「親の面倒は子が見るもの」という価値観が、私たちを苦しめる――。求められる仕送り、消耗する介護に、心身の疲労が蓄積し、もう疲れたと自ら望んで家族関係をフェードアウトする人々が増加中だ。その切実な胸の内を聞いた。
息子から家族の縁を絶たれた母
「今後は我々が見守り安否確認をすることになり……」
昨年4月、家族代行業者の電話で説明されたのは徳島県で一人暮らしをする田中美紀恵さん(仮名・71歳)。言わば“家族の縁を絶たれた”側の立場だが、「少し涙が出ましたが、すぐに納得はできたんです」と語る。
「息子が大学進学で上京後に旦那が亡くなり、奨学金を背負わせたし、社会人になってからは女性一人で生きるには生活も厳しく、仕送りをもらい負担をかけていた。帰省も3年に一度が、5年、10年と空き……。心配になってメールを送れば『元気だよ』ぐらいは返ってきたけれど、最近は返事もなくなっていたんです」
決定打になった10年前の事件
思い返せば、決定打になった事件もあったという。
「10年前、息子家族が来て親戚一同が集まった際、“田舎の中高年”の我々の振る舞いに、息子の子どもが『怖い……』と言い、義理の娘も表情が引きつっていた。後日、少し息子と電話で口論になったときも、『母さんとは住む世界が違うんだよ』とも言われました。こうやって生まれた違和感は、距離が遠いほど、年月がたつほど深くなっていたのかもしれませんね……」
昨年の夏、田中さんが新型コロナ感染から体調を崩し、肺炎で入院。代行業者に連絡したとき、「少しだけ期待感はあった」と話す。
「もしかしたら見舞いにくるかも、と。でも、届いたのは業者からの事務的な『必要なものがあれば手配致しますので、お申し付けください』の一文のみ。退院後、妙にさっぱりした気持ちになって、後日、業者と終活の話もしました。お金まわりのこと、自分がもし認知症になったときのこと、こちらの希望も息子側に伝えてもらう約束も済ませました。自分が産んだ子ではあるけれど、もう他人なんだな……と思えるようになりました」
幸いにも、田舎には中高年の友達も多く、「残りの人生を楽しみたい」と前を向く田中さんだった。
取材・文/週刊SPA!編集部
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