『パラサイト 半地下の家族』(19)で韓国映画として初のカンヌ国際映画祭パルムドール、非英語作品として初のアカデミー賞作品賞を獲得するなど映画界で下剋上を成し遂げたポン・ジュノ監督。その待望の最新作となる『ミッキー17』(3月28日公開)は、すでに公開された韓国では初日から4日間で観客動員数100万人を突破、北米でも興収ランキング初登場No.1を飾るなど、早くも世界中を席巻している。
【写真を見る】ジブリへのオマージュも全開!未開の地にはちょっぴり愛らしい謎のモンスターがウヨウヨ
『TENET テネット』(21)など超大作で次々と主演を張ってきたロバート・パティンソンが、“どん底使い捨てワーカー”のミッキーを演じ、権力者たちに逆襲を仕掛ける本作。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、いまを生きる社会人たちが集結した試写会を実施!なんと「月の平均残業時間」が最長90時間という、ミッキー顔負けのブラックな職場で働くハードワーカーも参加してくれた今回の試写会で、来場者たちはミッキーの逆襲になにを感じたのか?上映後に書いてもらったアンケートの回答の一部を紹介しながら、本作の注目ポイントを探っていこう!
■どん底使い捨てワーカーの逆襲に「スカッと」した参加者が続出!
まずは本作のあらすじから紹介していこう。失敗だらけの人生からの一発逆転をかけ、契約書も読まないまま“夢の仕事”に従事することになるミッキー。しかしその実態は、身勝手な権力者たちから命じられる超絶ブラックな任務で命を落とし、そのたびに新たな身体で生き返らされ、また搾取されては死んで、生き返り…を繰り返す究極の“死にゲー”だったのだ!
そんな社畜な日々を繰り返すミッキーは、酷使されては死んでしまい、すでに17人目の“ミッキー17”に。ある日、労働の最中に生死の境をさまよう事態に遭遇したミッキー17は、命からがら帰還を果たす。ところが自分の部屋には、手違いによって生まれ変わったもう一人のミッキーこと“ミッキー18”の姿が!2人のミッキーが存在していることがバレたら、どちらも消されてしまう。絶体絶命のピンチをきっかけに、ミッキーは権力者への逆襲に挑んでいくことになる。
「期待どおり、それ以上におもしろかったです!!間延びすることなくテンポよくストーリーもす進し、内容も濃く、いろんな人間が個性的に描かれていてよかった」(30代・女性)
「想像を超えてきました。SFジブリコメディな感じが最高でした」(30代・男性)
「役者さんの演技がコミカルで楽しかった。世界観もおもしろかった」(30代・男性)
「予想外のストーリーでとてもおもしろかった」(20代・女性)
と、さすが“アジアのスピルバーグ”とも称されるポン・ジュノ監督。独特な世界観設定や随所に散りばめられたシニカルさとエンタメのバランスの良さ、そして想像の斜め上をいく展開の数々に絶賛の声が鳴り止まない。
来場者の実に過半数が「スカッとした!」と答えるなど、やはり参加者のハートをわしづかみにしたのはどん底から大逆転を狙うミッキーの奮闘ぶり。何度も死んで何度も生まれ変わるという経験をした人はもちろんいないはずだが、それでも上司の理不尽な要求や時に逃げ出したくなるような過酷な労働環境は、決して他人事とは思えないようだ。
「自分の生活と比較して共感できるシーンもあり、後半はずっと応援しながら観ていた」(30代・女性)
「不条理に立ち向かうため、いま一度自分と向き合う勇気をもらえる作品です」(30代・男性)
「いまは転職してホワイトな環境だから笑えたけど、ブラック勤めなら泣くかも」(20代・女性)
■社畜なミッキーに共感し、クズな権力者たちに怒りむき出し!
