2月15日京都サンガ戦でJ1初勝利を挙げ、記念撮影する岡山イレブンとサポーター
J1昇格初年度にしてホーム3戦は2勝1分けといまだ負けなし。その強さの理由をサポーターに聞いたところ、ほかのチームとはひと味違う愛に満ちた答えが返ってきた!
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■ファジサポがホーム戦を支える!
岡山が盛り上がっている。
お笑い界では岡山弁の千鳥がメディアを席巻。今年のドジャース開幕投手を務める山本由伸選手も岡山出身。昨年末の紅白でのサプライズ出演が話題になったB'zの稲葉浩志氏もまた岡山出身だ。
この勢いに乗じてか、16年間J2で研鑽を重ねてきた「ファジアーノ岡山」が昨年、念願のJ1初昇格を決めた。ファジアーノ岡山は財力のある大企業スポンサーを持たない、まさに地元が育て上げた市民チーム。そんな地元密着のチームが巻き起こしているフィーバーぶりを現地で取材してきた!
ホーム戦のチケットは連日完売。プラチナチケットとなっている
岡山両備タクシーのファジアーノタクシーが街中を走るなど盛り上がりを見せる
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「ファジがおってくれるから、うちらは今も店が続けられるんよ」と記者に話してくれたのは、JR岡山駅近くの「奉還町商店街」でたこ焼き店を営む高齢の女性店主。
「ファジ」とはもちろんファジアーノ岡山のこと。岡山ではみんなファジの愛称で呼ぶ。ちなみに、ファジアーノ(Fagiano)とはイタリア語で「キジ(雉)」の意味。キジは岡山に古くから伝わる桃太郎伝説で鬼退治に活躍したとされ、岡山県の県鳥に指定されている。
話は戻って、この奉還町商店街は岡山駅とファジの本拠地「JFE晴れの国スタジアム」までの間にあるレトロな商店街。普段は人通りがまばらだが、ファジの試合のある日はサポーターでいっぱいになる。
商店街でサポーターが集まる店として有名なのが「奉還町山金リカーズ」。酒店がやっている立ち飲みの店だ。店長の豊田泰士さんにファジの話を聞いた。
「Jリーグのチームでは珍しく、スタジアムが新幹線の駅から歩いて20分ほどで行ける近い場所にあるんです。対戦相手のサポーターさんにも便利だと好評です。試合後は双方のサポーターが仲良く飲んでますね。ほかのチームはよくわからないのですが、ファジサポーターは温かく誰でも受け入れてますよ」
このような道中のフレンドリーな商店街を経てやって来たのが、ファジの本拠地JFE晴れの国スタジアム。この日の対戦相手は強豪ガンバ大阪だが、見事ファジがガンバを2-0で破った。
これで昨年からホーム7連勝(その後清水エスパルス戦で引き分けたものの、現在ホームでは直近8戦負けなし)。ファジサポの高揚のままに「なぜこれほどまでにホーム戦に強いのか」を聞いてみた。
まずは、母娘の親子で応援に来ていたふたり。
「長年の温かいサポーターが多いからでしょうね。私は17年目です。結婚した年にJ2に上がり、その年から応援し始めて、翌年にこの子が生まれました。赤ちゃんのときから一緒に応援に連れてきて今もう15歳。
もっと言うと、おじいちゃんおばあちゃんも一緒になって一家3世代で応援している家も多いんです。私、介護施設で働いているんですが、テレビでファジの試合がある日には、施設のおじいちゃんおばあちゃんがテレビの前に集まって応援しています」(母)
――ズバリ、ほかのチームにはないけど、ファジだけにあるものはなんでしょう?
「温かさ」(娘)
「愛」(母)
続いても家族サポーター。姉妹に聞いた。
「選手がいつも岡山のことを思っていてくれるから、その気持ちに応えたくて応援しているんです」(姉)
「岡山で水害があったときも、選手が被災現場に行ってみんなを励ましてくれたりしていたんで、ありがたいなと思いますね」(妹)
――選手が身近な存在であると?
