げると、オープニングのシーンです。ミッキーが雪のクレバスの底に横たわっていて、ひと筋の光が差し込んでいるのですが、それはミッキーには当たっていない。普通であれば、主人公には正面から光を当てますが、ミッキーにはひと筋の光も差し込まない。これは彼の立ち位置をよく表していると思います。日陰の存在ということですね。ダリウスがつくる、このような構図が大好きなのです」

――ミッキーは何度も死んでは複製されますが、死という概念は監督の仕事にどんな影響をもたらしていますか?

「映画を1本つくる度に、私は一度死んで、また生まれ変わるような、そんな感覚を抱いています。とにかく精神と肉体のすべてを注ぎ込んでいるので、終わった時にはすべて出し尽くしています。そういう意味では、『ミッキー17』は私の8本目の映画ですから、いまの私は“ポン8”ですね(笑)」
ポン・ジュノ監督が思う、現在の社会状況とは?


――監督は貧富の格差を映画の背景として描き続けていますが、前作の『パラサイト 半地下の家族』の時と比べて、そんな社会の状況がどう変わってきていると感じていますか?

「格差社会について研究している学者ではないので、深く知りえているわけではありませんが、この社会で生きている一人として感じていることはあります。ニュースやそこで提示されるデータを見ていると、格差の問題はどんどん悪くなっていると肌感覚で思いますね。これはとても悲しいことです。例えば20歳になったばかりの若い方が、これから社会に出ていこうとする時、どれほどの息苦しさを感じ、また途方に暮れているのか、それについて考えることがあります。この映画のミッキーは、まさにそんな存在と言えるでしょう。善良で不憫な青年です。頼れる人もなく、損な役ばかりがまわってきて、結果的に何度も死ぬという究極の残酷な仕事に就く。しかし、そんな彼でも他者に破壊されずに生き延びようとすることに、私は大きな意味を感じています」

取材・文/相馬学

※宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記


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