来場者のほとんどが共感したのは、もちろん主人公のミッキー。といっても、劇中には“ミッキー17”と“ミッキー18”の2人のミッキーが登場する。お人好しで気が弱く、なにをやらせても全然ダメ。でも妙に憎めない、どこにでもいそうな等身大の青年である“ミッキー17”に対し、プライドが高く正義感が強すぎるあまりちょっぴり攻撃的だけど、それでも人間味あふれ、思わず憧れてしまいたくなる“ミッキー18”。
“ミッキー17”派か“ミッキー18”派かは、本作を観たあとにきっと誰もが語りたくなること間違いなしの究極の選択。実際にアンケートを取ってみたところ、その結果は見事に半々。なかには「どちらも好き」と答える人もいたり、劇中にメインで登場しない“ミッキー16”以前を推す人も。 「人は誰しも二面性を持っていて、そのどちらが強いかで人間性が作られるんだろうなと思った」(女性・未回答)というコメントにもある通り、どのミッキーも同じ人間の異なる面が強調されていると考えれば、ポン・ジュノ作品らしい人間の描き方といえよう。
「ナイーブながらもどこか軸のブレない誠実さ。のび太みたいでかわいかった」(20代・男性)
「17はとても等身大。18は理想。18はカッコいい。でも17の気持ちすごくわかる。」(20代・男性)
「気弱だけど優しく愛らしいキャラクターでした」(20代・女性)
「かわいすぎる。ミッキー18が世話焼くのもわかる」(20代・女性)
「いままでのロバート・パティンソンにないキャラクターでおもしろく、愛着がわくキャラクターだった」(30代・女性)
と、“ミッキー17”に母性本能をくすぐられる女性が続出。
一方で、 「17と同じ人とは思えないくらい個性があってよかった」(30代・男性)や「自分の手で運命を変えようとしていたから」(20代・男性)など、男性は“ミッキー18”のカッコ良さに惹かれる人が多い印象だ。ちなみにどちらのミッキーも、パティンソンが演じている。「1人のロバート・パティンソンが演じているとは思えない演じ分け、まったく別の人格がそこにあった」(20代・男性)と、一本の映画で正反対の役柄を演じるパティンソンを楽しめるので、ファンにはたまらない贅沢な映画体験となることだろう。
■権力を振り回すブラック企業トップたち。クズすぎて逆に魅力的?
すっかりミッキーに心奪われ共感した参加者たちは、悪行三昧のブラック企業トップに怒り心頭!どこまでも強欲で承認欲求が強く、自分の得しか考えていないマーシャル(マーク・ラファロ)と、その妻で見るからに性格が悪そうで虚栄心の塊であるイルファ(トニ・コレット)。まるでブラック企業のコンプライアンス相談窓口のように、彼らの行動のひとつひとつにムカついたという声が多数寄せられた。
「いい意味ですごくイライラした。クズすぎるのすごい」(20代・男性)
「見栄を大事にする役柄がとても魅力的だった」(20代・男性)
「この映画の一番の見どころ」(30代・女性)
「マーシャルの馬鹿馬鹿しいスピーチと、壮大な音楽の掛け合わせが最高におもしろかった」(20代・女性)
なかでも2人の“クズっぷり”が目立つと大きな反響を集めたのは、月に一度マーシャルから選ばれた労働者が参加できるという食事会のシーン。それに選ばれたミッキーだったが、実は彼は単なる毒味役。食事の最中に床に倒れ込み、嘔吐までして死の一歩手前になってもミッキーの社畜根性が炸裂!彼を使い捨ての道具としか思っていないマーシャルに、ミッキーよりも高級絨毯が汚れないか気になって仕方がないイルファ。その光景に、思わず涙してしまったという人も…。
「ひどい扱いをされても反論できず、むしろ感謝を述べるところ」(20代・男性)
「普段言い返し慣れていない、のみこむクセがあると、とっさに言いたいことが出てこないというのがすごいリアルに(?)あるあると思った」(20代・女性)
「クズすぎておもしろかった。程度はあるけど、こういう人っていますよね…」(30代・男性)
さらに2人の行動は、終盤に向かうにつれてエスカレート。そのあまりの傍若無人っぷりに、 「自分がしたいことを他人に迷惑かけて、しかもその責任をとらない人っているよなと思った」(20代・男性)や「人間としての風上にも置けない。人間じゃない」(30代・男性)という辛辣な言葉も飛びだすほど。彼らの悪行の数々は、実際に劇場でその目で確かめてほしい。
■ジブリっぽさも感じる、愛嬌たっぷりの不思議なモンスターに人気が集中
敵役であるマーシャルとイルファ以外にも、劇中にはミッキーを取り巻く個性的で魅力的なキャラクターが多数登場する。彼らを推しキャラとして選ぶ人も少なくなかった。
