古巣のヴィッセルに復帰した森岡亮太が引退を決断したわけ「サッカーが楽しい」という感覚が蘇ってこなかった

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古巣のヴィッセルに復帰した森岡亮太が引退を決断したわけ「サッカーが楽しい」という感覚が蘇ってこなかった

3月31日(月) 2:05

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森岡亮太インタビュー(前編)

引退を決断した理由について語る森岡亮太写真提供/@株式会社44

引退を決断した理由について語る森岡亮太写真提供/@株式会社44



2010年にプロキャリアをスタートして15年。ヴィッセル神戸の森岡亮太が現役生活にピリオドを打ち、スパイクを脱ぐ。

「子どもの頃に描いた夢は叶えられなかったけど、引退を決めた時に『よう頑張ったな』って思えたってことは、いいサッカー人生やったんかなって思う」

どんな時も、常に夢から逆算して何をすべきかを考え「その時々の最大値を求めて戦い抜いた」という思いがあるからだろう。清々しいほどに「悔いはない」と言い切った。

◆ ◆◆

実のところ『引退』の文字が頭に浮かんだのは、今回が二度目だという。一度目はベルギー・シャルルロワSCでの6シーズン目となる2023-2024シーズン。30歳前後からケガに悩まされてきたなかで、「今の自分にもう夢は追いかけられない」という現実に直面した時だ。

「子どもの頃からの僕の夢、目標は、FCバルセロナでプレーすることでした。高校生の時に繰り返しバルサの試合を観て、あんなふうに観ている人をワクワクさせるサッカーをしたい、自分も彼らと一緒にプレーしたい、と思ったのがきっかけです。

プロになったばかりの頃は『その夢の設定は高すぎる』と言われたこともあったけど、ずっと一番高い目標から逆算して、自分は何をすべきかを考えてきたし、僕にとっては目標を下げるイコール今、自分がすべきことの目標も下げるってことなので。揺らぎなく『いつかバルサに入る』と描き続けてキャリアを進めてきました。

でも近年は、ケガが続いて思うようなプレーもできず、試合への出場機会も減っていたなかで、その一番のモチベーションにしてきた目標が完全に消えたというか。それによって、自分は何のためにサッカーをしてるんやろう?って思うようになり、それなら辞めたほうがいいんじゃないかと考えることが増えました」

それでも、いったんはその2文字を頭からぬぐいさったという。本来のコンディションさえ取り戻せれば、新たなモチベーションでサッカーに向き合えるんじゃないかと思ったからだ。それがプロキャリアをスタートさせた古巣でのプレーとなれば、ここからまたギアを上げられるかもしれないという期待もあった。

「体がよくなった状態で、ここから自分が何をできるかを見たくなったというか。夢はもう実現できないけど、自分のキャリアという大きな枠で考えた時に、育ててもらったヴィッセルという特別な思い入れがあるチームでプレーすれば、別のモチベーションが湧いてくるんじゃないかと思い、帰国を決めました。

僕がかつて在籍した2010年~2015年と、J1でのリーグ優勝も実現した今のヴィッセルが大きく様変わりしているのは覚悟していましたが、そのヴィッセルにどうすれば貢献できるかを考えてプレーすることが、自分を蘇らせるきっかけになるかもしれないと思っていました」

そうして2024年8月、森岡は8年半ぶりにヴィッセルのユニフォームに身を包む。もっともシーズン途中の加入で、彼自身もまずはコンディションの回復が最優先となったからだろう。すぐに出場機会をつかむことはできなかったが、AFCチャンピオンズリーグ・エリートや天皇杯でメンバー入りを続けると、加入から約1カ月後の天皇杯準々決勝、鹿島アントラーズ戦では先発出場を飾る。

しかも、前半15分にはクロスボールに右足で合わせ、ゴールネットを揺らす。かつてはヴィッセルの10番を背負い、ファンタジスタと愛された男のホーム、ノエビアスタジアム神戸での復帰後初ゴールにスタンドは沸いた。

「ヴィッセルに復帰してすぐの時も、サポーターの皆さんに懐かしの僕のチャントを歌ってもらってすごくうれしかったけど、鹿島戦もウォーミングアップの時から自分のチャントが聞こえてきて......めちゃ感慨深かったです。

チームとしてはイメージどおりに試合を運べたし、勝てたけど、正直、僕のパフォーマンスはよくなかったとは思います。でも、これまで感じてきた応援の心強さとは違う種類の......応援のパワーで点を取らせてもらった。そんな感覚になれたのは15年のキャリアで初めてで、めっちゃ幸せでした」

ただ、その感覚を味わってでさえも、自身に新たなモチベーションが湧いてくるのは感じられなかったという。これは、ヴィッセルに復帰してからも、ケガに苦しめられたのが大きな理由だ。ヨーロッパで患った神経系のケガは完治したが、その一方で、アクシデント的に腓骨を痛めたり、他の箇所に痛みを感じるといった状況が続き、ストレスフリーでサッカーができる状態をなかなか見出せなかった。