「たまにコンビニで選手を見かけたりします。そんなときは直接声をかけずに、友達にLINEで『○○選手を今どこどこのコンビニで見かけたよ』って送って、盛り上がってますね」(姉)
サポーターの並々ならぬ愛がわかったところで、ふとスタジアム周辺を見渡すと、変わった光景が。スタジアムを取り囲むように駐輪場があり、大量の自転車が止めてあるのだ。5人組のママチャリサポーター軍団に話を聞いた。
「自転車は渋滞に巻き込まれないし、約束した時間にちゃんと行ける。それに自転車はお金がかからない。ここの駐輪場は無料だし、車みたいにガソリン代もかからない」
――みんな自転車で来るということはご近所さんなのでしょうか?
「全員家から自転車で片道30分以上かかります」
「うちは10㎞離れてます」
――なかなかハード......。
「浮いたお金はファジに使って、運営資金として協力。ファジをもっと強くしてもらおうというわけです。ほかのJ1チームみたいに巨大企業スポンサーがついてないんですよ。岡山の地元企業や市民がみんなで少しずつ協力して、ここまで大きくなってくれた。
もし、ほかのチームみたいにお金があったら、私らもここまで応援したかどうかわからん。私たちがなんとかしなきゃって感じになるんです」
さらにほかのママサポーターはこんなことを語ってくれた。
「ファジサポーターのいいところは、絶対に選手にブーイングをしないところです。選手がミスをしてもすごく優しいんです。『大丈夫だよ』と。負けた後も『また次頑張ろうぜ』って。そういうところがすてきですよね」
ビアバークラフトレインボーで勝利の祝杯を挙げるファジサポたち
場所を変えてやって来たのは、ファジサポーターが集まるビアバー「クラフトレインボー」。マスターの井坂成保さんは岡山のサッカーを盛り上げようと、9年前にサッカーファンが集まるこの店をオープンさせた。そしてここでも、サポーターからいい話が。
「10年前、当時70代だった父に『一緒に応援行くか?』と声をかけたら父がハマってしまって(笑)。今はもう年を取りすぎて難しいですけど、数年前までしょっちゅう一緒に観戦に行ってました。
父となかなか一緒の趣味を持てなかったんですが、ファジのおかげで、晩年の父と一緒に楽しい時間を過ごせたと思ってます」
■応援したくなる真面目なチーム
ここまでの話をもとに、ホームに強いファジを支えるサポーターの特徴をまとめるとこんな感じ。
①赤ちゃんから祖父母世代まで幅広い年齢層。
②決して選手たちをヤジることのない温かさ。
③大きなスポンサーに頼らない手づくり感。
スタジアムの救護班を務める渡邉久美子さん。タイ料理店「ドチェチェ」も営む
息子の渡邉 鮎さんも長年のファジサポだ
この3本柱について、さらなる分析を加えてくれたのは、スタンドで急病人などが出たときの対応をする「救護班」の設立に関わり、今も救護班スタッフを続けている看護師の渡邉久美子さんとその息子の渡邉 鮎さん。
「今振り返るとチームは子供を大事にしてくれていたなと思います。小学生が無料で観戦できる『夢チケ』という無料チケットを配ったり、年に何回かファジの選手が学校に来てサッカー教室も開いていた。サッカーに興味のない女子でも『ファジアーノ』というチーム名ぐらいはこれで覚えたはずです」(鮎さん)
――ヤジが飛ばない理由として思い当たるところは?
「ファジのサポーターにしてみると選手は家族や親戚みたいなものなんですよ。親は子供が悪いことをして怒ったとしても、最後に子供の味方をするのは当たり前。そんな感覚がファジサポーターにはあるんだと思います。
なので、スタンドはいつも穏やか。安心、安全という感じで小さいお子さん連れや女性、お年寄りも足を運べるんです」(久美子さん)
「あとは、お金がない中でも応援してくださる地元企業スポンサーさんのことを意識してか、選手もクリーンで真面目な選手を獲っている印象です。
確か一昨年前まで、選手に茶髪禁止が言い渡されていたぐらいです。今は禁止令はなくなったようですけど、地元企業や市民に愛されるチームづくりをしようとしている印象ですね」(鮎さん)
――このまま昇格初年度の快進撃もありそう!?
「いやいや。ファジってこれまで2万人以上の観客の前で試合したことがほとんどないんです。これから5万人近く入るスタジアムでやるとき、どうなるんだろうって心配です」(鮎さん)
謙虚さと愛に満ちたサポーターのおかげで岡山はホームで勝利を重ね続けられているようだ。今後の戦いからも目が離せない!
取材・構成/ボールルーム撮影/加藤 慶写真/時事通信社(サンガ戦)
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