星野伸之インタビュー前編
オリックスの現状と新戦力
リーグ3連覇から一転、昨季は5位に低迷したオリックス。今季は岸田護新監督のもと、虎視眈々と巻き返しを図る。長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、チームの現状や新戦力などについて語ってもらった。
ドラフト1位でオリックスに入団した麦谷祐介photo by Sankei Visual
【野手の期待のルーキー、チームのカギを握る選手は?】――今季のチーム状況をどう見ていますか?
星野伸之(以下:星野)ドラフト1位ルーキーの麦谷祐介(富士大)とドラフト4位ルーキーの山中稜真(三菱重工East)が入って、外野の争いが激しくなってきましたね。特に山中は、キャンプや対外試合などでいい動きを見せていました。
一方で第1クールを視察したとき、杉本裕太郎の調子が上がってきてないのが気になりました。体重をかなり落としたみたいなのでそのあたりの影響が出ているのかもしれませんが......。杉本が打てないとなると、肩や足で上回る麦谷や、バッティングで結果を残している山中のチャンスが増えそうです。山中はキャッチャー登録ですが、ほぼ外野でしか使わないという方針のようですし。
――麦谷選手のここまでのプレーはいかがですか?
星野1番で出場していた試合で、早く追い込まれてしまった後に「どうなるかな?」と思って見ていたら、結果は粘ってのフォアボール。足もありますし、出塁が求められるタイプだと思うのでその点はよかったかなと。3月11日の中日戦では、髙橋宏斗の力のある真っすぐを左中間や右中間に弾き返していましたし(2本の二塁打を記録)、いいものを見せてくれています。
ただ、打つほうは絶対にどこかで壁にぶち当たります。今のピッチャーは動く球を投げたり、同じスライダーでも曲がりを調整したり、制球力も含めて面くらう部分はあるでしょう。
――内野陣はどう見ていますか?
星野期待しているのは太田椋です。個人的にはセカンドに定着してもらわないと困る選手だと思っています。以前は、思い切りはいいけど淡泊だった打撃が、逆方向へいい打球を飛ばせるようになってきました。
あと、キャンプで見ていて元気だったのは、34歳の西野真弘。セカンドかサードなので、太田や宗佑磨の状態を見ながらの起用になると思いますが、昨年は312打席でしたが3割をマークしましたし、昨季に打席での粘りを見せていたのは西野くらいでしたから。彼の起用法がチーム浮沈のカギを握ってくるんじゃないかと思います。
【新加入の九里や本田にかかる期待】――新外国人選手はいかがですか?外野手のエドワード・オリバレス選手、内野手のジョーダン・ディアス選手が加入しました。
星野オリバレスは守備が心配ですね。バッティングもまだヒットが出ていないので(3月11日時点/以下同)不安ではありますが、外国人選手はシーズンに入って打ち始めることもありますし読めないところがあります。それはディアスに関しても同じです。
――新戦力といえば、広島から海外FA権を行使し加入した九里亜蓮投手も大きいですね。
星野ここまでのピッチングを見ていて思うのは、動かす球が多いこと。キャンプでは初日からブルペンに入って体は元気そうでしたし、体力面の心配はなさそうです。広島時代と同じように多くのイニングを投げてくれるとリリーフも助かりますね。山下舜平大の腰の状態が心配ですし、先発陣に九里が加わってくれたことは本当に心強いと思いますよ。心配なのは田嶋大樹です。
――田嶋投手は、腕が横振りになっていますね。
星野今までの投げ方だと、うまく力が抜けなかったんだと思います。どうしても力んでしまうからか5回か6回しか持たなかった。脱力してリリースの瞬間に力を集中できれば、球数を増やせると考えているのでしょうが......腕の振りが、以前よりも鋭くないんです。なので、うまくいかなければ以前の投げ方に戻して、"5回全力"みたいな先発でもいいのかなと。
ほかの先発では、椋木蓮もキャンプで見た限りではよかったです。トミー・ジョン手術をする前からいい球を投げていましたし、カットボールを独自で改良した「ライズカット(浮き上がるような軌道)」と呼んでいる球が割としっくりきているようです。心の支えになるような球種がひとつでも増えると、ピッチャーにとっては大きいですよ。
――高卒2年目の左腕・東松快征投手は投げっぷりがいいですね。
星野真っすぐは150km出ていますし、スライダーやフォークも武器になります。期待はされていると思いますが、もう少し結果を残してからじゃないですか。ファームでも、まだそこまでいい成績を残していないので。ただ、若い選手は急激に伸びたりしますし、同じ左腕の宮城大弥の例もありますからね。まずはビハインドの場面で投げさせてみても面白いかもしれません。
【リーグ3連覇時のような競争を】――吉田輝星投手や宇田川優希投手らリリーフ陣は故障者が多いだけに、昨年の現役ドラフトで加入した本田圭佑投手(元西武)の活躍も期待したいところですね。
星野本田はキャンプ中、ブルペンで一度投げ終わってから課題を洗い出し、投球フォームなどをチェックしていたのですが、ものすごく細かくチェックしていたんです。西武でもいい働きを見せていましたが、やはりそれなりの心構えがあるんだなと。
あと、ルーキーですが山口廉王(ドラフト3位)はいいですね。193cmと長身の右投げで真上から投げ下ろす感じなので、山﨑颯一郎や宇田川の後釜みたいな感じです。山﨑があまりよくなければ、思い切って使ってみてもいいんじゃないかと。それくらい勢いのある球を投げていますからね。角度があると、バッターはアゴが上がり気味になりますし相当打ちにくいと思います。課題は制球力とランナーが出た時ですね。
――離脱者が多い分、若い選手たちにとってはチャンスも多そうですね。
星野そうですね。リーグを3連覇した時は、選手を競争させて「レギュラーは自分だ」などと安心させないようにしていました。それまであまり出場機会が多くなくても、「もしかしたら、明日は使われるかもしれない」と思っていた選手はけっこういたと思います、岸田監督も選手の競争に期待しています。
例えば、西川龍馬の調子が上がらなければ、レフトではなくファーストやDHで起用して頓宮裕真と競わせてもいいし、外野には麦谷や山中を思い切って使ってみてもいいと思います。とにかく野手もピッチャーも、実績のある選手でもうかうかしていられない状況を作り続けてほしいですね。
(後編:パ・リーグ順位予想打倒・ソフトバンクへ上位に進出しそうなチーム、心配が多いチームは?>>)
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2041奪三振を記録している。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。
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