2025年度の早大の柱となる山口智規(右)と「山の名探偵」工藤慎作photo by Wada Satoshi
前編:箱根駅伝制覇を狙う早大が実施する「クラファン」の意図
今年の箱根駅伝で総合4位に入り、4月には有力な新入生が入学予定の早稲田大学が2011年以来の箱根制覇に向け、2年ぶりにクラウドファウンディング(オンライン上で行なう資金調達方法。略してクラファン)を実施。予想を上回る反応で大きな注目を集めている。
早大競走部の花田勝彦駅伝監督は、自身の現役時代の経験をもとに、三大駅伝で結果を出すためのチームづくりを行なっているが、クラファンを実施した意図と狙いは何なのか?
【2年ぶり2度目のクラファンも予想を上回る反応】2023年2月から3月にかけて「箱根の頂点へ。そして世界へ。早稲田大学競走部駅伝強化プロジェクト」というクラウドファンディングが実施された。早大は学生駅伝三冠を成し遂げた2010-11年シーズンを最後に箱根駅伝などの学生駅伝の優勝から遠ざかっている。このプロジェクトは、その名のとおり、再び頂点を目指して駅伝に特化した"個"の強化を図ることを名目としたものだ。
「どれぐらいの方が支援してくださるか、わからないなかでスタートした」
当時、就任1年目だった花田勝彦駅伝監督は、こう振り返る。
だが、そんな心配をよそに、初日に第一目標の500万円、10日目にして第二目標の1000万円に到達と予想を大きく上回るペースで寄付金が集まった。最終的には649人もの寄付者から第三目標の2000万円を超える2025万円が集まった。
そして今年2月、その第二弾がスタートした。
「1000万円でだいたい1年分と思っていたので、要するに2年分の支援をいただきました。2年経ったので(第一弾で)いただいたものもだいぶ使いきったので、あらためて実施しました」
2年前と同じように即日で第一目標を突破すると、4日目には第二目標金額に到達。第一弾を上回る勢いで寄付金が集まっている。
チームへの期待度の高さの表われでもあるが、クラウドファンディングの成功事例として、世間の関心も高いようだ。また、ファンがチームを応援する新しい方法としても注目を集めている。
このクラウドファンディングを実施するにあたって、花田が学生だった頃の経験がベースにあった。
花田は学生時代、同期の武井隆次、櫛部静二(現・城西大監督)とともに"三羽ガラス"と呼ばれ、臙脂の主力の一角を担っていた。さらに2学年下には渡辺康幸(現・住友電工監督)がいて、圧倒的なエース力を誇った早大は1993年の第69回箱根駅伝で総合優勝を果たした。
「私たち4人が群を抜く強さを身につけられた理由は、当時コーチだった瀬古利彦さんが、まだ実績がなく成長段階にあった私たちを海外遠征に連れていってくださったからです」
花田は当時をこう振り返る。
その海外遠征の効果が最もてきめんに表われたのが、まさに花田だった。下級生の頃は武井や櫛部の活躍に比すると遅れをとっていたが、ヨーロッパ遠征を経験し、4年時に飛躍を遂げた。そして、のちにはオリンピックに2度も出場するほど、日本のトップランナーへと駆け上がっていった。
【クラファンの目的は駅伝に特化した"個"の強化】
自身の現役時代の経験から「個の強化」にアプローチした花田駅伝監督photo by Wada Satoshi
そんな自身の体験があって、2022年6月に駅伝監督に就任した花田は、箱根駅伝で再び頂点に立つには、突出した"個"の育成が必要と考えた。
しかし、そのために海外遠征や国内外で強化合宿を行なうには金銭的な面が壁となった。もちろん大学から部に割り当てられる予算はあるが、競走部には一般種目を含めると男女合わせて120人を超える部員がおり、そこから駅伝に特化した"個"を強化するための予算を確保することは難しかった。
「私が学生だった当時は、企業からバックアップいただいたりしていましたけど、今はそれがないので、どこかから支援をいただくしかなかった」
そこで花田監督が目をつけたのがクラウドファンディングという活動資金を募る手段だった。
「慶應がチームの強化でクラウドファンディングをやっていたので、早慶のつながりで話を聞いたり、筑波もずっとやっていたので当時の監督だった弘山さん(勉、現・スターツ監督)に話を聞いたりしました」
クラウドファンディングサービスを提供するREADYFOR株式会社と早稲田大学が包括提携したこともあり、花田が発起人となり、その第一号として2023年2月に第一弾のクラウドファンディングが実現した。
寄付金による税控除を受けられるようにしたことも、ハードルを低くした要因だっただろう。
こうして、先に書いた通り、花田の想像を上回る金額が集まった。
その資金をもとに、その年の秋には山口智規(4月から4年)、伊藤大志(同NTT西日本)、石塚陽士(同ロジスティード)の3人がチェコ・プラハに遠征。また、佐藤航希(現・旭化成)がコペンハーゲンに遠征し(延岡西日本マラソンの副賞の海外遠征費用の補充に)、伊藤はニューヨークシティーハーフマラソンに出場した(山口智規は上尾シティハーフ2位の副賞で同大会に参加)。
海外遠征を経験して、ひと皮むけた活躍を見せたのが山口だった。2023年度は上尾シティハーフマラソンで早大記録(当時)を打ち立てると、箱根駅伝でも2区の早大記録を樹立し、エースとして活躍。さらに、日本選手権クロスカントリーではシニア10kmで優勝し、世界クロスカントリー選手権の日本代表に選出されるなど、一躍日本のトップランナーへと駆け上がっていった。
つづく
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