森保ジャパンはバーレーン、サウジアラビアと戦い、8大会連続のW杯出場を決めている。1勝1分けで無敗を続け、森保一監督は「W杯優勝」と目標をぶち上げた。しかし、プレー内容は極めて低調だった。あちこちに不具合が出て、どこか音が外れているような感覚があった。
では、森保ジャパンの一員として戦った選手たちは所属クラブに戻り、直後の試合でどんなパフォーマンスを見せているのか?
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は、スペイン、ラ・リーガで最下位バジャドリードを相手に格の違いを見せつけている。81分までプレーし、2-1の勝利に貢献した。
久保は4-3-3の右アタッカーという定位置で、周りと連係する力を見せている。足の裏を使い、右サイドバックのアマリ・トラオレのオーバーラップを援護。タッチラインを味方にしたプレーは"形"があり、とにかくボールを取られず、周りもそれを信じて動ける。さらに単独で仕掛け、崩しで真価を発揮。混乱した敵に、レッドカードでもおかしくないタックルを食らうこともあった。
右サイドの久保は終始、モロッコ代表の新鋭左サイドバック、アダム・アズヌーを手玉に取っていた。相手は激しく守ってきたが、その勢いを利用し、体を当てて入れ替わる。複数での守備網を切り裂く推進力のあるドリブルは圧巻だったし、潜り込むようなドリブルで、PKが取られなかったのが不思議なほどの鋭い突破もあった。
バジャドリード戦に先発、勝利に貢献した久保建英 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
今回の森保ジャパンで、久保は2試合連続のMVPに選出されていた。3-4-2-1というフォーメーションのシャドーで、鎌田大地とのコンビは特に異彩を放った。何もシャドーのポジションが悪いわけではない。2トップの一角やトップ下も担当し、どのゾーンでもプレーできるのが久保の強みだ。
ただ、久保が真ん中のポジションで力を発揮するには、チーム全体で高い位置でボールを受ける回数が多かったり、時間が長いことが条件になる。ラ・レアルの1年目には、チームが左利きを多く擁し、そのなかにダビド・シルバのような天才やアレクサンダー・セルロートのようなうまさもあるFWがいて、ボールを触るたび、魔法をかけられた。
【アタッカーの力を半減させている日本代表】森保ジャパンでは、戦術の熟成がないため、右サイドアタッカーが適任なのだろう。実際にサウジアラビア戦では、久保がサイドに張った時のほうが攻撃の威力は増した。右サイドを出発点に攻撃を仕掛ける場合、"強力なパターン"を持つだけに、"個人"で問題を解決できるのだ。
率直に言って、森保ジャパンは久保のような俊敏に守備を崩し、ゴールに迫れる有力アタッカーの力を半減させている。
ブライトンの三笘薫はFAカップ準々決勝でノッティンガム・フォレストと対戦(結果はPK戦の末に敗退)し、左アタッカーとして敵陣に近づくほど怖さを見せていた。ドリブルで敵を引き寄せ、味方に絶妙なパス。フリーランニングからボールを呼び込み、あわやのシーンも作った。"騎兵"の如く機動力を生かすことで、強力な"武力"になるのだ。
一方で、三笘が自陣での守備でできる仕事は限定されていた。ディフェンスの強度は弱く、五分五分のボールを取りきれない。騎兵が馬上から降り塹壕に籠っては、持ち味を失う。守備に関しては、久保よりも成果を望めないだろう。
にもかかわらず、森保ジャパンでの三笘は左ウイングバックに配置されている。バーレーン戦ではバックラインに入ることも多く、5バックの端っこに。単発的に好プレーはあったが、平凡な出来だったのは必然だろう。右ウイングバックの堂安律もそうだが、高い位置で脅威になる選手を守備に奔走させるなど、理にかなっていない。もしW杯本大会の強豪が相手だったら、守備に回る時間が長くなるのは当然で、悲劇だろう。
また、スタッド・ランスの中村敬斗は、リーグ・アンのマルセイユ戦に5-4-1のトップでプレーしている。その技量と得点力を十全に生かすためで、いわゆる1トップよりも自由な動きで、0トップに近い。期待にこたえる形で、エリア内でボールを受けると、巧みなドリブルから見事な先制弾を決めた。また、カウンターから伊東純也が攻め上がったシーンでは、体を巧みに使ったポストでアシストを記録、3-1の勝利に貢献している。
中村はリーグ・アンで9得点を挙げているアタッカーであり、ウイングバックでの起用は奇策にも程がある。もちろん1トップではなく、サイドアタッカーとしても相手に恐怖を与えられる。サウジアラビア戦に先発したが、ボールを持つ位置は低すぎたし、何より、フォローする選手が乏しく、半分も力を生かせていなかった。
同じくスタッド・ランスの伊東も5-4-1の右アタッカーとして、爆発的走力を生かしていた。伊東は右ウイングバックの適性がない選手ではないが、やはり所属クラブでやっていないことをさせるのは論理的ではない。彼もゴール方向に矢印を向けて力を出せる選手だ。
最後にセルティックの前田大然はスコットランドリーグ、ハーツ戦に先発。1トップのポジションに入って裏に走るスプリントで圧倒し、3-0の快勝に貢献している。相手がハイラインで背後に広大なスペースがあったことが功を奏したのだろう。1トップであることは森保ジャパンのサウジアラビア戦と同じだが、サウジのように守りを固めたチームを崩すにはポストワークなどでボールを引き出し、展開する器用さも求められる。
このように、森保ジャパンから欧州の各クラブに戻ったアタッカーたちは、刮目すべきプレーを見せている。この差が何を意味するのか。謙虚に検証するべきだ。さもなければ、W杯では現実的目標であるベスト8も厳しいだろう。
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