「プレーしていても、昔のようにワクワクした気持ちでサッカーをすることも、観ている人を楽しませるプレーもできなかったというか。実際、自分のイメージするプレーと体とのギャップとか、感覚的なズレも大きかったし、以前のように『ああ、楽しかった!』で終わる日は1日もなかったです。

サッカーが楽しいというよりは、毎日が綱渡りで『ああ、今日もケガなく練習を終われてよかった』とか『今日は痛みなくこういういいプレーができてよかった』とホッとして終わる、みたいな。自分にとってのポジティブな感覚のマックスの状態が、楽しいではなく"安堵感"でしかなくなっていました」

それでも、かつてとは大きく様変わりしたチームがたくましく上位を争う姿や、近い世代の大迫勇也や武藤嘉紀、酒井高徳や山口蛍らが先頭に立ってチームを牽引する姿を刺激にしながら、なんとか状況を覆そうと戦いを続けたが、シーズンが終盤に差し掛かっても、自身のなかに「サッカーが楽しい」という感覚が蘇ってこない。天皇杯優勝とJ1リーグ制覇という森岡にとってはキャリアで初の"タイトル"を味わっても、その喜びはすぐに自分への不甲斐なさで打ち消された。

ゆえに、シーズンが終わったあとは自らチームを去ることを決めたという。クラブからは延長のオファーを受け取っていたが、それを受け入れるのはクラブのためにも、自分のためにもならないと考えた。

「古巣に戻っての半年、個人的にはいろんな葛藤もありながら、ヴィッセルの大きな成長、変化を感じ取りながらプレーできて本当に幸せでした。でも、自分のパフォーマンスを振り返った時に、ピッチに立った時間や監督からの信頼を考えると、オファーはあくまでクラブレジェンドとしてのもので、戦力として評価されたものではないのかな、と。

強化の方に直接そう言われたわけではないけど、僕自身はそう感じたからこそ、チームに残るのはヴィッセルのためにも、自分のためにもならない、と思いました。ただ、だからといってすぐに引退だ、という思考にはならなかったこともあり、他の可能性を探ってみることにしました」

そのなかでは、J2のジュビロ磐田への練習参加をきっかけに、いくつかのJ2、J3のクラブから声がかかったと聞く。だが、結果的には磐田への練習参加も契約にはつながらず、かつ、自身もその現状に向き合うなかで、気持ちが徐々に『引退』へと傾いていく。というより、磐田加入の可能性がなくなって、あらためて自身と向き合った際に、見ないようにしてきた"本心"をようやく直視できた。

「ジュビロへの練習参加のあと、他のクラブから声を掛けてもらっても、なぜか自分の気持ちが全然動かなくて。それがなぜなのか、もう一度自分と向き合った時に『ああ、俺は、引退を見ないようにしているだけかもな』と気がついた。

現役続行の可能性を模索するために『引退』に毛布をかけているような感じというか。表現が難しいけど、小さい頃から夢を追いかけて、戦い続けてきた自分がこういう形で現役生活を終わらせようとしていることに責任を持ちたくなくて、見ないようにしているんやと思い至った。

その時に『今の俺はもう、サッカーが好きじゃない』『サッカーを楽しめてない』という事実を、本当の意味で受け入れられたというか。これまで、サッカーが好きで、プレーするのが楽しくて、その姿を観ている人に楽しんでほしい一心で続けてきたのに、今の自分の気持ちはどれにも当てはまらない、と。そんなふうに自分が一番大事にしてきたサッカーへの想いがなくなったのなら、現役を続けるべきじゃない、引退やと思いました。

それを受け入れたら、なんかモヤがかかっていた気持ちがパッーと晴れるのを感じたというか。子どもの頃からエリートでもなかった自分がこうしてプロになれて、日本代表にも選ばれて、ヨーロッパでも長い期間プレーできたことについて、出来すぎなくらい、いいサッカー人生やったなって素直に思えました」

だから、引退だった。

(つづく)◆「バルサでプレーしたい」という夢を追い続けた森岡亮太、サッカー人生における転機>>

森岡亮太(もりおか・りょうた)

1991年4月12日生まれ。京都府出身。久御山高卒業後、ヴィッセル神戸に入団。1年目の2010シーズン、10月にプロデビューを果たす。チームがJ2に降格した2013シーズンから10番を背負う。以降、チームの司令塔として活躍。J1 に復帰した2014シーズンには初めて日本代表にも招集された。2016年にポーランドのシロンスク・ヴロツワフに完全移籍。その後、ベルギーのワースラント=ベフェレン、アンデルレヒト、シャルルロワSCでプレーし、2024シーズン途中に古巣のヴィッセルに復帰。2025年3月、現役引退を発表した。

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