まずはミッキーが最も頼りにし共に逆襲をかけるソウルメイトのナーシャ。演じるのは『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』(22)で主演を務めたナオミ・アッキーだ。
「自分で自分の人生を切り開いていく感じが好きでした」(20代・女性)
「女性として、男性、しかも自分より立場が上の人に、あれだけ強くものを言えるのはカッコいい!」(未回答・女性)
また、『あのこと』(21)のアナマリア・ヴァルトロメイ演じるカイは、ミッキーの友人でありながら彼に言い寄る役どころ。「ミッキーをコピーされた人間ではなく、“人”として接してくれていた」(30代・女性)や 「自分に一番似てると思った。ちょっとしたことでも自分の信念に反する行いはゆるせないあたり」(20代・女性)と、気弱なミッキーを支える強い女性キャラに人気が集中。
さらに「ウォーキング・デッド」やポン・ジュノ監督の『オクジャ/okja』(17)、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『ミナリ』(21)などで国際的に活躍するスティーブン・ユァンが演じる、ミッキーの腐れ縁でひと癖もふた癖もあるパイロットのティモには、マーシャル&イルファ同様「クズだ」という声がありつつも、不思議と好意的な声が目立つ。
「カッコいいスティーブン・ユァンしか見たことがなかったので、クズな役は新鮮でした」(30代・男性)
「クズで一貫してて好き」(20代・男性)
そして、「最初気持ちが悪かったけど不思議とすごい可愛く見えました」(20代・女性)や「かわいい!!ぬいぐるみほしいです!!」(30代・女性)とメロメロになる声が続出したのは、ミッキーが出会う謎のモンスター、クリーパー。『グエムル 漢江(ハンガン)の怪物』(06)の怪物や『オクジャ/okja』のオクジャのように、気持ち悪いのになぜか愛嬌たっぷりの不思議な生物が出てくるのがポン・ジュノ作品の定番。きっとクライマックスではクリーパーの魅力に取り憑かれているかも…?
■上司に『ミッキー17』を薦めて、労働環境が改善!?
さて「この映画を職場の人に薦めるなら?」との質問には、ハードワーカーたちの本音が次々と飛びだす結果に。新卒で入社したブラック会社の同期たちに「あの時の“私たち”の話だよ!」(20代・女性)と伝えたいという声や、これから社会人になる友人に「常に社会にいる限り、僕たちは誰かを食い物にしているというメッセージを伝えたい」(20代・男性)と、劇中のブラック企業を完全に自分ごととして捉えている人が多数。
また、同僚や後輩に対して
「ちゃんと契約書を読まないと大変なことになるから気をつけろ!」(20代・男性)
「まだがんばれると思える」(30代・男性)
「使い捨てられる前に逃げる方法がわかる映画」(20代・女性)
と、厳しい労働環境を乗り切るためのヒントになる作品だという声もあがる一方で、ミッキーのような逆襲に繰りだす前に上司に警鐘を鳴らそうと企てる人も。
「部下の声に等身大で向き合うべきと伝えたい」(20代・男性)
「ひどい上司のもとで使い捨てで使われるどん底おちこぼれの復讐劇です。部下は大切にしましょうね」(30代・女性)
「(会社の社長に)とてもおもしろいですよ。共感できるかはわかりませんけど」(30代・女性)
■ポン・ジュノ監督らしさが詰まった、まさに集大成
『パラサイト 半地下の家族』と同様に上下格差をテーマに、『スノーピアサー』(13)のようなどん底からの逆襲を、魅力的な登場人物たちとユーモアも交えながら描く本作はまさにポン・ジュノ作品の集大成!
「シリアスとコメディの絶妙なバランス。人間を人間たるものとしてエモーショナルに描くのがうまい」(30代・男性)
「おろかで利己的な人間をコメディタッチに描くのに、不快感のない不思議さが大好き」(20代・女性)
「メッセージ性の強さ!天才だと思う」(30代・女性)
と、ポン・ジュノ監督のファンからも熱烈な支持を獲得。
はたしてミッキーの逆襲は成功するのか? 「テンポが良く飽きる隙がない。必ず思いもよらない展開になって、予想がつかない」(20代・女性)という声もあがる“逆襲エンタテインメント”をスクリーンで目撃し、スカッとした状態で新年度を明るく楽しく迎えよう!
文/久保田 和馬
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