退去時に補助金アリ賃貸物件の落とし穴「エアコンも給湯器も壊れた」

好条件に釣られて契約した取り壊し予定物件。取り壊しまで問題なく入居できるはずだったが、予想外の事態が待ち受けていた(※写真はイメージです。本文の建物とは関係ありません)

退去時に補助金アリ賃貸物件の落とし穴「エアコンも給湯器も壊れた」

3月16日(日) 0:02

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受験シーズンも終わり、4月から新体制に向けた転勤も活発化するこの季節。2月、3月は引越しのハイシーズンで、繁忙期を迎える。

新居を借りたり、あるいは購入したりする人も多い季節だが、それに伴い不動産トラブルもつきものだ。ここでは、世にも恐ろしい悪徳不動産にハマってしまったエピソードをお届けする。

退去時の補助金目当てで取り壊し予定物件に入居したが……

被害に遭ったのは、42歳で広告代理店に勤める会社員Aさん。2023年5月に東京都の再開発指定エリアで一軒家を借りた。既に再開発は活発に行われており、3年以内には取り壊される予定の物件だった。

取り壊し予定物件に入居するメリットは、家賃が相場より安く、早期退去を前提としているため、敷金、礼金なしで借りられる場合もある。特に都市部では最大5割程度安くなることもあるという。また、解体されるため自由なDIYも許可されることが多いなどの利点が挙げられる。

デメリットとしては、取り壊し時期がオーナーの都合で早まった場合は突然退去を求められたり、設備や建物の老朽化が放置され修理されないことも多い。

Aさんが入居した物件は、2階ロフト付きの2LDK(71平米)で築20年以上。北欧風の設備で揃えられ、床は大理石で、日差しを取り込む天窓もある。吹き抜けの螺旋階段もあり、まるでハウススタジオのようだった。細い路地に位置しているものの、クルマを保有しないのであれば立地も悪くない。駅徒歩5分で、近くには24時間営業のスーパーやドン・キホーテもある。商店街も充実しているので、家賃22万円は割安に感じる物件だった。

ここに決めた主な理由は、再開発の立ち退き補助金。不動産仲介業者Bからは「取り壊しが決定した際、最後まで居住していれば立ち退き費用と補助金を受け取れる」と説明を受けたのだ。

Bからの説明は次のとおりだった。

「立ち退き費用は、次の引越し先の初期費用を十分に賄える金額になる」、「洗面台などの設備を新しくした場合、購入相当額を補助金でもらえる」

再開発や公共事業による立ち退きでは、入居者にも引っ越し費用の実費と移転補償費または住宅移転費補助金として現家賃の最高6か月分、場合によっては敷金、礼金、仲介手数料を補助してもらえることがある。Aさんの場合はさらに、家のエアコンなどの設備は残置物扱いにするので、所有物にして良いとも説明された。

エアコン3基にシーリングファン2基、シャンデリア2基だけでなく、吊り下げ型のBOSEスピーカーも2基ある。洗面台なども取り外してメルカリなどに出品すれば、それなりの値段で売れるだろう。総合的に見ると、おトクでしかない物件だった。

「契約前に少し気になった点といえば、すべての設備が残置物扱いになるということでした。取り壊しが決まっているため、今さら直すのは大変なので、設備のメンテナンスには多少目をつぶってほしいという説明でした」

とAさんは振り返る。

一抹の不安もあったが、不動産仲介業者からは「家が住めない状況になったら退去できる」とも説明を受けたので、Aさんは契約を決意した。ところが……。

エアコンをはじめ各設備が全て故障。補修作業で35万円が飛ぶ

引っ越しも終わり、いざ新生活を始めようとしたAさん。しかしその矢先に、数々のトラブルに見舞われ続けた。5月の初夏の時期にもかかわらず、リビングのエアコンから冷風が出てこない。最初から壊れていたのだ。さらにキッチンの排水管からは、汚水がジャバジャバと噴き出しているではないか。

天窓のスイッチも壊れていて開かない上に、トイレと洗濯機置き場の換気扇も故障している。インフラが整ってはじめてわかるような設備不良が多数見つかったのだ。

ほかにも、清掃をすると言っていたはずなのに、階段に敷かれたカーペットは黒ずみ悪臭を放っている。床の大理石も割れている箇所がいくつもある。よく見ると、シンク下の化粧板も長年の汚水でベロベロに剥がれており、見るに堪えない状況だった。

そこからAさんは、毎日のように補修作業に追われることになった。時間もカネもかかったが、「これくらいのことであれば……」と我慢しながら、2か月間かけてようやく生活環境を整えた。

エアコンに関しては、交換費用が高額なため、ロフトのエアコンを使ってリビングに冷気を送り込むことで、なんとか夏をやり過ごした。

「補修に予想以上にお金がかかってしまったため、しばらくは出費を抑えながらの生活になりました。それでも十分に快適な住環境を整えることができたと考えていました」

しかし、1年6か月経過した2024年10月末に、ふたたび悪夢がAさんを襲う。生命線とも言える給湯器が壊れたのだ。この時期の平均気温は、最高気温が19度、最低気温が13度前後。日中は暖かいものの、朝晩は冷え込みが激しい。

リビングのエアコンが壊れているので、冬はガス式の床暖房に頼っていたが、給湯器が壊れたことでそれも使えない。ロフトのエアコンを使っても暖気は上に上がっていくばかりで、リビングが温まることはない。生活する場所は、エアコンのある寝室に頼るしかなかった。

給湯器を取り替えようにも、同等品の見積もりを取ると35万円以上もする。

「それであれば、『住居として機能しない場合は退去可能』という話の通り、立ち退き料だけもらって次の引越し先を探したほうが賢明だと思い、退去を決めました」

退去費用の補助につられて、入居してハマった無限の設備補修地獄。Aさんの受難はそのあとも続くが、甘い話には罠がある典型と言えそうだ。
<取材・文/ MySPA!特別取材班>



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