コメ価格が高騰するなか、政府はついに備蓄米の放出を決定した。それでも価格が下がるのは数カ月後になりそうだ。ギリギリの生活を送る貧困家庭の苦境から高騰の要因まで、パニックになった日本列島を取材した!
外国産米に変更し、牛・豚も減少
大幅に上がったコメの価格。現在、店頭では5㎏が税込みで4000円台にまで値上がりする異常事態となっている。
昨年の夏に続き、現在「米騒動2.0」とも言われているが、市井の民は翻弄されるばかりだ。
都内に住む斉藤薫さん(仮名・48歳)は、近所のスーパーが新しく取り扱いを始めた5㎏2990円の台湾米をやむなく、手に取ったという。
「中2と小6の2人息子は食べ盛り。夕食に5合炊いても残らないことがあります。肉も野菜も値上がりしているし、これから教育費もかかるので、少しでも節約したくて」
斉藤家の世帯年収は約700万円。いわば中流家庭だが、この米価の高騰で献立は牛・豚のメニューが減り、鶏肉が増えたと話す。
「台湾米は国産米に比べると甘みが少なくあっさり。食感も軟らかめ。もっちりと甘い感じがありません。子どもはおいしいと言っていますが、夫は国産米が食べたいと言ってますよ」
麺に替えたり、サツマイモを混ぜる人も
困窮世帯はさらに悩ましい状態に陥っていることは言うまでもない。世帯年収が300万円台だと言う、埼玉県在住の母・田中詩さん(仮名・35歳)は次のように話す。
「コメは高いので、3食100円の麺で焼きそばを作ることが増えましたね。肉と魚は高いのでほぼ買いません。夫が飲食店で副業をしているので、たまに余ったご飯を持って帰ってきてくれますが、子どもにあげちゃうので、私はほぼ麺が中心になりました」
泣く泣く主食をコメから麺や芋に替えるケースは少なくない。中井遥香さん(仮名・39歳)の世帯年収は約380万円。千葉県で子ども2人と4人暮らしだ。
「以前は週に5~6日炊飯していましたが、最近は週2~3日に減りました。コメにサツマイモを混ぜて炊くこともあります。野菜類は親戚の農家からもらっていて、なんとかやっていけてます」
中井さんは最近、フリマアプリで5㎏2800円のブレンド米を買ってみたが、大失敗したと言う。
「虫食いがあったり、欠けや変色しているコメもあった。明らかに市場に出回らない品質でした。でも、背に腹は代えられないですよね。チャーハンやピラフにしてなんとか食べました」
遭遇した孤独死の共通点は「冷蔵庫に食べ物が皆無」
シングルマザーはさらに厳しい状況だ。中学生から保育園児まで5人の子どもを育てる四国在住の久田奈美さん(仮名・32歳)の手取りは約180万円。
昼は便利屋に勤め、夜は運転代行をやって生計を立てている。これまで1か月で40㎏のコメを消費していたが、現在は買えなくなり、25~30㎏に抑えている。
「物価高に支払いが追いつかず、今月ついに電気が止まりました。子ども食堂の利用を増やしたり、うどんや焼きそばを多用したりしてなんとかしのいでいます。肉類は高くて買えないので、安い冷凍ハンバーグを砕いてひき肉にして使っています。この状況が続くのは絶望しかないです」
近年、困窮世帯のための食料支援として、フードバンクや子ども食堂が普及しているが、ここでもコメ不足が顕著だ。神奈川県秦野市に3つの拠点を持つ「フードバンクはだの」の担当者は言う。
「いつも毎月150~300㎏のコメを用意していますが、2月は10日時点でわずか30㎏しかなく、在庫も切れそう。これまではコメはあるけどおかずが買えない人が多かったのですが、今はコメを調達しに来る人が増えました」
利用者は学生、シングルマザー、年金受給者が多いという。食材やガソリン、光熱費の高騰に加え、米価が上がったことでトドメを刺された感があると言う。
「この4年間で3件の孤独死に遭遇しました。共通していたのは、冷蔵庫に食べ物がまったくないこと。国が思い切った対策をしなければ、現状を変えられません」
特盛りを提供する学生街の食堂は
昨年夏の米騒動ではあまり影響を受けなかった業務用のコメにも異変が。都内の飲食店「讃岐のおうどん花は咲く」の店主・高木さんは話す。
「昨夏まで10㎏3500円で仕入れていたコメが今は5200円に。他食材の値段も上がり、月の支払いが10万~20万円も増えました。770円の天丼をやむなく850円にしたけど、それでも税理士から、『原価率をもう少し下げられませんか?』と経営を心配されるほど。品質は落としたくないから、ギリギリのところでやっています」
一方、早稲田大学の学生らが多く訪れる三品食堂は、米価の高騰により定番の牛めしを20円値上げし、660円にした。店主の北上さんが言う。
「コロナ禍以降、物価がおかしくなっちゃっているよね。肉や卵、野菜に加えてコメまで上がった。仕方なくここ3年で3回も値上げした。こんなのは60年で初めてだよ。それでも値上げが追いつかず、赤字ギリギリ。客は学生なので量を減らすわけにはいかない。牛めしの並でコメは200g、特大は600gくらい使う。コメの量は3倍だけど、値段は3倍にできないでしょ。今は我慢して、コメ価格が安定するのを待つしかないよ」
人々を苦しめる令和の米騒動は、いったいいつになったら落ち着くのか。
【東京都区部の消費者物価指数】
•コメ:166.3
•パン:124
•麺類:121
※’20年を100とした場合、’24年末時点
取材・文・撮影/週刊SPA!編集部写真/時事通信社
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