自殺で命を落とす者たちがいれば、未遂で生き永らえる者たちもいる。“死ねなかった”人々はどんな後遺症を抱え、その後どのような人生を歩むのか。彼らの声に耳を傾け、“生きること”の意味を考える。
家族を失った“自死遺族”「父と同じ年齢まで生きられるのか」
自殺で苦しむのは本人だけではない。38年前、まだ13歳のときに父親を自殺で亡くし、現在は自死遺族として講演活動を行う田口まゆさん(51歳)に実情を聞いた。
「父は突然失踪し、7日後に兵庫県の山中で発見されました。死因は自動車内での練炭自殺による一酸化炭素中毒。後日、お骨が山口県の実家に戻ってきて、母が骨壺にすがって泣く姿を見て、ようやく父の死の実感が湧きました。遺書はなく、父が死を望んだ理由は不明ですが、親族によると祖母の借金の返済に奔走してたとか。父が大好きだっただけに悲しみは大きかった。ただ、父の自殺のせいで一人で家計を切り盛りすることになった母の憔悴しきった姿を見ると、『なんで勝手に……』と恨めしくもありました」
その後、年を重ねるごとに強まる不安感があったという。
「自死遺族にありがちなことのようですが、『父が死んだ39歳まで私も生きられるのか』という漠然とした不安をいつも抱えるように。その影響からか、小さなきっかけで車で浅い川に飛び込んでしまった過去もあります」
父の自死後に、周囲の無理解に苦しんだ
自死遺族への周囲の無理解に苦しんだ経験もあるという。
「小さな町だったので、父の自死のことは近所の人はみんな知ってたんです。そのせいで、葬儀後に登校すると、担任から『これだけの騒ぎを起こしたんだから、“これからもよろしくお願いします”と皆に言いなさい』と強制されたり。親しかった友人とも疎遠になってしまいました」
こうした経験から、田口さんは現在、自死遺族に向けられる差別や偏見をなくそうと講演活動に励んでいる。
「話を聞きに来た遺族からも、『どんな憶測を持たれるかわからないから家族が自殺したと言えない』という苦悩をよく打ち明けられます」
遺族は大切な人の死への悲しみだけでなく、差別や偏見にも追い詰められているのだ。
【田口まゆさん】
’11年にNPO法人「Serenity(セレニティ)」を設立。自死遺族への差別や偏見をなくす社会の実現を目指し、講演を中心に活動している
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取材・文/週刊SPA!編集部
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