高額療養費制度の見直し。お金のこと以上に、社会のあり方について考えよう。

高額療養費制度の見直し。お金のこと以上に、社会のあり方について考えよう。

4月1日(火) 0:30

高額療養費制度は、1ヶ月間でかかった医療費が高額に及ぶ場合、自己負担額が軽減されるものです。本記事では、高額療養費制度の見直しの本質について考えていきましょう。

公的医療保険制度の見直しの意義

図表1は、私たちがある「環境」のもとで生きていることを示すものです。安倍政権以来、わが国は「地域共生社会の実現」を目指し、現在、再分配政策が積極的に行われていますが、その一連の流れのなかで「高額療養費制度の見直し」が実施されようとしています。
 
わが国の社会保障制度は、国民皆保険です。簡単にいうと、みんなが保険に入ることで困ったときに助け合える制度といえます。医療保険制度では、所得区分に応じて自己負担の割合(1割、2割、3割)が決められています。
 
高額療養費制度は医療保険制度の枠組みのなかにあるため、所得の多い人は自己負担額も多く、所得の少ない人は自己負担額も少なくなるようになっています。こうすることで、所得の多い人から所得の少ない人への再分配が図られています。
 
図表1

図表1

※筆者作成
 
今回の見直しでは全ての所得区分が見直しの対象となっており、所得の多い人も少ない人も、それぞれ一定の割合で自己負担限度額が引き上げられるものです。
 
これに加え、70歳以上の加入者に適用される「外来特例」という仕組みも見直すことになっています。外来とは通院という意味で、70歳以上の方が通院した場合の上限額を引き上げることが、外来特例の見直しです。
 
高額療養費制度と外来特例を見直すことで、医療費の総額を削減し、また、保険加入者が納める保険料の負担を軽減することが、今回の見直しの目的になっています。このように見ると、見直しの趣旨が公的医療保険制度の維持にあり、所得の再分配を現実に即した形で行おうとしていることが分かります。
 

今回の見直しによる家計に対する影響

報道では、高額療養費制度の自己負担限度額がどれぐらい増えるのか、保険料が月額でいくら軽減されるのかなど、お金の面での話が多く語られているように思われます。
 
図表2は、政府による試算です。公的医療保険制度における自己負担限度額は、所得に応じて異なります。見方としては、自分がどの所得区分(資料では年収)に位置しているかを確認したうえで、どれぐらい負担が増えるかを認識する必要があります。
 
一方、保険料については標準報酬と呼ばれる収入のようなものを基準に計算されますが、加入者1人当たりの保険料軽減額は年間で1100~5000円程度となっています。
 
差し引きを示すのが、「実行給付率」です。保険料が少し軽減されても、自己負担限度額のほうがより増えることになるため、実効給付率が0.62%低下し、家計負担が増加することが試算により示されています。ただし、多数回該当については見直しが行われないため、この分を差し引けば実効給付率の低下は抑制されるでしょう。
 
図表2

図表2

※厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」
 

この問題の本質

このような公的医療保険制度の見直しを巡る問題の本質は、自己負担額や保険料といったお金の話ではありません。本質は、国民が社会福祉についてどのように考えるかにあります。
 
論点の基盤にあるのは基本的人権のうち、生存権の保障です。日本国憲法の第25条には、国民の権利として生存権があり、また、国家には生活保障の義務があることを定めています。これは社会保障制度の根幹にある考え方ですが、公的医療保険制度を見直すということは、国民の権利と国家の義務に関わる話であるといえます。
 
また国家が責任を取る以上、国民は「みんなで協力する」という社会的な連帯について、その枠組みをどのように維持するかについての義務を果たす必要があります。つまり、国民と国家が互いに社会福祉制度(社会保障制度)について、その全貌を俯瞰したうえで決めることが必要になります。
 
制度の詳細について、完全に理解することは難しいでしょう。しかし、私たち国民はこの国で生きる人間として、また、これから育っていく子どもたちのことも考慮し、真剣に議論する必要があるのではないでしょうか。
 
一言でいえば、この国が持続するために、どのような国家を目指すのかです。自助の精神を重視するのか、社会福祉を充実させるのかが、問題の本質として問われています。
 

まとめ

高額療養費制度の見直しは、公的医療保険制度を持続させるための必要な調整ともいえますが、家計にとっては自己負担の増加につながる面もあります。私たち国民一人ひとりが、この制度の意義や再分配のあり方について理解を深めることが、よりよい社会保障の未来を考える第一歩となるでしょう。
 

出典

厚生労働省 高額療養費制度の見直しについて
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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