『片思い世界』の大胆な設定と驚きの展開、俳優4人の魅せる演技、坂元裕二×土井裕泰監督ワールドの凝縮…映画人たちがネタバレなしでレビュー!

“片思い”に込められた意図とは…。映画ファンも気になる『片思い世界』をネタバレなしでクロスレビュー/[c]2025『片思い世界』製作委員会

『片思い世界』の大胆な設定と驚きの展開、俳優4人の魅せる演技、坂元裕二×土井裕泰監督ワールドの凝縮…映画人たちがネタバレなしでレビュー!

3月28日(金) 10:30

広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務め、横浜流星が出演する『片思い世界』が4月4日(金)公開となる。本作は、『花束みたいな恋をした』(21)の土井裕泰監督と脚本家の坂元裕二が再タッグを果たした注目の最新作。「これだけは残しておきたいお話があるんです。心を込めて、人が人を思う時の美しさを描きたいと思います。まぶしすぎて目を逸らしたくなるけど、やさしい風に包まれたような、そんな映画にしたいと思います」とコメントを寄せる坂元が新たに書き下ろした本作は、登場人物それぞれが抱える、届きそうで届かない“片思い”の模様を描いたストーリーだ。
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現代の東京の片隅で、古い一軒家で一緒に暮らす美咲(広瀬)、優花(杉咲)、さくら(清原)。仕事や学校、バイトに行ったり、家族でも同級生でもないけれど、お互いを思い合いながら他愛のないおしゃべりをする、楽しく気ままな3人だけの日々を過ごしている。もう12年、強い絆で結ばれているそんな彼女たちの、誰にも言えない“究極の片思い”とは?
本稿では「ストーリーと“片思い“というテーマについて」「キャスト4人が魅せる演技」「脚本家・坂元裕二×監督・土井裕泰の再タッグ」という3つの切り口から、『片思い世界』の魅力をクロスレビューでひも解いていく。

楽しく気ままな3人暮らしを送る、美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)

■大事なことを改めて教えてくれる普遍的な物語…大胆な設定と驚きのストーリー(ライター・石塚圭子)

『片思い世界』というタイトルと、3人の女の子のかわいらしいビジュアル。きっと三者三様のせつなくて、甘酸っぱい片思いラブストーリーが繰り広げられる作品なんだろうなぁと思いながら観ていると、徐々に明らかになる、想像の斜め上をいく大胆な設定と驚きの展開。え?片思いって…そういう意味!?

一見、従来のイメージに近い片思いをしているのは、3人の中で一番年上の美咲である。通勤バスの中で会う、寝グセ頭がトレードマークの気になる彼。優花とさくらに、告白すべきだと言われても、美咲は思いを胸に秘めたまま、ただ静かに彼を見つめている。そして、そんな美咲の片思いの背景には、傍目からはうかがい知れない物語があることが分かる。

誰も観たことのない、究極の“片思い”とは…

優花もさくらも、片思いの感情を抱えながら生きているという点では美咲と同じだ。本作の片思いは、いわゆる恋愛感情だけじゃない。友達や家族を大好きだと思う気持ち、一緒にいたいと思う気持ち、心配する気持ち、応援する気持ち…さらに悲しみや憎しみ、後悔、嫉妬といった感情も含めて、本作には誰かが誰かを思う光と影の様々な気持ちが、いろんな形で描かれていて、そのどれもが胸を打つ。

誰だって、相手の存在が大きければ大きいほど、自分の思いを簡単には伝えられない。だからこそ、最初はあきらめていた彼女たちが、なんとか思いを伝えようと奮闘する健気な姿に勇気をもらえる人は多いはず。そして終盤、3人が大切な人たちの“本当の気持ち”に気づいていく数々のシーンには思わず涙がこぼれてしまう。

個性豊かな3人の等身大の魅力があふれている

もう一つ、本作でとても魅力的だったポイントは、12年前のとある出来事をきっかけに、長年一緒に暮らしてきた女子3人の同居生活の丁寧な描写である。住居はかつて画家が住んでいたというノスタルジックな雰囲気の一軒家。アットホームで居心地のよさそうなリビングの柱には3人が背比べをした印があり、本棚やぬいぐるみなど、インテリアのあちこちにそれぞれの個性や趣味が反映されているのが楽しい。手作りのバースデーケーキ、朝のお弁当の支度、丸テーブルの食卓を囲んだ夕ごはんなど食事シーンも多く、日々の暮らしや食べることを大切にする3人からは、前向きに生きようとする力が伝わってくる。

迷いながらも、誰かを思い続けることを止めない3人

互いを思いやり、何気ない日常を楽しむという姿勢が、人生を支えてくれること。どんな運命も受け入れる強さと柔軟さを持つこと。たとえ、言葉にできなくても、誰かを思う気持ちそのものに価値があること。たくさんの大事なことを改めて教えてくれる普遍的な物語だ。

■「役を生きる」俳優陣による気づかせない名演にぜひ目を向けて…4人のキャストが魅せる確かな演技力(物書き・SYO)

国民的俳優としてトップを牽引する3人がトリプル主演を務める

劇映画を観るとき、我々観客は作り手と共犯関係を結ぶ。「嘘を信じる」という点において。現実とは異なる“物語”の世界が広がり、俳優が自身とは違う別人を演じる。観客はその虚構を受け入れ、自身の生の感情を委ねて作品を享受する。出し手と受け手、両者の結託がなければ成立しえないからこそ、肝要になってくるのは説得力だ。俳優を作品世界の中に生きる一個人として錯覚してしまうほどの真実味、嘘が嘘でなくなる瞬間。俗にいう演技力を期待しながら、我々はスクリーンと向き合うものだ。

