「油を6回使い回す学校も…」現役学校栄養士が語る、“給食費無償化”の裏側で起きていること

学校栄養士・松丸 奨氏

「油を6回使い回す学校も…」現役学校栄養士が語る、“給食費無償化”の裏側で起きていること

3月28日(金) 6:53

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全国的に急拡大する給食費無償化政策。いまやわざわざ無償化地域に移り住むファミリーもいるほど。タダで嬉しいはずなのに子供や親からはなぜか不満の声も出ている。“無償化ブーム”がもたらす負の側面とは?

現役学校栄養士が語る「想像以上の物価高」

給食費無償化によって、学校給食の現場にはどんな変化が起きているのか。東京都文京区で学校栄養士を務める松丸奨氏は、「物価高の影響で給食の質を維持するのが厳しくなっている」と話す。

「学校給食は作る量が多いので、一人につき10円でも給食費を値上げできたら大きく質を改善できる。ただし、無償化された自治体の場合、年度予算の決定後に現場から予算増の要望を出しても、調整するのが難しい。つまり、急速な物価高に柔軟に対応できないということです。そうして給食費予算が限られる中で、現場ではおかずの品数を減らす、魚のサイズを小さくする、豚汁をすまし汁に変更するなど苦労を強いられているのが現状です」

食材費の切り詰めは、生徒たちにも影響があるという。

「ある学校では米高騰の影響を受けて、ブランド米からブレンド米にグレードを下げたところ、生徒から『ご飯のニオイが気になる』と食残が増えてしまったそう。ほかにも、無償化前は3回ぐらいで廃油にしていましたが、現在は節約するために調理法を変えて6回ぐらい使い回している学校もある。油の酸化度は基準値内だったとしても、おいしい給食とは言えないです」

ただ、もちろん無償化によるメリットもある。

「給食費未納が多い地域では、予算不足で質に影響が出ることもありました。無償化になったことで一定の予算が確保されたので、献立計画が立てやすくなったのはメリット。ただ、不登校やインターナショナルスクールに通う生徒の給食費の扱いなど、新たな事務作業が発生している面もあるのですが……」

自治体による給食格差で食育が崩壊するリスクも

また、給食バランスが崩れ始めてしまったのは、コロナ禍での「簡易給食も原因になっている」と続ける。

「コロナ禍では感染症対策で給食当番が禁止され、担任が配膳役を務めるために品数や食材の種類が削減されました。それが物価高騰の中で、コスト削減の手段として定着しつつあり、サラダやデザートが削られて主菜と副菜の“2品献立”が目立つようにもなった。それがきっかけで、学校栄養士たちの『必要栄養素は厳守せねば』という意識が低下したんです」

さらに松丸氏は「給食による食育の機会を損失するリスクもある」と警鐘を鳴らす。

「無償化は給食費未納問題の解決には繫がったものの、自治体によって予算に格差があるのは問題。各自治体に丸投げするのではなく、国が主導して給食の質を一定水準に保つべきでしょう。政府は給食費無償化の動きを推し進めていますが、持続可能な制度設計も急務です」

無償化により負担が増える調理現場にも目を向けたい。

【学校栄養士・松丸 奨氏】
’13年、給食の献立を競う「第8回 全国学校給食甲子園」で優勝。海外でも食育指導を行う。近著に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎)

取材・文/週刊SPA!編集部



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