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その意味で、『片思い世界』は相当な難題がキャストに課せられた作品だ。広瀬すず、杉咲花、清原果耶、そして横浜流星。言わずと知れた人気俳優陣であり、観客を「気づけば涙が流れている」一種の反射状態にまでいざなう表現者たちだからこそなせる業。その一つが、年月の創出。本作は「12年もの間、支え合って暮らしてきた女性たち」「12年間、ある想いを抱え続けた青年」の物語。ただ、その過程が冒頭から懇切丁寧に示されるわけではない。我々はその“前提”を各々の芝居から推し量るのだ。広瀬、杉咲、清原が醸すグルーヴ感や距離感に登場人物たちが歩んできた“描かれない時間”を想像し、横浜が全身に漂わせる憂いを頼りに、物語に寄り添っていく。逆に言えば、4人の芝居に年輪が伴わなければ嘘の割合が大きくなり薄っぺらくなってしまっただろうが、まるでノイズを感じさせない四重奏で魅せきり、物語上も重要な意味を持つ「歳月」を立ち上げている。
本作でピアノに初挑戦。高杉典真役を熱演する横浜流星


そして、本音の匂わせ。和気あいあいとしたシーンの中にもひとさじの異なる感情を混ぜ込んでおり、後からもう一度見るとわかる仕掛けを芝居ですべて請け負っている。表面上伝わってくる感情の奥に、もう一つの真実を隠した二段構えの構造になっており、感度の高い観客に「あれ?今の一瞬の表情はどういうことだろう」「何か引っかかる間があったな」と微かな違和感を抱かせながらも、実はそれらすべてが作劇上のピースだった、という非常に高度な配分、出力をやってのけているのだ。独特のリアリティラインが引かれた本作の中で冒頭からスムーズに観客を没入させ、後半への布石も丁寧に配置していくのは、相当ハイレベルなミッションだったことだろう。物語はやがて全貌を表し、各々の秘めた片思い先が明かされ、涙がとめどなく流れる、隠していた想いが疾走する、伝えたかった言葉が溢れる、見事な演奏を披露する等のエモーショナルな見せ場へとなだれ込んでいく。そうした“サビ”にたどり着いたとき我々が素直に心を震わせられるのは、冒頭から密やかかつ細やかに行われ続けた、4人の俳優陣による緻密で真摯な地ならしゆえ。文字通り「役を生きる」面々だから成し遂げられた、気づかせない名演にぜひ目を向けていただきたい。

■驚くほどフレッシュな作品…坂元裕二×土井裕泰監督ワールドが凝縮(MOVIE WALKER PRESS編集長・下田桃子)

坂元裕二が新たに書き下ろした本作は、坂元節をたっぷり堪能できる

日々の営みを見つめること。“届かない声“を聴くこと。『片思い世界』は坂元裕二の脚本×土井裕泰監督の演出が凝縮された、それでいて驚くほどフレッシュな作品だった。観ているこちらはつい坂元裕二“らしさ”を集めたくなるが、「静かな日常を描くものではなく、世界に抗う物語でなければいけない」(『片思い世界』公式プレスより)と口にする坂元が同じ場所にとどまっていないのは明らかで、それってファン冥利に尽きる。

2人のタッグは『花束みたいな恋をした』で映画ファンにも広く知られたが、『片思い世界』同様に同居生活ものである「カルテット」も忘れてはならない。坂元に企画をもちかけ、傑作ドラマに仕上げたチーフプロデュース・演出の土井裕泰の功績だ。

松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平が本音と嘘を延々としゃべる、幸せな時間だった。冬の軽井沢が舞台の弦楽四重奏という設定もあいまって、浮世離れした魅力もあった。坂元自身、「こんなスーパーな4人がそろっているのに、所帯じみた話を書きたくない」と思った、と語っている(「脚本家 坂元裕二」ギャンビット刊より)。
坂元裕二が歌詞を書き下ろした劇中歌「声は風」にも注目

『片思い世界』に集ったのは広瀬すず、杉咲花、清原果耶。それこそ坂元は「こんなスーパーな3人がそろうなら…」と思ったはずだ。トイレのスリッパを間違えて履き怒られる。お弁当をいつ食べるかで小競り合いをする。表情がくるくる変わる3人のやり取りを見ているだけで、スクリーンに多幸感がにじむ。

美術や衣装はどこを切り取ってもかわいい。ちょっとかわいすぎるくらいだ。12年もの間、特別な絆でつながってきた彼女たちの同居生活は、世界の端っこで夢を見ているような尊さがある。その繊細な演出は、本作の驚くべき設定に効いている。『花束みたいな恋をした』で麦と絹が同棲する部屋然り、細部まで気を配られた“家“そのものが土井監督の演出だ。坂元×土井作品は、登場人物が家の中にいるシーンこそ楽しい、とも言える。
“片思い”に込められた意図とは…。映画ファンも気になる『片思い世界』をネタバレなしでクロスレビュー


もう一つ、本作を貫くのは「“届かない声“を聴くこと」。坂元作品の登場人物は、社会や環境、あるいは相手との関係性から、本心を届けられずにいることが多い。美咲たちもまさに“片思い“状態だし、「私たち、ありえないって言われないといけない存在なの?」「でたらめだったら傷つくかもしれない」と口にする。そんな彼女たちの声に耳をそばだて、すくい上げる、坂元裕二の物語を堪能してほしい。

構成/編集部


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